[2025_07_01_01]能登半島地震 地下の「流体」 掘削してメカニズム探る計画(NHK2025年7月1日)
 
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能登半島地震 地下の「流体」 掘削してメカニズム探る計画

 21:42
 能登半島地震では地下に水など何らかの「流体」が移動してきたことで、地震活動が活発化し、大地震につながったと指摘されています。この「流体」はどこからどのように流れ込んできたかはわかっておらず、実際に掘削してそのメカニズムを探ろうという計画が動き始めています。
 能登半島では2024年1月1日に起きた、マグニチュード7.6の大地震の3年余り前にあたる、2020年12月ごろから地震活動が活発になっていました。
 このとき、能登半島が隆起する変化が観測され、研究者の間では地下に水など、何らかの「流体」が上昇して周辺の断層に広がり、断層が滑りやすくなるなどして地震活動の活発化につながったと指摘されています。
 一方、この「流体」は具体的にどのようなもので、どこから上昇してきたのか、そして、今どうなっているのかなど詳しいことはわかっていません。
 このため、産業技術総合研究所活断層・火山研究部門の大坪誠上級主任研究員のグループは能登半島で流体を直接採取する掘削調査を計画しています。
 珠洲市で隆起した海岸を地下数キロにわたって掘削し断層から岩石などを採取して成分を分析することにしています。

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 また、地下に直接、観測装置を設置し、「流体」の変化を長期的に観測する計画です。
 国際的な枠組みで実施するため、掘削を始めるまで数年はかかる見通しですが、先月には、候補地としている珠洲市の海岸を訪ね、掘削を妨げるような固さや、大きさの石がないか確認していました。
 この場所は能登半島地震の震源域に近く、2キロ程度掘削すれば、断層に到達する可能性があると考えています。
 大坪上級主任研究員は「世界的にも流体と地震の関係は広く議論されているが、そのものを採取することはなかった。今回の調査で流体と地震との関係を明らかにしたい」と話しています。

 能登の「流体」現在はどうなった?

 能登半島地震に影響したとされる地下の流体は地殻変動の解析でその存在が明らかになりました。
 京都大学防災研究所の西村卓也教授は大地震が起きる前から衛星のデータを使って能登半島の大地の動き、地殻変動を観測してきました。
 地震活動が活発になった2020年12月ごろから、珠洲市で震度6強の揺れを観測した地震が発生した2023年の5月ごろまでの地盤の隆起は、6センチに達していました。
 分析の結果、地下15キロほどにおよそ3000万立方メートルの流体が上昇し、こうした隆起につながったとみています。

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 3000万立方メートルは、東京ドームおよそ24個分に相当する多さです。
 西村教授は、沈み込むプレートから長い時間をかけて分離した水が上昇した可能性もあるとみています。
 この流体が断層に入り込み、滑りやすくなるなどして、一帯での地震活動の活発化につながったと考えています。

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 去年の能登半島地震の後、流体はどうなったのか。
 西村教授は去年1月の地震のあとからことし5月までの地殻変動を改めて解析した結果、能登半島では地震前から一転して地盤が沈む動きが続いていて、新たな流体の上昇を示す変化は見られないということです。
 これまでに上昇した流体の行方については、動かずに地下にとどまっているか、大地震で大規模にずれ動いた断層から流出したことなどが考えられるということですが地殻変動のデータだけではわからないとしています。
 西村教授は「再び大規模な変化がないか観測を続けていく。流体が地震に与える作用は、まだ十分にわかっていないので研究を進める必要がある」と話しています。

 流体と地震との関係 ほかの地域でも

 流体と地震との関係は、能登半島以外の地域でも指摘されています。
 気象庁の観測によりますと山口県北部では、ことし2月から揺れを体に感じない程度のごく小さな地震が発生し、3月から活発化していて、5月末までに1913回発生しています。
 政府の地震調査委員会は、山口県北部の地震活動について、震源が次第に浅くなっていることや地殻変動の状況などから考えて、水などの流体が上昇して地震活動が促進されている可能性があると指摘しています。
 また、海と陸のプレートの境界で起きる巨大地震でも流体の影響は指摘されています。
 宮崎県延岡市の海岸では、過去のプレート境界型地震の痕跡が見つかっていて産業技術総合研究所の調査では水が入り込んだ跡が複数、見つかっているということです。
 産業技術総合研究所活断層・火山研究部門の大坪誠上級主任研究員はプレート境界型の地震を引き起こす断層に流体が流れ込んで滑りやすくなったことが地震につながった可能性があるとみています。
 この断層は巨大地震の発生が懸念される南海トラフのプレート境界とも岩石の種類などが似ているということで、大坪上級主任研究員は、流体の調査は、巨大地震が発生するメカニズムの解明にもつながるとしています。
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