[2023_01_21_03]原発推進で創設される「地域支援チーム」の正体とは? 政府は「再稼働へ関係者の総力結集」うたう(東京新聞2023年1月21日)
 
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原発推進で創設される「地域支援チーム」の正体とは? 政府は「再稼働へ関係者の総力結集」うたう

 22日まで政府が意見公募(パブリックコメント)を行う「今後の原子力政策の方向性と行動指針案」。老朽原発の運転延長や革新炉建設の方針が問題視されてきたが、見過ごせない記述が他にもある。「地域支援チーム」なる組織を創設し、自治体の避難計画策定に関与するというのだ。原発再稼働を左右しうるのが住民避難の問題だ。新たな組織に何をさせるもくろみなのか。(宮畑譲、岸本拓也)

 ◆自治体による避難計画策定に介入か

 経済産業省資源エネルギー庁がまとめた行動指針案。「再稼働への関係者の総力の結集」という項目に「地域支援チーム(仮称)」の創設が記されていた。
 国の職員が避難計画の策定・充実に向けてきめ細かい支援を展開するためという。計画策定に関しては、立地自治体の首長らと「定期的・実効的な意見交換機会」を創出するとつづる。
 原発再稼働に向けて政府の介入を強める気配が漂うが、そもそも現状では、避難計画は自治体が策定することになっている。
 たたき台として政府の防災基本計画や原子力災害対策指針を参考にする一方、避難経路などを決めるとなると、地域の道路や避難先の施設に精通していないと難しいため、「地域で策定するのが前提」(内閣府の担当者)とされる。
 ただ、原発事故の影響は複数の自治体にまたがる可能性が高いため、政府は広域調整などを担うほか、必要な資機材への財政的な支援も行うことになっている。このあたりの役割は内閣府に割り振られてきた。
 では、政府が創設しようとする地域支援チームは何を担うのか。今のところ、具体像がはっきりしない。
 エネ庁の担当者は「窓口を立ち上げ、地域の相談を受けやすくする」と語るが、人員も決まっておらず「詳細な構想は練っているところ」と述べるにとどまる。自治体を支える役目を担ってきた内閣府と役割が重複しそうだが、この点もはっきりしない。内閣府の担当者は「われわれとしては従来と変わらない」と話す。

 ◆「支援の名の下にスケジュールを押しつける恐れ」

 何だかモヤモヤが募るが、再稼働に前のめりになる政府にとって、避難計画の策定で力を入れざるを得ない地域はある。首都圏唯一の原子力発電所、日本原子力発電東海第二原発(茨城県)がそうだ。
 水戸地裁は2021年3月、事故時の避難計画の不備を理由に運転差し止めを命じる判決を出した。原告弁護団によれば、全国で初めてのケースだ。
 避難計画の策定が義務付けられた原発の30キロ圏には14自治体があり、避難対象は約94万人。これだけの人口規模の避難計画をつくるのは難しく、判決時点で策定していたのは5自治体にとどまった。
 判決翌日には梶山弘志経済産業相(当時)が「(避難計画は)しっかりと政府が後押しして、つくっていく」と発言。これを具体化するのが、支援チームの創設のようにも思える。

 「後押し」「支援」は何をすることになるのか。

 警戒感を募らせるのが、原告弁護団の丸山幸司弁護士。「政府はアリバイとして取りあえず計画をつくろうとしているのではないか」と述べ、訴訟で問題視された不備の手当てを自治体に促そうとしているとみる。「支援という名の下にスケジュールを押しつける恐れもある」とも語り、突き上げの可能性を指摘。「避難計画は住民の権利・人権に配慮しなければならないが、その観点が入っているように見えない。今後も厳しくチェックしなくてはいけない」と強調する。

 ◆新潟県の独自検証で計画に456点の不備

 避難計画絡みで政府が強く意識していると思われる原発がもう一つある。新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発だ。再稼働すれば電力供給の不安解消につながり、火力発電用の燃料価格高騰で収益が大幅に悪化している東電の経営再建の後押しにもなりうる。
 しかし原子力規制委員会の適合性審査を通った6、7号機はテロ対策の不備が相次いで発覚し、事実上の運転禁止に。さらに東海第二と同様、避難計画も再稼働の「壁」となっている。
 地元の新潟県は避難計画が整わない限り、再稼働に同意しない立場をとる。独自の委員会を設けて5年がかりで避難計画の検証に取り組み、昨年9月には報告書をまとめた。
 抽出された課題は実に456点に上る。初歩的な問題を繰り返す東電については、訓練内容の不十分さのほか、汚染拡散の情報伝達に課題があると指摘。避難を巡っては、甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤の配布時期、登校中の児童らを保護者に引き渡すタイミングなどについて議論が必要とし、テロをはじめとした武力攻撃を想定した検討も不十分とつづった。
 列挙された課題に対応するのも地域支援チームの役目になり得るが、これだけの数がある中、地元には冷ややかな見方も出ている。
 原発が立地する柏崎市の星野幸彦市議は支援チームの創設について「国が前面に立って動いていますよ、というアリバイ作りにしかみえない」と述べ、どれだけ汗をかくかと疑う。一方で「再稼働を進めたい国からの圧力と感じる地元の人もいるのでは」とも語る。

 ◆政府が直視すべきは避難の難しさだ

 そもそも政府が支援チームをつくったところで、住民避難に役立つのかという問題も横たわる。原発避難には、根深い課題が山積しているからだ。
 原発は過疎地に立地することが多い。道路事情が悪く、事故時に「われ先に」と避難すると大渋滞を引き起こすことは容易に想像できる。山に囲まれた東北電力女川原発(宮城県)は、5〜30キロ圏の住民は事故が起きても当面は自宅や建物内に退避する避難計画になっている。その場合、避難するまでに最悪5日以上かかるという。
 30キロ圏内に94万人が密集する東海第二原発の周辺も渋滞の問題が深刻で、各自治体は避難計画の策定すら難航している。

 人の手には負えないという点でいえば、天候の問題も。新潟県柏崎市などは昨年12月に記録的な豪雪に見舞われ、原発事故時の避難路となる国道8号では、約38時間にわたって車が立ち往生した。避難計画の実効性を問われた桜井雅浩市長は「現状を見れば、全く機能しない」と認めざるを得なかった。
 政府は再稼働に躍起になるが、直視すべきは避難の難しさではないのか。
 新潟県の避難計画を検証する委員会に名を連ねる新潟国際情報大の佐々木寛教授(政治学)は「地域ごとに事情が異なり、避難訓練やシミュレーションを繰り返してボトムアップで進めないと、実効性ある避難計画はつくれない」と指摘。「中央から再稼働前提の『支援』がトップダウンで来ても、計画の実効性を高める上で役に立つとは思えない」と述べ、政府が介入する効果をいぶかしむ。
 環境経済研究所の上岡直見代表は「原発避難は真面目に考えれば考えるほど課題が出る。どうしたら住民の被ばくを避けられるか、計画の実効性を判断する基準を国が示す必要がある」と述べ、こう続ける。
 「政府や自治体、事業者が互いに(避難計画にどこまで関わるか)責任を押しつけ合ったままの印象だ。そんな状況で自治体は再稼働に同意できないはずだ」

◆デスクメモ

 本文の通り、原発防災で自治体と接点を持ってきたのは内閣府。関係法令の周知、住民避難の計画作成の研修、図上演習や訓練も扱う。地域支援チームが相談窓口程度なら、設ける必要がないような。「再稼働へ総力結集」の項目に記す意味は重いはず。政府の真意は今後も問わねば。(榊)
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