[2021_06_16_06]避難時間シミュレーションで計画破綻が露呈 ─まじめに計算するほど避難は不可能がわかる 上岡直見(環境経済研究所代表)(たんぽぽ舎2021年6月16日)
 
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避難時間シミュレーションで計画破綻が露呈 ─まじめに計算するほど避難は不可能がわかる 上岡直見(環境経済研究所代表)

◎ 各地で再稼働の圧力が高まっている一方で、東海第二原発(茨城県)の差止め訴訟では避難計画の不備を理由に原告側勝訴という注目すべき動きが報告されている。
 ここで改めて注目されるのは、各地の避難時間シミュレーションである。
 2012年に規制庁が「原子力災害対策指針」を制定し、おおむね30km圏内の自治体で避難計画の策定が義務づけられた。計画の参考とするために、2014年頃までに各地で一斉に避難時間シミュレーションが行われたが、その方法は基本的に米国の避難時間シミュレーションを真似したものである。

◎ この当時は避難の手順として、緊急事態が発生したら原則としてPAZ(5km)圏内が先に避難し、その後はUPZ(5〜30km)圏内が一斉に避難することになっていた。
 しかし2015年に「指針」の方針が変わり、UPZは屋内退避を原則として、放射性物質の放出後に線量測定に基づいて方向別に地域を指定して避難することになった。
 これは避難に際してSPEEDIの結果を使用しないことにした問題と関連があるが、その点は別の機会に論じたい。(※)

◎ このため従来の避難時間シミュレーションの結果は使えなくなり、ほとんどの地域ではそのまま放置されているが、地域によっては方向別の避難を想定してシミュレーションをやり直しているケースがある。
 川内原発(鹿児島県)がその一つであるが、興味深い結果が公開されている。
 前回の報告(2014年3月)では、自然災害による道路支障などを考慮したケースで最大28時間などの結果が報告されているのに対して、最近の2021年3月の再推計では、さらに厳しい道路支障を考慮したり、避難退域時検査(スクリーニング)の時間や、30km圏脱出だけでなく避難所到達までなどの現実的な条件を考慮したところ、最大で12日以上などという結果が報告されている。

◎ これでも実証されたわけではなく机上の計算であり、実際はもっとかかるのではないだろうか。
 30km圏の人口が約20万人の川内原発でこれだから、東海第二原発の100万人などとなったら、考えるのもばかばかしい時間になるだろう。
 まじめに計算するほど避難は非現実的であり、避難計画そのものが成り立たない。
 いったん地震や津波を原因として放射性物質が放出されたら、住民は避難もできない、救援も来ない、水道も電気も来ないという中で被曝が続くことになる。
(後略)
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