[2023_07_12_09]東海第二「差し止め」控訴審初弁論 住民側は地裁判決維持求める 「避難計画の中身は『空』」(東京新聞2023年7月12日)
 
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東海第二「差し止め」控訴審初弁論 住民側は地裁判決維持求める 「避難計画の中身は『空』」

 日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)の運転差し止めを本県などの住民が原電に求めた訴訟の控訴審第一回口頭弁論が十一日、東京高裁で開かれた。住民側の三人が意見陳述し、運転差し止めを命じた水戸地裁判決の維持を求めたほか、弁護団が原発事故の被害の甚大さなどを主張した。住民らは高裁周辺で集会や記者会見を開き、「再稼働は認めない」などと訴えた。(竹島勇、長崎高大)
 この日は、元東海村議の相沢一正さん(81)、三人の子育て中の花山知宏(ちひろ)さん(46)=水戸市=、住民側の共同代表を務める大石光伸さん(65)=つくば市=の三人が意見を述べた。
 相沢さんは、一九七三年に東海第二の設置許可取り消しを国に求めた行政訴訟(原告敗訴)の原告の一人。この日は二〇一一年に起きた東京電力福島第一原発事故に触れ、「早い時期に反原発、脱原発の主張が通っていれば」と悔しさをにじませた。
 水戸地裁は二一年三月、東海第二の重大事故に備えた広域避難計画など防災体制の不備を理由に運転を差し止める判決を出した。原電と、訴えを退けられた東海第二の三十キロ圏の住民がそれぞれ控訴した。
 東日本大震災の発生時は第三子の出産直後だった花山さんは、東海第二の事故が不安でも避難できなかった当時の状況を振り返った上で、地裁判決が指摘した避難計画の不備について「(策定するべき三十キロ圏内の十四市町村の大部分で)避難計画はできていない。できたとしている自治体も、その中身は『空(くう)』の状態だ」と厳しく批判した。
 大石さんは「裁判官の皆さん、住民の人格権を守るという視点で(原電側の)控訴棄却をしていただけるようお願いします」と語りかけた。
 住民側弁護団は「司法審査のあり方」をテーマに弁論した。只野靖弁護士は、原発事故では「大量の被ばくは死に至る。極めて広範な地域に大量の放射性物質をまき散らす」などと例示。「他の科学技術のリスクとは質的に異なる危険がある」と強調した。
 鈴木裕也弁護士は、国際原子力機関が示す「異常が事故に拡大することを防止する」「事故がより拡大することを防止する」などの「五層の深層防護」の考え方が地裁判決では重視され、「第五層」である避難計画の不備を指摘することにつながったことから、「この判断枠組みが維持されるべきだ」と主張した。
 相沢哲(てつ)裁判長は九月一日に裁判官と原告、被告が裁判の進め方を話し合う進行協議を開くと決めた。(竹島勇)

 ◆開廷前に集会「思い伝えたい」

 「提訴から十二年。いよいよ高裁まで来た。なぜ東海第二原発を止めないといけないのか、今日は地域住民の思いを伝えたい」
 住民側の大石光伸共同代表は開廷前に東京高裁前で開かれた集会で、住民が直接、東海第二再稼働の弊害を訴える重みを説いた。
 当初審理を担当する予定だった永谷典雄裁判長に原発関連訴訟で国側代理人を務めていた経歴が判明し、住民側の批判もあって担当を外れた経緯に触れ、「今後の裁判でもこうした住民の監視が必要だ。毎回の法廷を住民で埋め、しっかり関心を持っていることを示して、うかつな判決を出させないようにしたい」と訴えた。
 「脱原発の哲学」の共著がある筑波大の佐藤嘉幸准教授も駆けつけ、「控訴審も住民の視点が反映されるような裁判にならないといけない。もし、住民の不安から目を背けるような、国の方を向いただけの判決が出れば、それは三権分立が存在しないことを意味する」と指摘した。
 住民らは集会後、「再稼働はみとめない!」と書かれた横断幕を掲げて東京高裁に入り、傍聴席で住民側の意見陳述や弁護団の弁論を見守った。
 閉廷後の記者会見で、この日の意見陳述に立った花山知宏さんは「再稼働に向けた工事が着々と進む中、ようやく控訴審が始まりほっとした。今日は裁判官に伝えたかったことを思い切り出せたので、清々とした気持ちだ」と話した。
 弁護団の河合弘之共同代表は、水戸地裁判決が「深層防護」の第五層を重視したことに触れ、「これを理由に原発を止めることが確定すれば、今後各地の原発差し止め訴訟は容易になる。その意味で、この裁判は特に重要な意味を持つ」と、改めて訴訟の意義を強調した。
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