[2023_12_04_09]【霞む最終処分】(3)序章 処理水は語る 小委の目的すり替え 風評対策は発展せず(福島民友2023年12月4日)
 
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【霞む最終処分】(3)序章 処理水は語る 小委の目的すり替え 風評対策は発展せず

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 東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法を巡る政府の検討は2016(平成28)年11月、風評影響などに詳しい社会学者らを交えた小委員会による議論に移った。「実際に処分した際に起こりうる風評を考察し、処分方法と具体的な対策を議論する」。委員を務めた社会心理学が専門の関谷直也(東大大学院教授)は当初、小委の目的をこう理解していた。
 だが、風評に関しては課題の整理のみで具体的な対策に発展しなかった。3年超に及ぶ議論の末に打ち出したのは、処分方法について「海洋放出ありき」の結論だった。関谷は知らぬ間に目的がすり替わっていたことに、煮え切らない思いを抱える。

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 開始から1年ほど過ぎたころ、関谷は違和感を持った。地層注入の検討を提案したが、実績がないことを理由に一蹴された。経済産業省の担当者や技術系の委員と話すと、海洋放出が前提となっているように思えた。「海洋放出と水蒸気放出以外は議論すらしていないのに…」と唇をかむ。あらかじめ用意された結論に向けて時間ばかりが経過していった。
 処理水の処分方法を技術的に検討した「トリチウム水タスクフォース」(作業部会)の主査を担い、小委で委員長を務めた山本一良(名古屋学芸大副学長)は「技術系の委員が思いもつかないような風評対策を期待していた」と狙いを語るが、議論は風評対策の深掘りに至らなかった。「新たな手だてを見いだせなかったため」と振り返る。

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 小委が議論を重ねている間も、福島第1原発で日々発生する汚染水は多核種除去設備(ALPS)で浄化され、処理水としてタンクにたまり続けた。原発敷地は千基ほどのタンクが林立しており、東電は今後の廃炉工程との兼ね合いから「増設しない」と宣言した。
 さらに、2019(令和元)年8月の小委でタンクが満杯になる時期の試算結果を初めて公表した。「2022年夏ごろ」。放出準備に要する2年を差し引くと、政府が処分方法を判断する期限は2020年夏だった。必然的に小委で議論できる時間も残りわずかとなった。

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 2020年2月、小委は処分方法について「水蒸気放出と海洋放出が現実的な選択肢」とした上で「海洋放出の方が確実に実施できる」とする報告書をまとめた。4年前に作業部会が提出した報告書よりも明確に海洋放出を強調する内容だった。山本は「海洋放出の方が確実にモニタリングで監視できる。原子力工学の専門家として、政府が判断に迷うような結論にはしたくなかった」と力説する。ただ、関谷は「時間をかけた割には、結果として処分方法を絞るだけに終わった」と不満を漏らす。
 小委から報告書を受けた後も政府はすぐに処分を決断できなかった。「漁業者らの理解が全く進んでいなかった」(政府関係者)からだ。後に東電は汚染水発生量を抑制できているとしてタンクの満杯時期の試算を2022年秋以降に延ばした。政府は2021年4月にようやく海洋放出方針を決定した。しかし、肝心の処理水や海洋放出への国内外の理解醸成は進んでいるとは言いがたい状態だった。(敬称略)
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