[2023_08_04_03]原子力規制委の長期管理施設計画パブコメ締め切り間近(8/4まで) 加圧熱衝撃により過酷事故が起きるリスクは高浜原発が高い 老朽化した原発を一定の期限で確実に廃炉にする仕組みがなくなった 危険な原発を止めさせるためにあらゆる努力を (その3) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2023年8月4日)
 
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原子力規制委の長期管理施設計画パブコメ締め切り間近(8/4まで) 加圧熱衝撃により過酷事故が起きるリスクは高浜原発が高い 老朽化した原発を一定の期限で確実に廃炉にする仕組みがなくなった 危険な原発を止めさせるためにあらゆる努力を (その3) 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 
◎脆性遷移温度が危険域に達している高浜原発1号機

 高経年化対策上抽出すべき主要6事象として挙げられているうちの中性子照射脆化について、最も厳しい状態にあるのは運転開始49年に達する高浜原発1号機だ。
 運転中に原子炉の圧力容器が急激に破断する「加圧熱衝撃」のリスクが最も高い。
 圧力容器の健全性を調べる方法は「原子炉構造材の監視試験方法」に規定されている。
 原子炉内に装着する監視試験片のシャルピー衝撃試験や脆化予測式から脆性遷移温度を求める。

 「原子力発電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法」では破壊靭性試験(CT試験)をもとに破壊靭性遷移曲線を求め、熱衝撃PTS遷移曲線と比較して、圧力容器の健全性を評価する。
 しかしこの方法には問題がある。

 2011年の保安院・高経年化意見聴取会において脆化予測式、反応速度式の誤り、次元の不一致が指摘され、改訂が求められたにも関わらず、日本電気協会は10年以上経っても改訂案を作れていない。
 規制委は間違った規程のまま圧力容器の安全性審査をおこなっていることになる。
 評価上は、高浜原発1号機でも破壊靱性遷移曲線とPTS状態遷移曲線は交わっていないので、破壊が起きないとされる。
 しかしこの評価自体、正しいとはいえないのだ。

◎加圧熱衝撃の恐ろしい実態

 まず、運転中の原発で冷却材喪失事故が発生する。原因はいろいろ考えられよう。
 例えば給水系統に直接繋がる配管の破断、主蒸気管破断、蒸気発生器伝熱管破断などがある。その結果、非常用炉心冷却装置が作動する。
 実際に1991年には美浜原発2号機で蒸気発生器伝熱管の破損から冷却材喪失事故が発生し、ECCSが作動した例がある。
 この時に入る水は摂氏30度以下の冷たい水だ。炉心は運転中であれば300度を超える高温だ。
 このため圧力容器が急冷され、加圧熱衝撃が発生する。

 圧力容器が劣化していて容器の内面に傷があると、これが急速に拡大し、容器が破損する。これを加圧熱衝撃による脆性破壊という。
 損傷したところから300度C以上、130気圧以上の一次冷却材が噴出し、炉心の冷却ができなくなる。圧力容器が大規模に破損していたのでは、ECCSが作動していても水が溜まらないため、炉心が損傷し過酷事故に至る。
 この事故に最も近いのは、脆性遷移温度が上昇し、いまや監視試験で99度Cという高い温度(その温度以下では鋼が変形せずに割れてしまう目安の温度)が観測されている。

◎試験片さえ枯渇している老朽原発

 川内1号機では、運転開始時に6つ入れた監視試験カプセルのうち、既に5つが取り出されている。東海第二では運転開始時に4つ入れた監視試験カプセルすべてが既に取り出されたことが確認されている。
 東海第二原発については再生試験片を入れたが、これを使って試験することはできない。サイズが小さすぎて(5mm)シャルピー衝撃試験は不可能だ。
 東海第二原発で試験片が枯渇したのは、元々原発は最長でも60年までしか運転を想定していないというのが大きい。

 高浜1号機も「運転開始後30年を経過する日から10年以内のできるだけ遅い時期」に取り出して試験することとされているが、この間に試験をしている形跡がない。既に8個のカプセルのうち4つが母材、4つが溶接金属だが、母材はあと一つ、溶接金属は2つ残っているだけである。
 結局、60年超運転は原発の運転実績や想定を超えていることなのだ。
 このことが、圧力容器の正常な試験そのものを阻害し、事実上不可能にしてしまった。
 極めて危険な実態を生み出した責任は今のGX法にあるのだ。

