[2022_07_14_01]東電が津波を軽視した背景とは? 不祥事、経営危機…コスト重視で安全ないがしろに(東京新聞2022年7月14日)
 
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東電が津波を軽視した背景とは? 不祥事、経営危機…コスト重視で安全ないがしろに

 2022/7/14 06:00 2022年7月14日 06時00分
 東京電力福島第一原発事故の賠償責任を問われた旧経営陣4人に、東京地裁は13日の判決で総額13兆円超の支払いを命じた。原発を脅かす津波を軽視した背景には、東電が直面していた経営を揺るがす問題があった。コスト重視で安全をないがしろにしたツケは個人では背負えぬほど重く、原発を持つ電力各社と経営陣への警鐘となる。(小野沢健太、小川慎一)

 ◆不祥事に揺れた東電 保安院の指示に取り合わず

 判決で津波対策を講じるべき根拠とされたのは、2002年7月に政府の地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」。福島県沖でマグニチュード(M)8級の津波地震が発生する可能性があるとされ、東電は襲来するであろう津波の規模を見直す必要があった。
 当時、東電は不祥事で揺れていた。同年8月、福島第一などの原発で確認されていた原子炉のひび割れなどのトラブル記録を改ざんし、隠していたことが発覚。全原発の運転停止に追い込まれた。
 これとほぼ同時期に、経済産業省原子力安全・保安院(当時)から長期評価に基づく津波想定の指示を受けたが、東電は抵抗し、まともに取り合わなかった。

 ◆柏崎刈羽の停止で08年度には経営危機

 それから5年後の07年7月、新潟県中越沖地震が発生し、同県の柏崎刈羽原発が停止。翌08年度には経常赤字に陥り、経営危機に直面していた。
 08年3月、東電は長期評価に基づく試算で、津波高さが当初想定の3倍近い15.7メートルになるとの計算結果を得た。このときも、旧経営陣は自然の脅威に向き合うことはなかった。
 旧経営陣3人が業務上過失致死傷罪に問われた刑事裁判では、津波対策の防潮堤を新設する場合、「数百億円が必要」と試算され、幹部らも把握していたとされる。赤字状態の東電にとって重いコストが影響したことは否定できない。
 一方、日本原子力発電は同時期に東海第二原発(茨城県)で原子炉建屋に防水扉を設置するなどの津波対策を実施している。東日本大震災による重大事故を免れ、明暗を分けた。

 ◆「年4500億円の経常利益」計画は画餅に

 東電は事故収束や除染、賠償などで約16兆円の負担を背負っている。事業計画によると、費用捻出のため、30年度から20年間で年4500億円の経常利益を達成する必要がある。
 だが現実は厳しい。昨年度は449億円と目標の10分の1に満たず、原発事故前の記録が残る1994年度以降、1度も達成したことがない。計画は絵に描いた餅でしかない。
 今回の判決は経営に携わった個人にも賠償責任があるとした。賠償すべき額は1人当たり3兆3300億円で、2021年に開催された東京五輪・パラリンピック(大会経費約1兆4000億円)が2回開催できる規模だ。判決が確定した場合、支払いできる財産を持たない4人は自己破産を迫られる可能性すらある。
 政府は原発再稼働の推進を掲げるが、事故が起きれば、経営陣も賠償責任を負う可能性があることがはっきりとした。「原子力事業者には最新の科学的、専門技術的知見に基づいて、過酷事故を万が一にも防止すべき社会的、公益的義務がある」。判決の指摘は、東電を含む原発を持つ電力各社に向けられている。
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