[2023_12_20_06]東京電力社長「仕組みよりも魂を入れる」 原子力規制委に「テロ対策」説明 柏崎刈羽は「運転禁止」解除へ(東京新聞2023年12月20日)
 
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東京電力社長「仕組みよりも魂を入れる」 原子力規制委に「テロ対策」説明 柏崎刈羽は「運転禁止」解除へ

 18時03分
 原子力規制委員会は20日の定例会合で、テロ対策の不備で事実上の運転禁止を命じている東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)について、東電の小早川智明社長を呼び、再発防止の取り組みなどについて聴取した。
 小早川社長は、全ての職員の意識向上を「仏像に魂を入れる作業」「仕組みよりも魂を入れていく」などと繰り返し強調した。
 委員は「精神論側に傾きすぎないでいただきたい」と直接、注文。山中伸介委員長も会合後の記者会見で「抽象的な言葉が多かった」とも口にした。しかし、規制委は判断材料がそろったとして、27日の定例会合で運転禁止命令の解除を正式に決める。規制委は、社長の説明の何を評価したのか。

 ◆「魂を入れていく」とは

 小早川社長は午前10時30分からの会合の冒頭、テロ対策の不備に対する再発防止や、継続的に改善していく仕組みが整ったと説明。「私自身が率先して地域の皆さまに取り組みを伝え、説明責任を果たしていきたい」と決意を述べた。
 柏崎刈羽での課題解消で強調したポイントが、現場の職員らが自ら課題を発見し、改善をしていける環境づくりだった。小早川社長は「設備や仕組みを整備するだけではパフォーマンスの持続的な向上につながらない」とし、「仏像に魂を入れる作業」と表現して、現場で働く人たちとの対話を重ねたことを説明した。
 山中委員長から、東電の変化や、どんな会社にしていきたいのか、を問われた場面でも、小早川社長は「ひとことで申せば、仕組みよりも魂を入れていく、と。私も含めて、しっかりと全員参加で、このプラントをマイプラントとして、良い物にしていこうという気持ちがこもることが極めて重要」と答えた。

 ◆規制委から注文、念押し

 この発言に、規制委の杉山智之委員は、「仕組みより魂が重要という風にも聞こえたんですけど、私は精神論側に傾きすぎないでいただきたいと思っています」と述べ、まずは「誰がやってもうまくいくであろう仕組み」をつくるという重要性を指摘した。
 伴信彦委員は「仮に命令解除になったとしても、東京電力が生まれ変わったとか、非の打ちどころがない組織になったという認定をしているということではない。東電は最初、落第したんです。それで、補講と再試験を繰り返して、ようやく合格ラインに到達した」とくぎを刺した。
 山中伸介委員長は「福島への責任が第一であることを忘れないでほしい」と注文した。

 ◆それでも「禁止」解除 なぜ?

 小早川社長からの聴取は50分ほどで終わった。その後、委員たち5人が議論し、小早川社長の説明に不足はないとして、27日の定例会合で最終的に判断することを決定した。
 社長の説明で、何が確認できたのかー。この日午後にあった山中委員長の記者会見では、こうした質問が繰り返された。
 山中委員長も、小早川社長の説明は「抽象的な言葉が多かった」「100%完璧な回答ではなかったかもしれない」と認めた。
 その上で、「運転禁止」の解除に向けて確かめているのは東電自身が自律的な改善ができる状態にあるのか、という点だとし、社長の説明によって「継続的な改善はできるかなという期待は持てた」と述べた。
 特に山中委員長が「今回、大きな変化が出た」と語ったのが、社長が東電のコミュニケーション能力の乏しさなどの「弱み」を口にしたことだ。
 小早川社長は委員たちからの質問に対し、「何かを決めて実行するために、(現場を)焦らせる行為自体が東京電力の過ちの一つでもあったのではないか」などと吐露していた。
 山中委員長は「弱みをきっちり認識した上で改善活動に当たるというところが大切だ」と言及。「運転禁止」命令を正式に解除したとしても、あくまで東電が継続した改善を続けていく「スタートライン」だと繰り返し、通常の検査などで状況を確認していく考えを述べた。

 ◆検査中も相次いだ不備、違反

 そもそも、事実上の運転禁止命令はなぜ、出されたのか。
 柏崎刈羽原発では、2021年1月以降、東電社員によるIDカードの不正利用や、侵入検知装置が多数壊れた上に代わりの対策も不十分なまま放置したテロ対策の不備が相次いで発覚。規制委はこの年の4月に核燃料の移動禁止を命じ、東電の再発防止策に対する検査を続けてきた。
 しかし、規制委の検査中も東電のテロ対策不備は相次いだ。2022年6月には監視用の照明設備が非常用電源に接続されていなかったことが発覚。これを是正したものの、翌年の2023年6月に別の照明設備に電源が接続されていないことが発覚した。
 ほかにも、手荷物検査が不十分で未許可の携帯電話やスマートフォンが持ち込まれた違反が、2023年1月以降で少なくとも3回起きた。今から2カ月まえの2023年10月には、薬物検査で陽性反応が出た社員を防護が必要な区域に一時入域させるなど、違反は後を絶たない。

 ◆規制委は「影響は軽微」と判断

 規制委はこれらの違反について、いずれも「影響は軽微」として再発防止策の検査には影響しないと判断。今月(2023年12月)6日の定例会合で、すべての再発防止策は妥当とする事務局の検査報告を大筋で了承した。
 柏崎刈羽原発の新規制基準適合性審査では、東電が2013年に6、7号機の審査を規制委に申請。規制委は東電が福島第1原発事故の当事者であることを考慮し、東電に原発を運転する適格性があるかも確かめた。2017年9月に「適格性がある」と判断し、その上で同年12月に事故対策が新規制基準に適合するとの審査書を決定した。
 再稼働するには新潟県などの立地自治体の同意が必要。花角英世知事は同意の是非を巡って「県民の信を問う」と述べている。
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