◎規制委は危険な原発を止められるのか

 西村康稔経産大臣は国会で、原発の安全規制に懸念を持つ議員から、危険性な老朽原発を事故前に的確に停止することが可能なのかを問われた。大臣は規制委が厳格な審査を行い、不合格になれば原発の運転ができなくなるのだから問題ないと繰り返し答弁した。

 改訂前の原子炉等規制法では40(+20)年で廃炉となった。
 今後は事実上、制限がなくなる。
 老朽原発は規制委が危険性を未然に見つけて許可しないとの判断をしない限り、廃炉にすることができなくなる。

 もともと原子炉等規制法に年数制限を入れたのは、古い設計で安全上不安のある原発の自主退場を促すことも目的だった。
 炉規法では、よほどのことがない限り期限前に原発の運転停止を命ずることができない。
 しかし新規制基準ができたことで地震や津波、過酷事故対策に加え、特定重大事故等対処施設の建設と、大規模な設備投資が必須となった。

 このような工事は100万キロワット級原発と50万キロワット級原発で、費用が倍も違わない。
 安全対策工事全体としてみれば、柏崎刈羽原発全部で1兆2千億円、東海第二で3000億円など、原発が一基建ってしまうほどの費用がかかる。
 同じ投資をするのならば、運転可能年数も長く、設計も建設も新しい原発に集中した方が経済性も良いことは常識である。

 そのこともあって、今まで伊方原発1、2号機、美浜1、2号機など比較的小型で老朽化が進んだ原発が廃炉になった。震災後、東電福島第一と第二を除けば、11基が廃炉になっている。
 しかし、ここにきて廃炉の波は止まっている。
 柏崎刈羽1〜5号機や志賀1号機などは、新規制基準適合性審査を受けていないが、廃炉にもしていない原発がある。

 「新・新規制基準」では、これら原発は動かないのに運転可能年数だけは無意味に伸びていく。老朽化が進んだ原発の退場を促すどころか、いつまでも「動くかもしれない」と、廃炉にもせず、再稼働準備と称して対策工事を延々と続け、経営を圧迫し地域を不安に追い込む。そんな原発が8基もある。(柏崎刈羽1〜5、志賀1,女川3、浜岡5)

◎設計の古さを問題としているが具体性はない

 老朽原発を廃炉に導くはずだった新規制基準の運転年数制限が事実上撤廃されてしまい、これにともない古い原発の70年を超える運転がこれから可能になろうとしている。
 設計が古いと建設時の知見も乏しく、地震や津波想定は甘く、さらに材料も悪い。良いことなど一つもない。複雑な構造物である原発では、いくら部品を交換し、耐震補強や防潮堤で繕ってみても土台の悪さを解決することはできない。
 例えば基礎杭を打ち直すことなどできないし、塩害で損傷している建屋を建て直すわけにもいかない。

 規制委の長期管理施設計画では、交換可能な設備、装置を交換するためにサプライチェーンの維持を確保するとしている。それ以外に設計の古さを具体的に対策する方法は書かれていない。
 それどころか、現在の規制が「バックフィット」を規定していることから、新知見により安全上重要な対策を施していない原発は40年超運転を許可しないのだから、設計の古さに起因する問題についても今も見ていると考え、新たな規制基準を設ける必要はないと規制庁は考えている。

 結局、本当は重要だった運転期間の制限が撤廃された結果、老朽化した原発を一定の期限で確実に廃炉にする仕組みがなくなってしまった。
 長期管理施設計画が認可されなければ次の10年は動かせなくなる、だから規制だと規制委はいうが、運転は止まるかもしれないが審査は延々と続けられてしまう。

 現在の敦賀2号機のように、見通しがなくても、書類を偽装しても、審査を受けたいと書類を出し続ければ廃炉にできないのだ。
 こんなところに巨額の電気料金(敦賀2の場合は原電の原発なので、関西、中部、北陸、中国電力の消費者がそれぞれの電気料金から負担している)が湯水のごとく使われているのである。

