[2022_02_10_03]核融合実験で画期的な結果、クリーンな発電に期待も=英研究施設(BBC2022年2月10日)
 
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核融合実験で画期的な結果、クリーンな発電に期待も=英研究施設

 ジョナサン・エイモス科学担当編集委員
 欧州の研究チームが9日、核融合の実用化をめぐる実験で、革新的な結果が出たと発表した。
 核融合とは、惑星内で熱を生み出している反応。地球上で再現できるようになれば、低炭素で放射線量の低いエネルギーを生み出すことができるようになる可能性がある。
 イギリス・オックスフォード近郊にある「欧州トーラス共同研究施設(JET)」での実験では、2種類の水素を融合した時に発生するエネルギー量が5秒間で59メガジュ―ル(約11メガワット)と、過去最大を更新。1997年に行われた実験結果と比べると、2倍以上だという。
 59メガジュールは、やかん60個分の水を沸騰させられる程度で、エネルギー量としては大きくない。しかし今回の実験は、現在フランスに建築中の大型核融合施設の設計の妥当性を示すものとして、大きな意味を持つという。
 JETでの実験を主導したジョー・ミルネス博士は、「この実験により、核融合を使った発電に一歩近づいた」と説明。「機械の中に小さな星を作り、5秒間維持し、高いパフォーマンスを得られた。新たな領域に入った」と述べた。

 ■クリーンな発電への期待

 フランス南部に建設中の核融合実験炉「ITER(イーター)」は、欧州連合(EU)加盟国やアメリカ、中国、ロシア、日本など各国政府から成る共同事業体が援助している。今世紀後半にも核融合を信頼できる発電能力として確立するための最後の段階として期待されている。
 核融合を元にした発電所では、温室効果ガスは排出されず、放射性廃棄物も少量かつ短命にとどまるという。
 JETの最高経営責任者(CEO)を務めるイアン・チャップマン教授はBBCニュースの取材に対し、「今回の完了した実験は、うまくいく必要があった」と話した。
 「そうでなければ、イーターは目標を達成できるのかという、大きな懸念を抱えることになっていた」「これは大きな賭けだった。我々が今回達成したことは、関わった人々の素晴らしい才能と、科学的探究への信頼によるものだ」核融合は、原子核を分離させるのではなく強制的に近づける時にエネルギーが発生する原理を採用している。既存の原子力発電所では、原子核を分離させる核分裂が行われている。
 例えば太陽の中心では、大きな重力により、摂氏約1000万度の高温で核融合が起きている。地球ではそれほどの圧力は作り出せないため、核融合を起こすための温度は1億度以上とさらに高くなる。
 地球上に存在する物質で、これほどの高温に直接触れて耐えられるものはない。そこで研究者は核融合炉を作るため、高温に熱しプラズマ化したガスをドーナツ状の磁場に閉じ込める方法を考案した。
 イーターでプラズマの「燃料」となるのは、重水素と三重水素という水素の同位体だ。重水素と三重水素を加熱して核融合を起こすと、ヘリウムと中性子、そしてエネルギーが放出される。この中性子とエネルギーを使って融合炉外の水を沸騰させ、発電する。
 JETは、40年近く前にこの技術を導入した先駆的な施設だ。ここ10年では、イーターの稼働条件を模倣するよう調整されてきた。
 JETで採用されている80立方メートルにもなるドーナツ形の装置の内側は、同位体が効率よく働くような素材で作られている。1997年の実験では炭素を使ったが、炭素は放射性同位体である三重水素を吸収してしまうことが分かった。
 今回の実験では、ベリリウムとタングステンが使われたことで、吸収率は10分の1以下に下がったという。
 JETの研究チームはさらに、プラズマについても、この新しい環境で効率よく働くよう調整を行った。
 核融合についての著書のあるアーサー・トゥレル博士は、「今回の実験では、歴史上で核融合に使われたどんな機械よりも多くのエネルギー量を記録することができた。素晴らしい結果だ」とコメントした。
 「プラズマを5秒間にわたって維持したことは画期的なことだ。あまり長く感じられないかもしれないが、核レベルで言えば非常に、非常に長い時間だ。そして、5秒から5分、5時間、それ以上と延長していくのはとても簡単だ」しかし、JETの銅製電磁石では、これ以上の時間は加熱に耐えられない。イーターでは、内部で冷却される超電導磁石が使われるという。
 研究施設内の核融合では、生成されるエネルギーより消費エネルギーの方が多いことが有名だ。JETでは実験の際、500メガワットのフライホイールが2基使われている。
 一方で、プラズマの規模が拡大すれば、この欠点は将来的に解決するという確かな証拠があるという。イーターのドーナツ形の装置の容量はJETの10倍を予定しており、消費エネルギーと生成エネルギーが同程度になるとみられている。その後に建設される発電所では生成エネルギーが多くなり、電力を供給できるようになると期待されている。

 ■イギリスの参画への懸念

 核融合をめぐる計画は長丁場だ。JETでは300人以上が働いており、その4分の1が科学者としてのキャリアの前半にいるという。こうした人々が、研究のバトンをつなげていく。
 JETに勤務する30代のアシナ・カッパトウ博士は、「核融合は長い時間がかかり、複雑で、難しい研究だ」と語る。
 「だからこそ世代から世代へ、研究の成果を渡していける科学者やエンジニア、技術スタッフが常にいることが重要になってくる」それでも、多くの技術的な問題が残っているという。欧州では、EUとスイス、ウクライナの約5000人の科学者やエンジニアリングの専門家から成る「ユーロフュージョン」が、こうした問題に取り組んでいる。
 2020年にEUを離脱したイギリスも、ユーロフュージョンには参加している。しかし、イーターへの全面参加にはまず、EUの主催する科学プログラムとの「提携」が必要になる。しかしこの件は、ブレグジット後の通商協定をめぐる双方の不一致を受け、棚上げされてしまっている状態だ。
 イーターがプラズマ実験を始める2025年を前に、JETは2023年にも廃炉になる予定だ。
 (英語記事 Major breakthrough on nuclear fusion energy)
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