[2023_05_25_01]女川原発再稼働差し止め棄却 住民の避難 残る懸念 東北電、収支改善に道筋(東奥日報2023年5月25日)
 
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女川原発再稼働差し止め棄却 住民の避難 残る懸念 東北電、収支改善に道筋

 仙台地裁は東北電力女川原発2号機(宮城県)の再稼働差し止めを求めた住民らの請求を退けた。東日本大震災後、全原発が停止し苦境に陥った東北電は、収支改善の道筋が見え始めた。ただ判決は、東京電力福島第1原発事故で露呈した住民避難の難しさに踏み込まず、明確な判断を示さなかった。懸念を残し、被災地で初となる再稼働が近づく。
 「2024年2月の再稼働を目損す」。判決を受けたコメントで、東北電は計画通りの工程を進める方針を強調した。
 被災地では、東電福島第1、第2原発(福島県)の全基が廃炉となり、日本原子力発電東海第2原発原発(茨城県)は原子力規制委員会の審査に合格したが、再稼働できていない。女川2号機は事故を起こした福島第1と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)としても再稼働第1号となる可能性がある。
 東北電の23年3月期連結決算の純損益は1275億円の赤字。震災の影響で過去最大の赤字だった12年3月期に次ぐ規模だ。経営改善は急務で、東北電は大半の一般家庭が契約する規制料金を6月1日から値上げする。標準的な家庭(30アンペア、月間使用量260キロワット時)で1カ月当たり2110円の負担増となり、家計への影響は避けられない。
 東北電は、女川と東通原発の全基が停止し火力発電への依存度が高い。ロシアのウクライナ侵攻による燃料価格高騰などで、電力供給コストが収入単価を上回る「逆ざや」に陥り「財務基盤回復のためには女川2号機の再稼働が非常に重要だ」 (樋口康二郎社長)。 再稼働すれば、年間約800億円の火力燃料費が削減でき収支改善につながる。
 今回の訴訟で原告の住民らは、大量の放射性物質が外部に漏れる事故が起きた際の避難計画に不備があると訴えた。被ばくの有無を検査する場所が開設できるか。交通渋滞が発生するのではないか。住民を運ぶバスは確保できるのか。情報公開請求などを繰り返し、計画通りの避難はできないと指摘してきた。しかし仙台地裁判決は、原告が具体的な危険を主張、立証していないとして、計画の実効性について「判断するまでもない」と一蹴した。
 福島第1事故では避難が混乱し、多くの住民が被ばくのリスクにさらされた。反省を踏まえ、原発から半径5キロ圏の予防防護措置区域(PAZ)で早い段階での避難、30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)で屋内退避を求めるなど、避難の在り方は大幅に見直された。21午3月には東海第2原発を巡り水戸地裁が避難計画の不備を理由に再稼働差し止めを命じている。
 女川原発は人口密集地や離島、半島など複雑な地形の中にある。計画通りの段階制な避難が実現可能かどうか、懸念は残る。原発が立地する女川町の元町議の高野博さん(80)は「避難計画は命を守る最後のとりでだ。再稼働が良い悪いではなく、機能しなければ大前提が崩れる」と嘆いた。

 現状計画で避難は難しい

 2014年に関西電力大飯原発の再稼働を認めない福井地裁判決で設判長を務めた樋口英明元判事の話
 仙台地裁は原発の危険性や避難計画の重要性を分かっていない。地震・津波の発生や規模などの具体的危険は誰にも予測できず、住民らによる立証は困難だ。車による渋滞に加え、家屋が倒れたりけが人が出たりするなど最悪の場合を想定して避難計画を考えるベきで、現伏の計画で逃げ切るのは常識的に難しいだろう。避難計画は大型客船の救命ボートのようなもの。ボートがなくてもいいのか、疑問が残る判決だ。

 住民、危険にさらされず
 東京工業大の奈良林直特任教授(原子炉工学)の話
 再稼働差し止めを認めなかった判決は当然だ。東北電力は再稼働に向けた工事で、事故が起きても空間線量が上がらない対策を取っており、5〜30キロ圏内の住民は屋内退避をして事故収束を見守ることになる。避難する場合も、自治体の指示に従えば、車が渋滞を起こすことなく避難することが可能で、住民が危険にさらされることはない。再稼働まで手を抜かず、常に安全対策を最優先に取り組むのが東北電の務めだ。

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