[2024_09_21_06]日本の電力需要は年率1%程度で減少する(「日経クロステック」) 発電所を増設する必要はない 原発推進の理由で経産省を代弁するような河野太郎氏 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2024年9月21日)
 
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日本の電力需要は年率1%程度で減少する(「日経クロステック」) 発電所を増設する必要はない 原発推進の理由で経産省を代弁するような河野太郎氏 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

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 第七次エネルギー基本計画、通常「エネ基」の改訂作業が経産省で行われている。この中で、大きく問題になるのは、原子力の扱いと再生可能エネルギーの位置づけである。これまでの「エネ基」では、震災の教訓から「可能な限り原発依存度を低減する」(第六次エネ基)としてきた。ところが、昨年の岸田政権において「脱炭素電源法」が成立した際、「原子力の活用」との方針大転換を行った。

 GX電源法は、具体的には主に次の4つの法令改訂によりできている。
 電気事業法、再エネ特措法、原子炉等規制法、再処理法である。

 これらの法令の改訂を簡単にまとめると次の通り。

1.原子力基本法の改正では、原子力利用の目的、基本方針で「地球温暖化の防止」と「事故を防止できなかったことを真摯に反省」との言葉が追加されたうえに、安定供給と脱炭素を口実に原発を活用することなどを「国の責務」として原子力基本法に明記した。

2.40年を超える長期運転を許可する権限は炉規法から電気事業法に移された。
 これは許可をする機関が規制委から、推進の経産省に移ることになり、「運転期間は40年」「延長期間は20年」としつつも経産大臣が許可すれば、事業者が予見しがたい事由(震災以降の安全規制に係る制度・運用の変更や司法判断など)で運転期間の時間から排除することで、実質的に60年を超える運転が可能になった。

3.老朽炉の再稼働許可を巡る規制は、これまでの「40年以内に許可されなければ廃炉」の制限がなくなり、
 イ.運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年以内ごとに「高経年化技術評評価」を行い、
 ロ.その結果に基づき長期施設管理計画を作成し、規制委員会の認可を受けることで60年どころか、もっと長期間運転が可能になった。

 「エネ基」よりも前に、「エネ基」で定めるべき原子力の利活用方針を法律で規定している以上、岸田政権の原発政策大転換と同様に、「エネ基」においても原子力の利活用推進を掲げてくることが確実だ。
 具体的に今回のエネ基に、どのような文言で盛り込まれ、何を根拠としてくるのかが、大きな関心事になっている。

[1]河野太郎氏の変節とデジタル化

◎ 原発推進の理由について、ある人の言葉が経産省の主張を代弁しているようだ。その人物とは、河野太郎氏。
 もともと自民党内での脱原発派の最左翼と目され、特に核燃料サイクル政策を批判して、自身のブログでも「六ヶ所村の再処理工場の稼働に反対する」と主張していた。
 ところが今回、総裁選挙に立候補するにあたり「脱原発」の自論を撤回し、超党派の国会議員有志で作る「原発ゼロの会」を立ち上げた立場からも大転換して、「リプレース(建て替え)も選択肢」と語った。変わり身の早さというか、みっともないというか、あまりの変節ぶりにあきれるばかりだ。

◎ その理由らしきものは記者会見の場で明らかにされたのだが、それが「今後予想される電力需要の急騰に対し既存の原発の再稼働でも足りない」ということらしい。
 いかにも経産省による「レクチャー」に「説得」された感が大きいのだが、原発推進側の都合の良い『未来予想』に惑わされる程度では、河野太郎のレベルもその程度かと、残念に思う。

◎ もっとも、デジタル担当大臣としてマイナンバーカードの押しつけ、事実上の強制を推進している姿を見ても、今回の変節は予想できたと思う。
 マイナンバーカードの強制(マイナンバーの強制ではない。マイナンバーは行政システムの隅々で「強制」的に運用されており、カードを持っているかどうかで行政の効率が変わるわけではない。)と健康保険証を一体化することに、いかなる行政上の「効率化」も存在しない。
 表面的な保険証との一体化がなくても番号制度で一元管理は既に完成している。

