[2022_10_07_07]社説:原発の運転規制 乱暴な見直し許されぬ(京都新聞2022年10月7日)
 
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社説:原発の運転規制 乱暴な見直し許されぬ

 「原則40年、最長60年」としている原発の運転期間規制を取り払ってしまおうというのは、あまりに乱暴ではないか。
 原発を最大限活用する岸田文雄政権の意向を受け、経済産業省は関連する法を改正し、運転期間を定めたルールを原子炉等規制法から撤廃する方向を示した。
 この方針について、説明を受けた原子力規制委員会は事実上容認する見通しを示した。
 東日本大震災の東京電力福島第1原発事故の反省から導入した安全規制の根幹が政治的思惑で後退し、なし崩しに運転延長の道が開かれかねない。これまでの経緯をないがしろにする政府や規制委の姿勢は認められない。
 政府は8月、将来的な電力の安定供給を理由に、次世代型原発の建設と併せ、原発の運転期間延長も検討すると表明した。従来の「可能な限り原発依存度を低減する」という方針から、参院選後に唐突に転じた「原発回帰」だ。
 経産省は規制委の会合で、原発再稼働を巡る規制委の審査が長期化している点にも触れ、審査中の稼働停止は算入せず、運転期間を実質的に延ばす考えを示した。
 運転期間の規定は福島事故翌年の2012年、原子炉等規制法の改正で導入された。原則40年で、規制委が認めれば1回に限り最長で20年延長できるとした。
 原子炉の劣化は未知数な部分が多いが、原発の建屋や機器、配管などの経年劣化を懸念するのは当然だろう。特に圧力容器は中性子にさらされ続け、もろくなっていくとの指摘がある。安全の目安をなくす動きは看過できない。
 さらに解せないのは、運転期間の上限を撤廃しようとする政府に対し、先月末に就任したばかりの規制委の山中伸介委員長が容認の姿勢を見せたことだ。
 山中氏は「上限を定めるのは科学的、技術的には不可能だ」とした上で、規制委としては、運転期間にかかわらず、安全性が維持されているかどうかを原発ごとに確認する仕組みを整えるという。
 延長については政策判断だと強調し、評価は避けた。原発推進の政府側と足並みをそろえたかのような印象だ。独立した立場で安全性を審査する規制委の対応として疑問を禁じ得ない。
 運転期間の制限撤廃は「安全神話」復活につながる恐れがある。年内に経産省は結論を出し、規制委側も対応方針を検討するという。老朽原発に対する拙速なルール変更は国民が納得すまい。
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