[2021_11_23_04]海抜29メートル そびえる防潮堤 東北電力女川原発2号機 本紙記者取材 再稼働へ進む安全工事 東通1号機にも知見反映 設備審査ほぼ未着手 東通1号機(東奥日報2021年11月23日)
 東北電力女川原発2号機(宮城県女川町・石巻市、82万5千キロワット)の再稼働へ向けた「地元同意」の手続きが昨年11月に終了しておよそ1年。17日、東日本大震災の震源に最も近い原発でもある女川原発を取材した。現在は2022年度の完了を目指して安全対策工事が進められており、中でも、津波から重要な建物を守る防潮提は事業者が想定する津波高23・1メートルよりさらに余裕を持たせ海抜29メートルにかさ上げする。東北電は、再稼働手続きが先行して進む女川2号機の経験や知見を東通原発1号機(東通村)の審査対応、安全対策工事にも反映するとしている。     (加藤景子)

 太平洋に突き出た宮城県東部の牡鹿半島。カーブが連なる道路を進むと、三方を山に囲まれた狭小な平地に女川原発がある。海側には幅約800メートルの防潮提がそびえ、下から見上げるとまるで要塞のようだ。
 震災時、原発は約13メートルの津波に襲われた。しかし、過去の大津波を教訓に海抜14・8メートルの地点に建設された原発は津波を免れ(震災により約1メートル地盤沈下)、東京電力福島第1原発のような過酷事故を起こすことはなかった。東北電は新たな規制基準の適合性審査で、想定津波を23・1メートルに引き上げたほか、耐震設計や安全確認の目安となる地震の揺れ(基準地震動)も580ガルから1千ガルに見直した。
 「防潮堤の29メートルは当時、技術的に最も高くできる高さだった。想定津波と比べ6メートルの余裕があるが、地域の方に安心を得てもらうための余裕と考えている」と金泰裕環境・燃料部長は説明する。防潮提の南側約680メートルは、既設のものをかさ上げし。鋼管杭や遮水壁などからなる「鋼管式鉛直壁」により地盤沈下が起きても29メートルの高さを維持できる構造とした。海側の壁には漂流物による損傷を防ぐ「防護工」を放り付ける予定。北側の約120メートルはセメント改良土による堤防構造とした。
 ほかにも災害や重大事故に備えた各種の工事が進む。事故時の拠点となる新しい緊急時対策所は海抜59メートル以上の地点に建設、冷却水を貯蔵するための貯水槽も近くに設置した。建屋には、事故時に原子炉格納容器の気体を逃がして破損を防ぐフィルター付きベント装置などを新たに設ける。ベントなどの安全対策は東通1号機でも計画中だ。
 女川2号機の安全対策費は当初、東通1号機との合計で計1540億円とされたが、現時点では単独で約3400億円に上る。敷地内では社員約550人、協力会社の社員約3400人が働き、協力会社の半数程度が地元の雇用という。
 安全工事に必要な工事計画認可の審査は最終盤を迎えており、東北電は10日に全ての説明を終えた。今後は保安規定の認可、事業者による検査、国の確認など一連の手続きを終えると再稼働できる状態になるという。

 設備審査ほぼ未着手 東通1号機

 東北電力東通原発1号機(東通村)は原子力規制委員会による安全審査中で、現在も地震・津波の議論の途上だ。
 「重大事故対策に関わる一連の対応は、地震・津波の確定後になるため、一定の時間を要する状況にある」。東北電は18日の審査会合で、ほぼ未着手となっている設備分野の審査に対する準備状況を説明、基準地震動や想定する津波の高さが「妥当」と判断された後に、設備分野の本格審議に入りたい意向を示した。
 東北電は、東通原発で想定する地震や津波の大きさの確定後でなければ。重大事故の想定や、解析・評価、追加で行う安全対策設備の配置・仕様などが定まらず手戻りが生じかねないとする立場から、女川原発2号機への対応を合わせて「できるところから一歩一歩確実に行う」と強調する。、 東通で既に計画している安全対策工事には、フィルター付きベント装置の設置、断層を避ける形で海水取水路のルートを変更する工事などがある。現時点で土事費の総額は不明。完丁は2024年度を目指している。     (加藤景子)

 女川原発と東日本大震災

 2011年3月11日に発生した地震は女川原発で震度6弱を観測した。震源までの距離は約130キロ。1、3号機は運転中、定期検査中の2号機は起動の直後だったが、全て自動停止した。5回線の外部電源のうち1回線が確保されるなどしたため冷却機能は保たれた。ただ、2号機の非常用発電機を冷やす設備が浸水し発電機2台が停止したほか、1号機では高圧電源盤の火災損傷などがあった。1〜3号機とも東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)。2号機は20年2月に審査合格し、再稼働すれば被災地では初となる。1号機は18年に廃炉が決定、3号機は審査未申請。
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