[2023_10_16_12]【寄稿】「核ごみ 調査拒否」 地方が生き残る道は 川口幹子(長崎新聞2023年10月16日)
 
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【寄稿】「核ごみ 調査拒否」 地方が生き残る道は 川口幹子

 11:00
 原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定を巡り、比田勝尚喜対馬市長は先月27日、調査を受け入れない意志を表明した。翌日の長崎新聞に大きく取り上げられ、全国的にも話題となった。
 対馬では住民を二分する議論が起きた。人口の減少や地域経済の疲弊を背景に調査受け入れを求める請願が出された一方で、漁協や市民団体など6団体が反対の請願を提出していた。市議会は、賛成10、反対8の賛成多数で文献調査の推進を求める請願を採択。市長の判断は議会の議決を退けた形となった。
 市長が挙げた判断の理由は以下の5点だ。▽市民の合意形成が不十分なこと▽風評被害への懸念▽文献調査だけを受け入れ、次の段階を拒否する考えのないこと▽情報の不足▽想定外の要因による危険性が排除できないこと−。
 一連の議論を見て、最終処分地の選定プロセスそのものを見直す必要があると改めて感じた。交付金と引き換えに自治体に受け入れを求める方法は分断しか生まない。全国的な科学的調査は、なぜ実施できないのだろう?
 情報不足の一番の原因は、そもそもの国のエネルギー政策のビジョンやロードマップが不透明すぎることだと感じる。筆者も何度か原子力発電環境整備機構(NUMO)の説明会に参加し質問させていただいたが、仮に対馬に処分場を建設したとして何年で満杯になるのか、といった質問にも答えてもらえなかったし、核燃料サイクルの問題点を尋ねても管轄外で分からないと言われた。
 「なぜ、国土全域を対象に文献調査を実施しないのか」と質問して返ってきた答えは「法律で決まっているから」で、どうしてそう決まっているのかは教えてもらえない。不誠実と言うほかないこのような説明会で、地域や国民の理解を得るのは不可能だ。
 核のゴミ問題が未解決のまま、それでも原発を推進しようとする政策が、本当に理解できない。福島の処理水放出が国際摩擦にまで発展しているように、科学的に安全だと言われても、感情的に受け入れられない−核とはそういうものだと思う。エネルギー政策を一から見直す時期に来ているのではないだろうか。
 市長は、現在対馬の主力産業である水産業や観光業の売り上げは、交付金20億円では代えられない、とも語った。地方が生き残る道は交付金ではなく、本来その地域が持つ自然や文化だ。地方創生の起爆剤はその土地にこそある−その方向性を明確に示した決断だったと思う。国は、この決断を重く受け止めてほしいと強く願う。
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