◎これを可能にする「原子力PPA契約」は原発事業者の相互扶助契約だ

 「原子力PPA契約」は原子力発電事業を民間の原子力事業者同士で協力負担しようとする「相互扶助」契約だ。その典型が原電である。
 2011年から今に至るまで原電の原発は1kWhも発電していない。 しかし原電は販売電力量ゼロで毎年黒字決算の会社だ。他ではあり得ない。
 どうしてこんなことが可能なのか。それが「原子力PPA契約」のカラクリである。

 原電は「原子力発電事業に要する費用」及び「損害賠償費用、廃炉までの費用等」を、他の原子力発電事業者(東電、東北電、関電、中部電、中国電、北陸電)が受電量ゼロでも「基本料金」として負担するという契約になっているのである。

 原電は「原子力PPA契約」によって、他原子力事業者から「救済」されていることになり、その「救済金額」は、それぞれの電気料金で電力消費者が負担、「回収」させられているのだ。
 「新・新規制基準」で、本来は最長60年で退場することになるはずの原電の原発が、仮に運転していなくても延長申請だけを繰り返せば、同様に発電しなくても支援金が受け取れる。本来はあり得ない契約がまだまだ続く。原子力事業者にとって、これほど魅力的な詐欺商法が可能になる契約は他にないだろう。

◎規制する側とされる側で検討する規制案とは何か

 新・新規制基準の具体的な審査方法(規則等)を検討する「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」という会議体のメンバーに「ATENA」(原子力エネルギー協議会)が入っている。この団体は、電力会社とメーカーの協議体で、いわば原子力ムラそのものである。

 規制側と机を並べて検討しているのは原発の安全審査の根幹に関わる「規則」だ。つまり法規制される側とする側が、どんな規制が良いですかと話し合っている。これで厳格な審査体制が造れると本気で思っている人がいるのならば愚か過ぎよう。

 ATENAは、BWRやABWRは冷却水投入(ECCSの作動など)でも加圧熱衝撃は発生しないので「評価不要」であると主張している。
 この主張に基づき、既に試験片を使い果たして本来は圧力容器の健全性を評価できなくなった東海第二の運転継続ができるようになってしまうのである。

 震災後に設置された国会事故調の報告書で黒川清委員長が指摘した「規制の虜」。
 今起きているのは、規制される側が規制する側を取り込み、都合の悪い基準を作らせない目論見だ。
 「規制の虜」とは、規制当局が国民の利益を守るために行う規制が、逆に企業など規制される側のものに転換されてしまう現象をいう。(黒川清:原発事故から学ばない日本…「規制の虜」を許す社会構造とマインドセット 読売新聞)

 GX法で定められた「新・新規制基準」は、法律が制定されても、それだけでは何もできない。
 規制の方法や基準を決めなければ実務ができない。
 新規制基準から、どう繋げていくのかが課題だが、その一つが現在議論されている「長期管理施設計画」だ。これを検討する会議で規制する側が規制される側と詰めの議論をしている。
 この場に第三者の専門家や、高い知見を持ち批判的な立場の科学者がいるというのならばまだしも(過去の耐震基準を決める会議ではあったし利活用を巡る原子力小委員会にもそういうメンバーは存在した)、この会議体は規制庁とメーカーなどのATENAしかいないのだ。
 しかも、知見はほとんどATENA側にあり、規制庁が独自に検証し、実験するなど不可能。

 せいぜい文献調査くらいしか能力のない規制側が、大勢の技術者と実機を持ち、圧倒的な資金力を有するメーカー側に太刀打ちできるわけがない。
 対等な議論さえ望めないのである。
 このような悲劇的な規制側の現実を国民の多くは知るよしもなく、一方的に決められた規則で事実上無期限に老朽原発が動き出す。
 それを止める力があるのは、市民だけである。

 ◎再度、パブコメを出そう

 パブコメで法改正を止めるということはできないかもしれない。
 しかしこうした規定が私たちの反対の声もなく通ってしまうことは害悪だ。少なくても今後法令改正を実現し、改めて原発をなくす取り組みを続けるならば、パブコメを通して反対の声を届けるべきだ。 以下のURLから、今日中に、是非意見を送ってほしい。

 実用発電用原子炉の長期施設管理計画の記載要領(案)に対する意見公募について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=198023204&Mode=0

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