◎ こうした「画一的制度の強制」を行うと、むしろ「対応できない」人への対策を考えて実行しなければならず、行政効率はむしろ落ちる。
 コストもかかる。簡単な話、マイナンバーカードと保険証が一体となった状態で、カードを紛失したらどうなるか。
 「特定個人情報の漏えい」と「健康保険証の紛失」に対応する窓口に、それぞれ緊急に届け出をしなければならない。
 受け取った行政側は、再発行などの手続きを進めるが、直ちに再発行できるわけではない。通院している人には「資格確認書」を発行する必要があり大変な手間になるが、マイナンバーカードについては、あってもなくても市民は大抵は困らないが、悪用されるなどの問題だけが生じる。

◎ 民主主義とは、多数の権利・利益を守ることではなく、少数者の権利を擁護することが根幹だ。
 マイナンバーカードを持たず、従来の健康保険証を使いたいという人の権利を踏みにじってまで強行することで、誰に、どんな利益があるのか。
 マイナンバーカードと保険証を両立させていかなる不都合があるというのだろうか。これについて河野氏は答えない。(下)に続く

[2]電力需要は現状から「激増」するのか、否…年率1%程度減少する

◎ 河野氏は原子力への対応を大転換した。
 その最大の理由が「将来電気が足りなくなる」からだと、記者会見で明らかにしている。
 データセンターや生成人工知能など新たな電力需要が増えていて「再稼働しても足りない可能性がある」と主張している。

◎ では、本当に電力不足に陥るのだろうか。検証してみる。
 電力中央研究所(電中研)による将来予測は、意外な値だ。
 「基礎的需要・省エネ・電化を考慮した電力需要は2050年度8290億〜1兆75億kWh」(電力中央研究所)。
 なお、中位推計は9230億Kwhである。
 この中では最大値が3割以上増加していることから、報道では次のような記事を出したところもある。

◎「膨大なデータ計算が必要な生成AI(人工知能)の利用拡大で電力の消費量が急増する。データの計算や保存を行うデータセンターを新設する企業が相次ぎ、日本では2050年に4割弱増えるとの予測がある。技術革新に伴い、想定以上に電力消費が進む。脱炭素化を進める政府のエネルギー戦略に影響を与える可能性もある。」(日経新聞4月11日)

 しかし2023年度の消費電力量は8020億Kwhである。これは前年度比2%減、過去10年で消費電力量が12%減少している。
 ピークだったのは2010年で、震災の前の年の1兆1237億Kwhと比較すると約3割も減っている。

◎ 電中研は原発を推進する電力会社系の研究機関で、平岩芳朗理事長は元中部電力副社長、評議員には東電や原電の社長も名を連ねる。
 その研究機関の2050年の電力需要見通しは、最小値では「激増」どころか、微増にすぎない。最大推計でもわずか34%の増でしかない。わずか、というのは、これが2050年と、今から25年も先の話だからだ。
 最大想定でも年率1.36%しか増加しない。データセンターだ、AIだといっても、一年で3割も増加するわけではない。

◎ これで原発を稼働させても間に合わないなどということは起こり得ない。河野大臣は何のことをいっているのだろうか。
 それでも、猛暑に厳冬と、電力の消費量のピークが増大するから電力が逼迫するということだろうか。
 しかし現実にはこれも、年々低下し続けている。今年の夏は日本の気温は観測史上最大を記録した。
 しかし電力消費量は大幅に減っているのである。
 日本は少子高齢化が進むと同時に、人口減少時代に入った。

