[2022_01_29_01]川内原発など火山地帯に近い原発の再稼働を許可してきた 規制委は、驕りを深刻に反省すべき 「火山噴火を事前予測できる」とする原子力規制委員会は見解を撤回せよ 地球の反対側で起きた巨大カルデラ噴火で津波 (下)(了) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(中)は、1/24【TMM:No4390】に掲載。(たんぽぽ2022年1月29日)
 
参照元
川内原発など火山地帯に近い原発の再稼働を許可してきた 規制委は、驕りを深刻に反省すべき 「火山噴火を事前予測できる」とする原子力規制委員会は見解を撤回せよ 地球の反対側で起きた巨大カルデラ噴火で津波 (下)(了) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(中)は、1/24【TMM:No4390】に掲載。

  
◎空振の恐ろしさ

 火山噴火により引き起こされる空気の振動は「空振」と呼ばれ、距離が近く、規模が大きければ、木が倒壊したり建物が破壊されたり鼓膜が破れるなどの被害を生ずる。遠ければ爆音として聞こえる。
 有史以来最大級の噴火とされる1883年のクラカタウ噴火では、4000km以上離れたところで聞こえたとされている。
 今回の空振は、アラスカでも観測されたというから、記録上史上最大の距離まで伝わったということになるかもしれない。
 海の上で発生した場合、空気の振動が海面を変動させ、これが波となって広がっていくと、一つ一つの波が大きくなくても広い海の上で高速で伝わる内に徐々に波同士が合成され、あるいは共振し、大きくなっていくと思われる。
 それが、比較的近いオーストラリアでは最大でも1mほどが、8000〜10000km以上も離れた環太平洋諸国の海岸で2mに達する高さになっていったのだろう。
 今回の噴火の後で、日本では最大約2ヘクトパスカルの気圧変化が観測され、その後津波が到達した。津波の周期は地震による海底地形の変動に伴う津波と比べても、かなり短いようだ。公表された波形データを見ると、通常の波とも見分けがつきにくいことがわかる。
 海面を変動させ、津波にまで発達させる空振は、その被害の大きさが考慮されたことはなかった。
 巨大な噴火であれば、「空振」の影響は、その後に起きる溶岩流や大規模な火砕流などの火砕降下物の影響、噴煙として大気中に放出された火山灰の影響が大きくなるので見過ごされるのだろう。
 しかし、それらの影響を直接受けるほどに近くはないところでは、「空振」による津波の影響は、突如やってくる遠地地震のそれ以上に判別が困難で、不意打ちを食らう可能性が高くなる。
 実際に、気象庁が津波警報を発した時には既に奄美大島に1.2mの津波が到達した後だった。それでも、その後の警報や注意報の発令は素早く行われたので、多くの漁船の沈没・転覆(30隻以上とされる)や漂流についての人的被害は阻止できたと考えられる。
 遠地地震の津波被害としては、1960年のチリ地震津波(死者・行方不明142名、負傷855名、被災者147,898名、被災家屋46,000棟)があり、太平洋沿岸地域で大きな被害を出している。
津波の波高はこの時よりもずっと低かったとしても、今後も起こり得るこうした未知の津波被害を未然に防ぐことが出来る津波防災システムを持ち、稼働させられることは重要なことである。

