[2022_01_30_01]原発事故に備える避難計画 国が審査しない仕組み、いきさつ探ると…(毎日新聞2022年1月30日)
 
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原発事故に備える避難計画 国が審査しない仕組み、いきさつ探ると…

 自治体が原発事故に備えて立てる避難計画の実効性について、原子力規制委員会など国には審査する仕組みがない。東京電力福島第1原発事故では、着の身着のまま逃げて命を落とした人が多かったため、対策は強化された。ただ茨城県などの避難計画は、司法の場でいくつもの不備を指摘されている。原発事故から11年。審査の仕組みがないいきさつを探ると、規制委の設立の経緯に行き着いた。
 事故を防げなかった原発の規制行政を立て直そうと、当時の民主党政権は2012年の1月、それまでのように原発を推進する経済産業省ではなく、環境省に規制組織を設ける法案を国会に出した。一方、野党だった自民・公明両党はその3カ月後の4月、規制委の設置法案を提出。国家行政組織法第3条に基づき、省庁からの独立性が高い「3条委員会」という組織にするのが狙いだった。
 この時、国会は参院で野党が多数を占める「ねじれ国会」。こうした政治情勢もあり、政府内の水面下では「規制組織が3条委になる場合」の検討がされ始めた。原発敷地内の安全対策は3条委の規制委が審査するが、敷地外の対策になる原発防災は「専門家が担う規制委の委員では、自治体トップとの調整ができない」(政府関係者)との懸念もあり、省庁が連携する体制が思い描かれていく。
 ただ、自治体の避難計画などの審査が必要かどうかは、あまり議論にならなかった。「計画を良いとか、だめとか審査するといった発想がなかったし、考える余裕もなかった」。規制委の発足に関わったある省庁の幹部はそう明かす。
 新しい規制組織は国会論戦で決着せず、議論は民主と自公の実務者による修正協議に委ねられた。協議が始まってから9日後の6月14日、規制委を3条委にする形で合意。原発防災の業務は「原子力防災会議」(議長は首相)が担い、その事務局を内閣府に置くことなどで決着した。
 「原子力防災会議の案が出たのは修正協議の2週間くらい前。検討した期間は、4月下旬ごろから実質1カ月余りしかなかった」。政府関係者は、そう振り返った。慌ただしい駆け引きの中、避難計画の審査は話題になることがなかった。【岡田英、荒木涼子】
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