◎ さらに、電気料金は高止まりしているため、省エネの努力が一般家庭だけでなく産業規模でも進んでいる。

 日経新聞系の「日経クロステック」は、日本の電力エネルギー構造について次のように書いている。
 「日本では2010年をピークに年間消費電力がほぼ右肩下がりに低減しているからだ。ちょうどそのころから、地球温暖化の抑制に向けた温暖化ガス削減の世界的取り組みが盛り上がって、LEDや高効率モーター、そして太陽光発電など各種の省エネルギー技術の開発や実用化が進んだ。また、2011年3月には東日本大震災が発生した。これらによって、日本におけるエネルギー消費の“体質”が変わったと考えられる。その意味で2010年は大きな分水嶺になった。(中略)2010年と2022年の日本の年間消費電力を結ぶとその傾きは年率1.2%減。仮にこれが2050年まで続くとすると、電中研がAIデータセンターや水素生産などに必要になる最大電力量の年率増加率1.0%を相殺して、まだお釣りが出る。」
 このような視点は、原発推進派には全く理解されていないようだ。

[3]本当の問題はどこにあるのか

◎ 2023年6月末に東京電力管内では確かに電力逼迫警報が出される事態になった。
 しかしこれは発電所が不足したわけではない。
 季節外れの猛暑に、発電所の定期検査の時期がぶつかり、運悪く逼迫状況が生まれただけである。その際も東電以外のエリアには十分余裕があったので、広域的に電力の相互供給体制があれば起こらなかった。

◎ 問題は、原発などの大規模な発電所が不足しているのではなく、電力システムの問題なのだ。
 特に、再生可能エネルギーの大きな供給力を有するのは北海道や九州で、消費地から遠い。従って、これらの電力を広域的に融通するシステムを構築すれば有効活用ができる。
 また、日中に発電する太陽光については、蓄電システム(バッテリーだけではない。物理的な蓄電システムもある)を構築すれば夜間も使える。

◎ 電力のリスクは、発電所不足にあるのではない。台風や地震に脆弱な広域に張り巡らされた送電システムや、老朽化した火力、大規模発電所に依存している供給システムにある。
 これを解決するには、小規模で環境負荷の少ない発電所と、蓄電システムの接続、コンパクトな送電網の構築が喫緊の課題だ。
 日本のように、地震や台風災害の多発する国では、大規模な発電所が停止するリスクがそのまま大規模停電の引き金になる。

◎ 北海道で最大震度7の北海道胆振東部地震が起こったのは、2018年9月6日3時7分。この地震にともない、北海道エリアにおいて、3時25分、日本で初めてとなるエリア全域におよぶ大規模停電(ブラックアウト)が発生している。
 台風被害では、2019年9月23日に千葉でブラックアウトが発生した。
 台風15号は千葉県房総で鉄塔2基、多数の電柱をなぎ倒し、約100万戸の停電が発生、千葉県内では16日になっても6万戸が停電したまま。東電は他電力会社の応援を含め16,000人で復旧作業を行ったが完全復旧に3週間を要している。
 こうした自然災害に原発も極めて脆弱である。

◎ 原発そのものに重大な損害がなくても、原発の基礎盤付近で120ガル程度の揺れが観測されれば自動停止する。
 安全のため自動停止する設計になっているので、安全上止めなければならない。その後点検して、安全確認後に運転開始できても1週間程度は止まっている。
 地震被害で電力が必要な時期に原発は動かない。南海トラフの地震などが発生すれば、西日本全域の原発は止まると考えられる。
 浜岡や伊方は甚大な被害を受ける危険性が高いし、福井県や九州の原発も危険にさらされるだろう。

◎ 巨額の原子力予算は、電力システムの強靱化や自然災害対策に使うべきだ。
 広域的な電力送電システムの構築よりも、地域で電気の地産地消を取り組むことも重要だ。
 原発や再処理工場など、電気を生むより核のごみを生み出すものこそ、廃止するべきだ。
     (初出:たんぽぽ舎月刊ニュース No345、2024年9月号)
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