[2024_09_20_04]日中、経済交流・安保など懸案山積 処理水は歩み寄り(日経新聞2024年9月20日)
 
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日中、経済交流・安保など懸案山積 処理水は歩み寄り

 20:30
 日中間の大きな懸案だった東京電力福島第1原子力発電所の処理水の問題に歩み寄りの動きが出た。2国間には安全保障や経済交流、邦人の安全確保など複数の課題がなお残る。関係改善へ一つずつ成果を積み上げる必要がある。
 日中関係の「トゲ」と言われていたのが処理水の海洋放出問題だ。中国は処理水を「核汚染水」と呼び、2023年8月の放出開始を受けて水産物の全面禁輸を始めた。国際会議の場などで日本の対応を批判して対立をあおる姿勢を見せていた。
 水産業への影響は大きい。7月の貿易統計で魚介類の中国向け輸出額は禁輸開始前だった前年同月に比べ99%減に沈む。

 岸田文雄首相は20日、首相官邸で記者団に、日本産水産物の輸入再開に向けた調整に入ることで日中間で合意に至ったと説明した。「輸入が着実に回復されると理解している」と強調した。
 日中関係は20年前後から不安定になっていた。20年春に見込んだ習近平(シー・ジンピン)国家主席の国賓来日が新型コロナウイルスの発生を理由に見送りになった。中国の海洋進出など安保上の懸念もこの頃から深まった。
 22年秋の国交正常化50年を節目に岸田首相と習主席の首脳会談を再開させ、改善の兆しが出ていたところに、処理水問題が影を落とした。科学的根拠をもとに海洋放出に踏み切った日本政府を中国は強硬に批判した。

 ロシアによるウクライナ侵略や深まる米中対立などを背景に世界の分断が進む。日本側には中国が国際社会で優位に立つ手段として処理水問題を利用したとの見方がある。国際社会での日本への風当たりは強まらず、中国の想定通りにはならなかった。
 23年11月の日中首脳会談で共通の利益を追求する「戦略的互恵関係」を確認するなど、2国間関係では再び改善機運が高まっていた。処理水問題を巡っては建設的な対話で解決方法を見いだすと確認した。
 24年5月の岸田首相と李強(リー・チャン)首相の会談では、処理水問題に関し専門家による対話に加えて外交当局間の事務レベル協議を加速すると合意した。

 日本は11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などで首脳会談を開く機会を捉えて処理水問題を解決するため、中国側と協議を重ねていた。
 中国政府は日本産水産物の全面禁輸の撤廃を「対日関係における有効なカード」(日中関係筋)と位置づけて温存してきた。ここにきて禁輸緩和に動くのは日中関係のさらなる悪化が得策ではないとみるからだ。
 日本の対中投資は中国経済の低迷や「反スパイ」を名目とする邦人の拘束を受けて落ち込んでいる。

 中国側には11月の米大統領選をみすえ、対米関係の悪化に備えたいとの算段も働く。米国の次期政権が通商や安保で対中抑止の包囲網をいっそう強める可能性があるためだ。いま日本との関係改善を進めて日米や日米韓の結束を阻む思惑がある。
 日本側も自民党総裁選(27日投開票)を経て就任する新首相次第で、中国との関係に不確実さを残す。
 処理水問題が前進しても、日中間には邦人拘束や日本人の査証(ビザ)免除措置の停止など懸案が山積している。

 何よりも中国の東アジアでの軍事的な挑発行為がエスカレートし、日本周辺の安保環境は脅かされている。8月下旬に初めて日本の領空に中国軍機が侵入し、9月18日には中国海軍の空母「遼寧」など艦艇3隻が日本領海に隣接する接続水域へ入った。
 さらに中国南部の広東省深せん(しんせん)市で18日、日本人学校に通う男児が刃物で刺され、翌日死亡した。6月には江蘇省蘇州市で日本人母子らが切りつけられる事件も起きた。駐在員や帯同家族の一時帰国を検討する日本企業もある。
 中国は日本産水産物の輸入を直ちに再開するわけではない。処理水の採取体制に中国を受け入れるといった手続きを経て、確実な輸入再開につなげる外交努力が続く。
 (三木理恵子、北京=田島如生)
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