[2023_07_17_01]関電の使用済み核燃料搬出、無理な説明で地元反発(産経新聞2023年7月17日)
 
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関電の使用済み核燃料搬出、無理な説明で地元反発

 関西電力が高浜原子力発電所(福井県高浜町)から取り出した使用済み核燃料を、2020年代後半にフランスに向けて搬出する計画を明らかにして約1カ月。関電が「中間貯蔵と同等の意義がある」と説明したことが波紋を広げ、地元からは「違和感がある」と反発の声も上がる。国が原子力政策の基本に掲げる、使用済み燃料を処理して再利用する「核燃料サイクル」の実現にも関わる問題で、国の説明も求められている。

 ■絵を描いた経産省

 原発に貯蔵している使用済み燃料の搬出先である中間貯蔵施設を探す必要に迫られている関電。森望(のぞむ)社長は6月12日、電撃的に福井県の杉本達治知事を訪問し、電気事業連合会の実証実験で、使用済みプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を含む高浜原発の使用済み燃料計約200トンを運ぶ計画を伝えた。森社長は「県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と同等の意義がある」と強調した。
 ある政府関係者はこう明かす。「使用済み燃料をフランスに搬出して、中間貯蔵地とみなす。このたてつけについては、完全に経産省で絵を描いた」この言葉を裏付けるように、西村康稔経済産業相は会見や、杉本知事との面談の中で「中間貯蔵と同等の意義がある」と関電を追認する発言を繰り返してきた。資源エネルギー庁の小沢典明前次長も福井県議会で「フランスも海外ではあるが中間貯蔵地点の一つということが可能だ」と述べている。

 ■期限まであと半年

 関電の原発が集中している福井県は長年、中間貯蔵施設の県外立地にこだわってきた。平成8年、栗田幸雄知事(当時)が電力の消費地と痛みを分け合う意味で「県外立地を」と要望したのが始まりだ。
 だが、関電は何度も期限とした年に中間貯蔵地点を示せず、問題を先送り。令和2年12月に電事連が青森県むつ市の施設の共同利用案を提示したが、市側の強い反発を受けて、話が流れた経緯もある。そして3年、福井県側に5年末までに県外での候補地を確定できなければ、運転から40年超を経過した原発の運転を停止すると表明した。
 約束の期限まであと半年、残された時間は短い。福井県議の一人は「年末までの中間貯蔵施設の県外候補地確定にめどが立っていない焦りが関電側にあったのでは」と指摘する。
 関電管内では40年超の高浜原発1号機と2号機がそれぞれ7月、9月に再稼働する予定だが、中間貯蔵施設の候補地を確定できなければ、停止を余儀なくされ、冬場の電力需給の逼迫(ひっぱく)すら危惧される状況にある。
 そこへ今年5月、核燃料サイクルの技術協力などを含む日仏共同声明が結ばれ、フランスで使用済みMOX燃料を再処理する電事連の実証実験が決まった。高浜原発でMOX燃料を使っている関電にとって、使用済み燃料搬出の恰好の理由となった。
 ただ、これは使用済み燃料処理の根本的な解決策となるのか。県側は「分かりにくく、具体性に乏しい」として、国に再回答を要求し続けている。高浜町など原発立地3町の町長は「関電の表現には違和感がある」「立地自治体との信頼関係を損ないかねない」と警鐘を鳴らす。県議会でも「開き直りだ」などと批判が噴出し、「ぎりぎりまでがんばり、どうしてもできないと頭を下げるなら分かる」と地元感情への配慮を求める声も上がった。

 搬出だけでは不十分

 フランスへの搬出が決まった200トンは関電の原発に現在保管されている使用済み燃料約3680トンの約5%に過ぎない。関電の廃炉を決めた原発を除く原発7基では年約130トンの使用済み燃料が発生している。敷地内のプールで貯蔵しており、5〜7年で満杯になる計算だ。森社長も「今回の搬出だけでは不十分。あらゆる可能性を追求する」と繰り返し、問題が未解決であることを認めている。
 「関電は言葉の使い方を間違えたね。約束をした側が紋切り型にいう話ではない」。フランス搬出を「中間貯蔵と同等」と言い切った関電側の無神経さにいらだった福井県議は、関電の原発担当役員をこう叱責したという。
 国が目指す核燃料サイクルの実現を果たすためにも、関電と国は地元への丁寧な対応を続け、使用済み燃料問題の抜本的な問題解決を図らなければならない。

 ■核燃料サイクルに急務の再処理

 国は原発の使用済み核燃料を、再処理工場と加工工場を経てMOX燃料にし、再び原発で使用するという核燃料サイクルの構想を描く。ただ、日本原燃が青森県六ケ所村で建設を進める使用済み核燃料再処理工場は未完成で、使用済み燃料を一時的に保管するための中間貯蔵施設などの確保は各電力会社にとって課題となっている。
 MOX燃料は、原発の使用済み燃料から再処理によって分離されたプルトニウムを、ウランと混ぜて加工した燃料。関電などは現在、MOX燃料をフランスから輸入しているが、六ケ所村の再処理工場が稼働すれば、使用済み燃料を国内でMOX燃料に加工して核燃料サイクルを回せる。ただ、平成5年に着工した六ケ所村の再処理工場は、当初の計画で9年に完成予定だったが、規制基準への対応などを理由にこれまで26回延期している。
 そこで資源エネルギー庁は、使用済み燃料の処理に関する解決策として中間貯蔵施設の確保をあげる。
 中間貯蔵施設のあり方として、原発敷地内などでの「乾式キャスク」による保管がある。プールで一定期間冷却された使用済み燃料を巨大な筒の中に入れ、水を使わず空冷式で冷却する。電事連によると、中部電力の浜岡原発(静岡県御前崎市)、四国電力の伊方原発(愛媛県伊方町)、九州電力の玄海原発(佐賀県玄海町)で計画されている。
 ただ、中間貯蔵施設の確保は地元同意を得るのが簡単ではない。関電の原発が立地する福井県は約25年前から使用済み燃料の県外搬出を求めており、杉本知事もその姿勢を崩していない。関電の原発の地元関係者からは「稼働を続けるために、過去にとらわれずに可能な方策を探るべきだ」との声も上がっている。

 ■政策研究大学院大学・根井寿規教授の談話

 核燃料サイクルを実現するうえで、青森県六ケ所村の再処理工場を早期に完成させ、安定運転できる体制を整えることが当面の課題だ。ただ、再処理して生まれるMOX燃料は、現在の軽水炉による「プルサーマル発電」で使える量には原子炉の設計で限界があり、発電時に生じる放射性廃棄物の量が減少する「高速炉」などの次世代革新炉が議論されるべきだ。
 使用済みMOX燃料を最終処分せずに再処理するということは、長期的に原発を使い続けるということを意味する。原発の再稼働を促進し、革新炉の開発と実用化を進めるのであれば、新増設を含めた道筋を明確化することが必要だ。
 東京電力福島第1原発事故以降、全国的に再稼働が進まず、使用済み燃料の課題を先送りできた。原発の稼働が順調な関西でいち早く問題が顕在化してきたということができる。政府の脱炭素に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)戦略の中でしっかりと革新炉、MOX燃料、中間貯蔵の位置づけを明確にすることが求められる。(牛島要平)
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