◎日本への教訓は

 日本の火山は現在111ある。これは世界で過去1万年以内に噴火した火山の約7%に相当するという。
 そのうえ海に囲まれた島国であり活火山の約3分の1が伊豆小笠原諸島や南西諸島などの海域に存在する。
 今回と同規模か、もっと大規模な海底火山噴火が日本でも発生してきたし、これからも発生する。
 その実例として、昨年8月に事前に警告を発することが出来ないほど人知れず大噴火し、大量の軽石が漂着した海底火山「福徳岡ノ場」の記憶は未だ新しい。
 硫黄島から50kmほどの海底火山で、今までに大規模噴火を引き起こす火山との認識はほとんどなかった。
 この時の規模はVEI4程度とされている。この火山の噴火が終結したのかどうかもまだよく分かっていない。
 なお、火山憤火予知連は昨年12月に「今後十数年は同程度の噴火が起きる可能性は低い」との検討結果を公表している。
 このような海底火山の噴火が、過去に重大な影響を日本列島に住む人類に与えた。
 7300年前に九州南方沖の薩摩硫黄島周辺で起きた超巨大噴火では、巨大津波が近隣の島々のみならず現在の大分県や高知県、さらには三重県にまで到達したことが明らかになっている。
 またこの噴火では火砕流が海を渡って九州南部まで到達し、火山灰は東北地方にまで達していた。
 これにより日本列島上の縄文人は大きな打撃を受け、とりわけ九州の縄文文化は消滅したとされる。
 この時の火砕流は、今でも九州各地に痕跡が残っている。
 また、「アカホヤ」と呼ばれる火山灰の層は、地質調査の際に重要な指標地層とされている。この火山灰層がある場所は、7300年間の地表に相当することが分かるからだ。
 そこで気になる記事が1つ。
 この噴火を引き起こした鬼界カルデラは、今も活発に活動を続けていることを証明する記事だ。
 以下は、2018年2月9日付「海洋底探査センター」の研究ニュース「鬼界海底カルデラ内に巨大溶岩ドームの存在を確認」からの引用である。
−−−−−−−−
 神戸大学海洋底探査センター(KOBEC)では平成27年のセンター設置以来、神戸大学大学院海事科学研究科附属練習船の「深江丸」を用いた3回の探査航海を「鬼界海底カルデラ」で実施しました。
 その結果、7300年前の巨大カルデラ噴火以降の短期間に、32立法kmを超える地球上で最大クラスの巨大な溶岩ドームが形成されたことを確認しました。
 またこの溶岩は、巨大カルデラ噴火を起こしたマグマとは異なり、現在の薩摩硫黄島などの後カルデラ火山と同じ化学的特性を示します。
 現在も鬼界カルデラの地下に巨大なマグマ溜りが存在している可能性があります。
 日本列島で最も直近(7300年前)に巨大カルデラ噴火を起こした「鬼界海底カルデラ」内に、この噴火以降に大規模な溶岩ドームが形成されたことが分かりました。
 その体積は32立法km以上で、世界最大級の規模です。
 この溶岩は、7300年前の巨大カルデラ噴火の噴出物とは化学的特性が異なります。
 このことは、鬼界カルデラには7300年前以降に大規模なマグマ溜りが存在し、そして現在も存在している可能性を示唆します。
 溶岩ドーム上には水柱音響異常が認められ、活発な海底熱水活動の存在が予想されます。
−−−−−−−−

◎原子力行政と火山評価
 原発の再稼働と火山について、原子力規制委員会は破局的な噴火災害が発生する火山の近くにでは許可しないとしている。
 策定された「火山影響評価ガイド」では「設計対応が不可能な火山事象」が原発の運用期間中に発生する恐れが十分小さいこととしている。
 しかし「十分小さい」ことを、具体的にどのように評価、判断をするのかは「火山影響評価ガイド」には示されていない。
 川内原発の再稼働では、5つのカルデラ(阿蘇、姶良、阿多、加久藤、鬼界)について評価対象とし、これらが原発の運用期間中に破局噴火を起こす可能性が「十分小さい」として、再稼働を認めた。
 しかし原発の運用期間は運転開始後40年ではない。
 新増設がなくても川内原発が20年の延長申請をしたら2045年11月だ。その後使用済燃料が残り続ければ、その期間も加算される。万一、新増設があればまた長くなる。
 火山噴火の再来期間がいつかは誰にも分からないのに、期限も定まっていない運用期間中に、破局噴火を起こさないとどうして断定できるのであろう。
 フンガ・トンガ−フンガ・ハアパイの噴火は、日本に対する警告でもある。
 福徳岡ノ場の噴火も人間にとっては「突然」起きた。
 監視を続けているから巨大カルデラ噴火は数十年前から事前に検知可能であるとして、川内原発をはじめとして火山の影響範囲にある原発の再稼働を許可してきた規制委は、驕りを深刻に反省すべきである。
 多くの火山学者は、そうした「希望的観測」に対して断固として反対をしている。それほどに火山の予測は困難であり、知ったかぶりで噴火予測などしてはならないことを、今回の噴火は警告している。
 福徳岡ノ場の噴火も予測されなかった。太平洋上の海底火山だから、といって言い逃れできるものではない。
 日本周辺海域で未知の海底カルデラ噴火が起こらない根拠など、そもそもないのである。
 なお、更田豊志規制委員長は、今回の噴火に際し「今回のケースは原子力施設への対策がすぐに必要ではないものの、めったにない事例なので、各機関の調査や分析に高い関心を寄せていきたい」と述べ、原発の安全規制に取り入れるべき科学的な知識や見解などがあるか規制委員会として確認していく考えを示したという。
 また、石渡明委員も「火山活動に伴って起きる津波は事例が非常に少なく貴重なケースだ。原発の規制に取り入れるべきものがあるか、調査や研究を早急に始めてほしい」と、事務局の原子力規制庁に伝えた。これは1月19日の定例会合でのこと。(NHK1月19日より)
 問題は「今後のこと」ではなく、既に許可してしまった原発について「見直し」が必要なのだが、それを本当に認識しているとは思えない姿勢を、まず改める必要がある。
KEY_WORD:トンガ_津波_:SENDAI_:TSUNAMI_: