[2023_08_04_05]原子力規制委の長期管理施設計画パブコメ締め切り間近(8/4まで) 中性子照射脆化の評価を東海第二原発では行わず 危険な原発を止めさせるためにあらゆる努力を (その2) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2023年8月4日)
 
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原子力規制委の長期管理施設計画パブコメ締め切り間近(8/4まで) 中性子照射脆化の評価を東海第二原発では行わず 危険な原発を止めさせるためにあらゆる努力を (その2) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 今回は、主要6項目として規制委が長期管理施設計画で確認、評価するとしている「中性子照射脆化」について意見を送る参考にしてもらいたい情報を記載する。

◎中性子照射脆化とは何か

 「中性子照射脆化」とは、鋼鉄製の圧力容器に当たる中性子が、材料中の元素を叩いて格子結晶構造を変質させることから起きる。
 つまり中性子照射を受けると金属材料がもろくなる現象で、金属材料が中性子照射を受けると規則的に並んでいた原子がはじき飛ばされたり、核変換により新しい原子が生成して原子配列が不規則になり、格子欠陥、ヘリウム気泡、析出物などが生じ、材質が硬化する。
 照射が進むと、材料はさらに硬くなっていき降伏応力が上昇し、材料の伸びが少なくなる。

 金属材料が照射を受けて脆化すると低温での衝撃荷重に対して著しく弱くなるが、高温になると、この脆化は回復して再び粘りけが生じる。
 このような延性−脆性遷移現象は原子炉圧力容器にとって重要であり、照射が進むにつれてこの延性−脆性遷移温度は高温側にシフトするので、監視試験片を原子炉の中に入れて、定期的に調べ材料の安全性を確認している。(ATOMICA他)
 この脆性遷移温度が高くなっているのが老朽化した原発である高浜1、2、美浜3号であり、これらは既に危険領域を超えていると多くの専門家は考えている。

◎中性子照射脆化を見なくなる

 運転中の中性子が大きく影響することから、事業者は当然のごとく「停止している間は進行しないから問題ない」といって、この評価を低く見ている。
 特に今回問題になっているのは、東海第二原発(茨城県東海村、BWR 110万kw)だ。
 運転期間が延びて60年を超える可能性が高いとされているのに、中性子照射脆化を評価するために必要不可欠な「試験片」を使い切っていて、炉内には「再生品」しか残っていない。

 これは、運転開始時点で60年を大幅に超える期間を延長することなど想定していなかったから起きたのであろう。
 つまり、60年超運転自体、原発にとって想定外の「災害」級の出来事であることを意味する。

 特に、東海第二原発の場合、もともと4個入れていた照射ターゲットの「試験片」を使い切ってしまった。このため、現在入れているのは既にテストで破壊試験を行った試験片を再生したものだという。
 大きさは5ミリ程度(熱影響部のサイズとして)しかないといわれ、これでは試験そのものができないのではないかと思われる。

 ところがここでウルトラCが登場する。

 日本原電が2018年に作成した「原子炉圧力容器の中性子照射脆化に関する評価の詳細について」という文書にはこういう記述がある。
 『沸騰水型原子炉圧力容器では,炉圧は蒸気温度の低下に伴い低下すること,冷水注入するノズルにはサーマルスリーブが設けられており,冷水が直接炉壁に接することはないから,PTS事象は発生しない*1。また相当運転期間での中性子照射量が低く,BWR−5を対象とした評価(図5−1)において,破壊靭性の裕度が十分あることが確認されている*2。』

 敢えて注釈の数値を残しているが、ここから文献を探してみると、ここには恐ろしいことが書かれている。
 「*2」とされている「沸騰水型原子炉圧力容器の過渡事象における 加圧熱衝撃の評価」では、
 『国内BWR全運転プラントを対象として、構造および設計熱サイクルを考慮してグループ化し、供用状態DにおけるPTS評価を行った。全てのプラントについて、60年運転を想定した48EFPY時点で、応力拡大係数KI曲線と破壊靭性KIC曲線とは交わらずに破壊靱性の裕度が十分にあることが確認された。
 BWRの場合は、供用状態CおよびDにおいて、PTS事象のような非延性破壊に対して厳しい運転事象はなく、非延性破壊評価は供用状態AおよびBに対する評価で代表できることが確認された』とある。

 これを根拠として、規制委は現在、BWRつまり東海第二原発について、中性子照射脆化と加圧熱衝撃について評価対象から外すというのだ。
 『東二の評価に対して,裕度がある。そのため,供用状態C及び供用状態Dにおいては脆性破壊に対して厳しくなる事象はなく,耐圧・漏えい試験時の評価で代表される。』との記述が、既に2018年の原電文書に記載があり、これが事業者の提案であることが明らかである。
 既に20年延長運転申請の際、試験片が枯渇することから、こうした主張をしており、加えて今回の「長期管理施設計画」では、他のBWRも含めて全部外してしまえと主張しているのである。

◎東海第二原発の現状

 先の論文では運転期間は60年(運転期間に直すと48年とされている)までしか解析されていない。
 東海第二原発は今のままでは72年近く運転する可能性がある。運転期間としても50年を大きく超えるだろう。
 また、材料の具体的な評価については記述がないため、どんな不純物が含まれているかわからない。

 一般に、中性子照射脆化は材料に含まれる元素の種類や量で大きく変化する。そのため同じ材料(母材、溶接材)で試験片は作らないと意味がないが、たった5mmでは同じ材質の試験片になっているとは考えにくい。

 新品の原発であっても材料や製造に問題があればあっという間に破損していくことは、三菱重工業がサン・オノフレ原発向けの蒸気発生器を製造した際に起きた事件でも明らかだ。
 この時は新造品の蒸気発生器の細管が次々に破損していき、結果的にサン・オノフレ原発を廃炉に追い込んだ。

 まして老朽原発では、製造時のデータも十分ではない上、進行中の劣化状況を把握するためのデータすら取ることができなくなる。
 東海第二原発と同型のBWRである敦賀原発1号機(既に廃炉)では加速試験(炉心内で炉壁よりも燃料体に近い場所に試験片を置くことで中性子照射量を多くして、寿命末期の状態を模擬して行う評価)を行ってきたところ、実際の炉壁の状態を模擬できなかった(少ない影響しかないように評価された)例もある。

 東海第二原発も加速照射なので、これまで取り出した試験片が実際の炉壁の状態を正しく評価できるデータが取れているか疑問だ。
 そういう状態であるにもかかわらず、中性子照射脆化と加圧熱衝撃の評価をしないなどというのは、都合が悪いから逃げているに過ぎない。
 しかし事故からは逃げられないということは知るべきだ。
 試験片が枯渇し中性子照射脆化を評価できなくなった原発は直ちに廃炉にするべきである。

◎再度、パブコメを出そう

 パブコメで法改正を止めるということはできないかもしれない。
 しかしこうした規定が私たちの反対の声もなく通ってしまうことは害悪だ。
 少なくても今後法令改正を実現し、改めて原発をなくす取り組みを続けるならば、パブコメを通して反対の声を届けるべきだ。

 以下のURLから、8月4日中までに、是非意見を送ってほしい。
 実用発電用原子炉の長期施設管理計画の記載要領(案)に対する意見公募について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=198023204&Mode=0
KEY_WORD:TOUKAI_GEN2_:TAKAHAMA_:TSURUGA_:廃炉_:MIHAMA_: