[2025_11_11_05]原潜保有論なぜ急浮上? 基本法の「平和利用」壁(時事通信2025年11月11日)
 
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原潜保有論なぜ急浮上? 基本法の「平和利用」壁

 07:30
 自衛隊による原子力潜水艦保有論が永田町でにわかに強まっている。自民党と日本維新の会の連立政権合意書に「次世代の動力を活用した潜水艦の保有」が明記されたのがきっかけだ。ただ、唯一の戦争被爆国である日本は原子力の平和利用を掲げてきた経緯があり、整合性を問う声も上がり始めている。

 ―原潜保有論が急浮上した理由は。

 厳しさを増す安全保障環境が背景にある。中国は軍事的威圧を強め、ロシアや北朝鮮と協力を深めている。防衛省の有識者会議は9月、長射程ミサイル搭載と長期間潜航が可能な潜水艦を保有することが望ましいとする提言を発表。自維の連立合意もこれを踏まえてまとめられた。

 ―「次世代の動力」は原子力を指すのか。

 防衛省が当初例示していたのは全固体電池や燃料電池だった。ただ、小泉進次郎防衛相は6日のテレビ番組で「今までのディーゼルか原子力かを議論しなければいけない」と発言しており、原子力も選択肢として想定しているのは明らかだ。

 ―原潜保有は国内法上許されるのか。

 政府は憲法上禁じられているとは解釈していない。しかし、原子力基本法第2条は原子力の研究・開発・利用を「平和の目的に限る」と定め、1965年には当時の愛知揆一科学技術庁長官が「原子力が殺傷力ないし破壊力としてではなく、自衛艦の推進力として使用されることも(中略)認められない」と国会で答弁している。最近では2024年に当時の林芳正官房長官が記者会見で「原潜保有は難しい」と語っている。

 ―外国の保有状況は。

 保有しているのはいずれも核兵器国。24年時点で、米国が66隻、ロシアが44隻、中国が15隻、英国が10隻、フランスが9隻、インドが2隻持っていたとされる。これに加え、オーストラリアや韓国も導入計画を進めている。

 ―日本の原潜導入に現実味はあるのか。

 導入に踏み切るには原子力基本法の改正か解釈変更が必要とみられ、予算案も成立させなければならない。自民、維新両党は衆参ともに過半数を有しておらず、現状では野党の理解を得なければ導入は見通せない。ただ、野党の一部からは専守防衛の原則や戦後日本の歩みに反するとの声も出ており、今週末にかけて行われる衆参予算委員会の質疑でも激しい議論が交わされそうだ。
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