[2024_09_18_02]原発「60年超運転」に反対を貫いた思いを振り返る 原子力規制委員・石渡明氏が退任<記者会見詳報>(東京新聞2024年9月18日)
 
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原発「60年超運転」に反対を貫いた思いを振り返る 原子力規制委員・石渡明氏が退任<記者会見詳報>

 19:56
 原子力規制委員会の石渡(いしわたり)明委員が18日、任期満了で退任した。石渡氏は、岸田政権が進めた原発の60年超運転を可能にする法改正に伴う規制制度の変更に際し、規制委の会合で「安全側への改変とはいえない」などとして最後まで反対。日本原子力発電(原電)敦賀原発2号機の審査では、原子炉直下の活断層の存在を否定できないとして「再稼働不可」の結論を導いた。(宮尾幹成)

 ◆「40年ルールを外すことに納得できず」

 原子力規制庁(規制委事務局)で開かれた退任の記者会見で、「60年超」に反対した時の思いを問われた石渡氏は「原子力基本法、炉規法(原子炉等規制法)といった法律を守ることが使命だと思って(規制委員に)就任した。炉規法の柱だと思っていた『40年ルール』を外してしまうことに納得できなかったのは事実だ」と振り返り、60年を超えて運転される原発の安全性への懸念に関しては「これから後にやっていただく委員がきちんとした審査をして、判断していただけるものと期待している」と話した。

 原発の60年超運転 2023年5月に成立した束ね法「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」で、「原則40年、最長60年」だった原発の運転期限から規制委の審査で止まっていた期間が除外され、60年を超える運転に道が開かれた。石渡氏は、法改正に向けた規制制度の変更を巡る規制委の議論で、審査を厳しくして停止期間が長引けば長引くほど老朽化した原子炉を運転することになると指摘し、「科学的、技術的な新知見に基づくものではない。安全側への改変とはいえない」と批判。新たな規制制度は、5人の委員のうち4人の多数決で決定された。

 ◆敦賀2号機への特別扱い「一切ない」

 敦賀原発2号機を巡っては、石渡氏は地震や津波の影響を調べる審査チームを率い、大地震を引き起こす恐れがある活断層が原子炉直下を通る可能性があるかを検討。現地調査もおこなった上で2024年8月下旬にまとめた審査書案では、活断層ではないとする原電の評価を「安全側に立っているとはいえない」と退けた。
 この判断について、石渡氏は退任記者会見で「特別扱いは一切ない。(他の原発と)同じ規則や解釈、審査ガイドといった公表文書をもとに審査している。恣意的な審査はやっていない」と強調した。

 石渡氏は金沢大理学部教授、東北大大学院理学研究科教授や日本地質学会長を経て、2014年9月に原子力規制委員(地震・津波担当)に就任。2期10年務めた。石渡氏の後任には、2024年9月19日付で山岡耕春(こうしゅん)名古屋大名誉教授が就く。

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 石渡明氏の記者会見での冒頭発言と主な質疑は次の通り。

 【冒頭発言】

 「この10年間、(地質学者である)私にとっては新しい分野の勉強の期間でもあった。原子力規制委員会の使命『原子力に対する確かな規制を通じて人と環境を守る』というのがはっきり文書(2013年1月9日に制定された組織理念)に書いてあり、これを実現するための活動原則の一番最初は『何ものにもとらわれず、科学的・技術的な見地から、独立して意思決定を行う』で、これは私は非常に好きな文句で、これに沿った形で科学的な審査をやるように努めてきた」

 【質疑】

 ―10年間の自己評価を。
 「1100回以上の審査会合をこの10年間でやってきた。その間に12基の原子炉が許可を得て稼働した。1基(敦賀原発2号機)は新規制基準に適合が認められないという結論になって、あと9基が審査中だ。心残りはあるが、ほとんど毎週のように審査をやってきて、自分としてはこれが限度かなという感じはしている」

 ◆「13基目が悪魔に負けたからといって…」

 ―敦賀原発2号機の審査を巡っては、原発推進派の識者から(原子炉直下に活断層が「ない」ことの証明は)「悪魔の証明」だと言われた。どう反論するか。
 「特定の発電所に何か特別な扱いをしているということは一切ない。(他の原発と)同じ規則やその解釈、審査ガイドといった公表文書になっているものをもとに審査をおこなっている。誰かの意見でもって恣意的な審査をするようなことはやっていないつもりだ」
 「悪魔の証明とおっしゃる方がいるが、既に12基の原子炉がその証明をおこなって審査に通っている。13基目が悪魔にたまたま負けたからといって、これはとんでもない悪魔だということにはならないんじゃないかと思う。実際、最初の判断では活動性が認められていた、敷地内の重要施設の直下を通る断層が、実は活動性がないということを、新しくデータを出して証明された例もある」

 ―60年超の運転がいずれ実現する道ができたことを、今どのように考えているか。
 「私の考えは(2023年に規制委で議論した)あの時申し上げた通りで、一切変わっていない。意見が通らなかったのは残念だが、今のところあの時に申し上げたことを何か変える必要はないと思っている」

 ―安全側への改変ではない制度のもとで原発が運転されることになるが、安全性への懸念はお持ちか。
 「これから後にやっていただく委員がきちんとした審査をして、判断していただけるものと期待している」

 ―運転延長の制度変更に最後まで反対したのは、どういう思いがあったからか。
 「個人的に、原子力基本法、炉規法(原子炉等規制法)といった法律を守ることが使命だと思って(規制委員に)就任した。炉規法の一つの柱が『40年ルール』だと思っていた。それを外してしまうことについて、私としては納得できない思いがあったことは事実だ」

 ―これからの規制委はどうあるべきか。
 「やはり法律に書かれていること、それから規制委員会の組織理念、特に組織理念に関してはこれ10年間変わっていないわけで、これは堅持していただきたい、いただくべきだと考えている」

 ◆多数決は民主主義の手段、否定しない

 ―1人だけ反対を貫いたことについては、専門家の矜持として支持する声も多い。石渡委員の鳴らした警鐘は生かされているか。
 「多数決というのは民主主義の重要な手段であり、それについて何ら否定するものではない」

 ―敦賀原発の審査では、日本原子力発電に資料の誤記や書き換えといったずさんな対応もあった。審査の中でどう思っていたのか。
 「いろいろな経緯があって、だいぶ時間をかけて審査をして、一定の結論がこの7月の終わり、あるいは8月の初めに出た。今の私の心境としては、それが全てであると思っており、特に何か感情的なものがあるということはない」
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