[2023_06_09_03]「私が原発を止めた理由」 樋口英明元福井地裁裁判長の講演を聞いて (上) 原発事故が起きれば大企業の100年分の利益が吹き飛んでしまう 原発にコスト論は通用しない 原発事故で壊滅的打撃…大工場も中小企業も農業や漁業、林業も 先崎(まっさき)千尋〔茨城県、元瓜連(うりづら)町長、瓜連町は合併により今は那珂市です〕(たんぽぽ2023年6月9日)
 
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「私が原発を止めた理由」 樋口英明元福井地裁裁判長の講演を聞いて (上) 原発事故が起きれば大企業の100年分の利益が吹き飛んでしまう 原発にコスト論は通用しない 原発事故で壊滅的打撃…大工場も中小企業も農業や漁業、林業も 先崎(まっさき)千尋〔茨城県、元瓜連(うりづら)町長、瓜連町は合併により今は那珂市です〕

 
1.樋口元裁判長の講演

◎ 先月13日、東京の全国町村会館で、脱原発をめざす首長会議の総会が開かれた。茨城県からは、村上達也前東海村長と海野徹前那珂市長と私が出席した。
 総会の前に、樋口英明元福井地裁裁判長が「私が原発を止めた理由」という講演を行ったので、今号では、樋口さんがどのようなことを話したのか、それを私がどう受け止めたのか、樋口さんの著書『私が原発を止めた理由』(旬報社)の文も参照しながら報告する。

◎ 樋口さんは最初に、ロシアのウクライナ侵攻により天然ガス等が値上がりしたため、原発再稼働や運転期間延長の動きが起きていること、国家賠償棄却判決、東京電力株主代表訴訟で13兆円の賠償認定、水戸地裁での東海第二原発再稼働を認めない判決など、最近の司法界の動きに触れた。

 続いて、自動車や飛行機だって事故は起きるという原発推進派の言い分に触れ、「車は人間が止められ、止めればそれで終わり、安全になる。事故の範囲はごく小さいし、局部的。しかし原発は、止めても大量の水で冷やし続けなければならない。大事故の大きさは比類がない。一旦暴れ出したら誰も止めることができないゴジラのようなものだ」と、私たちにとって原発は怖い存在だということを話した。
 さらに、福島原発事故による損失額は少なく見積もっても25兆円で、東京電力の利益の100年分に相当し、ひとたび事故が起きれば大企業の100年分の利益が吹き飛んでしまうので、原発にコスト論は通用しないと述べた。

◎ 「コストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失と考える」(福井地裁大飯原発差し止め訴訟判決)。
 人の生命や生活の方が経済活動よりも大切だと、樋口さんは訴えている。

2.事故で壊滅的打撃

◎ 福島の事故からまだ12年。それなのに、岸田首相をはじめ、政府や東京電力も含めた財界、ひょっとして裁判官の大半も福島事故のほんとうの怖さを知らないのではないか、知ろうともしないのではないかと思える。
 東海第二原発がもし過酷事故を起こせば、周辺の大工場も中小企業も軒並み操業できなくなってしまうのだ。
 福島で分かるように、農業や漁業、林業も壊滅的な打撃を受ける。

 最近届いた環境経済研究所所長の上岡直見さんの情報によれば、東海第二原発で福島第一原発と同じ規模の事故が起きれば、首都圏の社会経済被害額はGDPで266兆円、不動産価値の毀損で329兆円、合計で595兆円になるという推計が出されている。

 民間調査機関の推計では、福島第一原発事故の社会経済被害は81兆円。東海第二原発は首都圏に近いので、損害、被害額はケタ外れに大きくなる。
 第二次世界大戦によるわが国の経済被害は、艦艇や飛行機などの軍事資産を除いた民間資産で、現在の価値に換算して573兆円だったそうだから、それを超える被害額になる。

◎ 日本原電の経常利益は福島事故前で50億円程度。一民間企業の利益のために、どうして600兆円近い損失リスクを冒すのであろうか。
 国は60年を超えた原発も動かそうとしているが、東海第二原発のような老朽原発の再稼働はなぜ許されないのか。
 「老朽原発は、老朽家電でも老朽自動車でもない。老朽大型飛行機に似ている。コントロール不能になってしまう。想定外の事故が想定できる。日本は、青森県六ヶ所村の再処理施設がいまだに稼働しないことから分かるように、高い技術力がない。能力もない」。 (下)に続く

 ※先崎氏の「崎」の字は、本来「たつさき」です。
  メールソフトから「機種依存文字」と指摘されるのでやむなく「崎」と表記させていただきます。
(『スペースマガジン』2023年6月号「葦の髄から」第82回より 了承を得て転載)
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