[2023_01_11_05]茨城県内原発 今年の行方 東海第二再稼働、なお不透明 30キロ圏内市町村、避難計画策定進展なし(東京新聞2023年1月11日)
 
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茨城県内原発 今年の行方 東海第二再稼働、なお不透明 30キロ圏内市町村、避難計画策定進展なし

 茨城県内の市町村や原子力事業者らでつくる「茨城原子力協議会」の新年パーティーが十日、水戸市内であった。東海第二原発(東海村)の再稼働を目指す日本原子力発電の村松衛社長はあいさつで、政府が原発の積極活用にかじを切ったことを歓迎。とはいえ、立地・周辺自治体で実効性のある広域避難計画策定は進んでおらず、一月末には運転差し止め訴訟の控訴審も始まる。関係者の期待感とは裏腹に、近く再稼働できる環境が整っているとは言い難い。(長崎高大)

 「昨年は原子力政策が大きく転換された年。今年はその変更をさまざまな形で実行に移す年だと思っている」。村松社長は壇上で、そう力を込めた。念頭にあるのは政府の原子力政策の転換だ。
 岸田文雄首相は昨年八月、従来の政府方針を改め、原発の新増設を検討すると表明。既に原子力規制委員会の審査に合格している東海第二を含む七基について、今夏以降に再稼働させる目標も掲げた。昨年十二月には、最長六十年の原発の運転期間から、審査や司法判断による停止期間を除外できるようにする案を示し、規制委も了承した。
 だが、東海第二が「今夏以降」にすぐに再稼働できる可能性は低い。
 まず、原電が再稼働の事前同意を県や立地・周辺六市村に求める大前提となる広域避難計画策定が進んでいない。策定義務がある県と三十キロ圏内の十四市町村のうち、策定済みは県と笠間、常陸太田、常陸大宮、鉾田、大子の五市町のみ。昨年一年間で新たに策定した市町村はない。
 二〇二一年三月の水戸地裁判決は、避難計画の実効性不備などを理由に東海第二の運転差し止めを命じた。今月三十一日には、東京高裁で控訴審の第一回口頭弁論が開かれる。
 県は策定済みの計画を見直す作業を始めている。原電は県の求めに応じ、事故で放射性物質が放出された場合の拡散シミュレーションを昨年末に提出。内容についての本格的な検証はこれからになる。
 大井川和彦知事はこの日のパーティーでのあいさつで、「安全性の確認」「実効性のある広域避難計画の策定」「住民への情報提供」の三要件がそろった後に再稼働の是非を判断するとしてきた従来の立場を繰り返した。
 原電は新規制基準に基づき、高さ二十メートルの防潮堤などの事故対策工事やテロ対策施設の工事を二四年九月に終える計画だ。
 村松社長はパーティー後の報道陣の取材に、政府の方針転換による工期の前倒しは予定していないと説明した上で、再稼働の見通しについては「まずは今の工事を無事故、無災害で達成するのが最大の課題」と述べるにとどめた。

 ◆原子力機構 高温ガス炉は試験再開へ

 岸田政権は既存の原発(軽水炉)の再稼働に加え、「次世代革新炉」と位置付ける新型炉の研究開発も急ぐ。県内では、日本原子力研究開発機構の大洗研究所(大洗町)にある高温ガス炉の実験炉「高温工学試験研究炉(HTTR)」が拠点の一つだが、昨年一月に着手した安全性実証試験は、三月に起きたトラブルで中断が続いている。
 高温ガス炉では、ヘリウムガスの冷却材で高温の熱を取り出し、発電や水素製造などに用いる。原子力機構の小口正範理事長は十日、茨城原子力協議会のパーティーで報道陣に「水素発生装置の研究と炉自体の安全性の高度化、この二つが今後の大きなテーマ」と説明。フル出力で冷却材を抜いても安全性を維持できるかどうか確かめる実験を年内に再開し、二〇二三年度中に終える考えを示した。
 政府は高速炉の実証炉開発も推進する。大洗研にある高速実験炉「常陽」は現在、原子力規制委員会で新規制基準の適合性審査中で、運転再開は二四年度以降と見込まれる。
 原子力機構の核燃料サイクル工学研究所にある東海再処理施設(東海村、廃止措置中)では、高レベル放射性廃液を「ガラス固化体」にする作業が、ガラス溶融炉のトラブルで昨年九月から中断。現行の溶融炉は今後使わず、二五年度を予定していた新たな溶融炉の導入を二四年度に前倒すことが決まった。このため、二三年度中は新たな固化体は製造されない見通しだ。
 量子科学技術研究開発機構の那珂研究所(那珂市)では、新たな大型実験装置「JT-60SA」で水素同士の核融合に必要な超高温の「プラズマ」を発生させる実験に向けた準備が進む。設備のトラブルによる延期が続いているが、年内に最初のプラズマ着火を目指す。(長崎高大)
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