[2023_11_24_06]ルール違反と認識しながら…慣れで慢心も 作業員の被ばくから見えた福島第1原発のずさん管理 処理水放出から3カ月(東京新聞2023年11月24日)
 
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ルール違反と認識しながら…慣れで慢心も 作業員の被ばくから見えた福島第1原発のずさん管理 処理水放出から3カ月

 06時00分
 東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の汚染水を浄化処理した後の水が海洋放出されてから、24日で3カ月になる。海水中の放射性物質の濃度に異常はないが、浄化処理設備では作業員の被ばく事故が起きた。風評被害を巡る損害賠償についても東電は詳細を明らかにしていない。
 処理水は8月24日に放出を開始し、3回目を完了した今月20日までに総量は計2万3351トンに上る。浄化処理で取り除けない放射性物質トリチウムの海水中の濃度は、東電の測定によると1リットル当たり最大22ベクレル。放出停止の目安となる同700ベクレルを下回っている。
 風評被害の損害賠償では、20日時点で東電に対する請求書の発送依頼が約600件に上り、約50件の請求があった。東電が統計データなどを基に被害の有無を判断する。これまでの賠償額や支払いを拒否したケースがあるかについて、東電は「回答を控える」と説明していない。
 2023年度に計画する残り1回の放出は、年明け以降に予定されている。(渡辺聖子)

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出 原発で発生する汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化処理した水に、大量の海水を混ぜて沖合約1キロの海底から放出。8月24日に始まった。主な放出基準は、ALPSで除去できない放射性物質トリチウムの濃度が国の排水基準の40分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満であること。2023年度は4回に分けて計3万1200トンを放出する。

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 ◆建屋内汚染水より1万倍濃い廃液をカッパも着ずに…

 東京電力福島第1原発では、処理水の海洋放出開始から3カ月となる中で、汚染水処理の基幹となる「多核種除去設備(ALPS)」で作業員が洗浄廃液を浴びた被ばく事故が起きた。これまでも取るべき安全対策がとられず、死傷事故が起きてきたが、今回も防護策や人員態勢でいくつもの不備やルール違反が明らかになった。作業員の声からは、事故現場のずさんな管理の実態が浮かぶ。(片山夏子)
10月25日、ALPSの配管を薬液で洗浄中、廃液をタンクに送るホースが外れ、数リットルが飛散した。廃液はストロンチウム90などの放射性物質が凝縮され、ベータ線を出す放射性物質の濃度は1リットル当たり43億7600万ベクレル。原子炉建屋にたまる高濃度汚染水より100〜1万倍ほど濃度が高い。
 近くにいた作業員2人はかっぱを着用せず、体表が汚染。一時入院した。今のところ、2人の体調に異変は起きていないという。

 ◆不適切なホース固定、責任者不在の社も

 元請けの東芝エネルギーシステムズの原因分析によると、廃液の発生量抑制のため予定になかった配管の弁を閉める操作をしたときに圧力が急上昇した。ホースの固定位置も不適切で、外れて廃液が飛散した。
 さらに、現場にいなくてはならない職長資格を持つ班長が下請け3社のうち1社で不在だった。東芝はルール違反と認識しながら、作業の実施を優先させた。
 別の現場のベテラン作業員は「指示を出す班長がいなければ、作業してはいけない。事故が起きたときに誰が責任を取るのかも曖昧になる」と説明する。

 ◆何度も行っている作業、と汚染防止対策せず

 「あれだけ高濃度の廃液を扱うのに、飛散したときのためにタンク周囲を遮へいするなどの汚染防止の対策を何もしてない」
 汚染水処理に携わった経験のある作業員は、事故現場の写真を見て驚いた。
 タンクはホースが入る上部が開いたまま。洗浄中にガスが発生するが、ホースはタンクから離れた場所に不安定な状態で固定されていた。「あまりにもずさん。かっぱを着ていないのもありえない」とあきれる。
 事故現場にいた作業員らへの東芝の聞き取りによると、これまでに何度も行われてきた作業で「飛散の可能性はない」と慣れによる慢心があったという。

 ◆事故の度に「今まで問題なかったから」と言う深刻さ

 東芝は今後、タンクを遮へい物の中に収めるように改める。ただ、別の下請け企業の幹部は「そもそも事前にやるべきだった」とした上で「安全対策が不十分な元請け企業の計画を許可した東電にも、管理責任がある」と指摘する。
 汚染水関連の作業では、これまでも事故が相次いでいる。2013年には別の汚染水処理設備で、作業員が誤った配管を外して11トンが漏れ、不十分な装備で止水作業をするなどして6人が被ばくした。15年には命綱をつけていなかった作業員が保管タンク上部から転落し、死亡した。
 複数の不備が重なった今回は、問題は深刻だと下請け幹部は言う。「事故が起きる度に『今まで問題なかったから大丈夫だと思った』という発言が出てくるようでは、また事故が起きる」
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