[2022_06_24_07]島根の過疎地域に再エネの波 「町の生き残りかけ」新電力会社設立(毎日新聞2022年6月24日)
 
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島根の過疎地域に再エネの波 「町の生き残りかけ」新電力会社設立

 広島県との県境に位置する島根県邑南(おおなん)町。山あいの小さな町が4月、環境省の「脱炭素先行地域」に県内で唯一、選ばれた。国は2021年10月のエネルギー基本計画で、太陽光や風力などの再生可能エネルギーについて最優先で取り組むとしている。中国地方でも再エネ導入の動きが進むが、課題も見える。
 04年、2町1村の合併で町が誕生した当時、約1万3500人だった人口は、この15年余りで1万人ほどに減った。高齢化率は38・5%から45・2%に上昇。ほかの中山間地域と同様、過疎と少子高齢化に悩まされている。町中心部には田んぼが広がり、昼間でも人影はまばらだ。
 「家があっても住んでいるのは高齢者ばかり」。地元のLEDランプメーカー「トリコン」社長、上田康志さん(64)は、町の現状に危機感を持つ1人だ。2月、町は民間事業者10社との共同出資で新電力会社「おおなんきらりエネルギー」を設立。上田さんも共同出資に参加している。「町が残っていくためには必要な取り組み」と考える。
 新会社は、町内の公共施設や一般家庭から再エネで発電した電力を買い取り、町内で販売する。5年目で年間約3億6000万円の売り上げを目指すという。
 事業の目玉は「オンサイトPPA」。住宅や事業所の屋根に無償で太陽光パネルを設置し、維持管理費なども同社が負担する。契約者はしばらくは電気料金を支払うが、一定期間が過ぎれば太陽光パネルが無償で譲渡されるという仕組みだ。契約者にとってはパネル設置の初期投資が不要となるため、再エネ導入促進が見込める。同町地域みらい課の田村哲課長は「環境問題に真剣に取り組むイメージが定着すれば、関心のある人が町に移り住んでくれるかもしれない。さまざまな波及効果が期待できる」と力を込める。
 町内ではこれまで、年間約6億円の電気料金が支払われていた。再エネ導入は脱炭素化促進の他にも、エネルギーの地産地消で電気料金が町外に流出するのを食い止めたり、発電施設の維持管理などで新たな雇用を生み出し、地域振興につなげたりする狙いもある。
 だが再エネは気候の影響を受けやすく、安定供給に課題を残す。島根県出雲市の日本海沿いには市営「キララトゥーリマキ風力発電所」(総出力1700キロワット)が建つ。2基の風車を備え、03年2月に運転を開始した。設備利用率を年度別に見ると、12年度13・6%▽14年度12・7%▽16年度7・6%――と年によってばらつきがある。18年11月以降、2号機は老朽化による不具合でほとんど動いていない。
 月別設備利用率(21年度)を見ても、風が強い冬場は高めで12月は16・2%だが、9月はわずか0・2%。施設の立地状況や気候の影響が大きいことを示している。
 資源エネルギー庁によると、日本の発電電力量に占める比率(20年度)は、天然ガス約39%▽石炭約31%▽再エネ約20%▽原子力約4%――。大半を化石エネルギーに頼っているのが現状だ。国の基本計画は、30年度の電源構成の目標として再エネは36〜38%、原子力は20〜22%を掲げており、両者の利用を推し進めようとしている。
 だが原発には事故リスクへの不安がつきまとう。島根県の丸山達也知事は6月2日、中国電力島根原発2号機(松江市)の再稼働に同意する際、再エネの電力供給の不安定さと原発の必要性を強調した。一方で「原発がない方がよく、なくしていくべき」とも述べ、原発依存度を下げるためにも国に再エネの導入促進を求めている。脱炭素社会の実現や原発事故への不安をなくすため、再エネの導入促進と課題克服が鍵になる。【目野創】
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