[2025_11_23_02]大雪と地震で交通マヒの記憶…机上の避難計画に不安と課題は積もるばかり 柏崎刈羽原発再稼働容認に地元は(東京新聞2025年11月23日)
 
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大雪と地震で交通マヒの記憶…机上の避難計画に不安と課題は積もるばかり 柏崎刈羽原発再稼働容認に地元は

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 〈見切り発車、柏崎刈羽〉[1]全3回
 首都圏に電力を送る東京電力柏崎刈羽原発の再稼働が現実味を帯びてきた。立地する新潟県の花角英世知事が21日、再稼働を容認した。
 県民意識調査では、福島第1原発事故を起こした東京電力の再稼働に「条件は整っていない」とした声が6割を占めた。
 再稼働で地元経済の活性化を期待する声がある一方、事故の危険性は格段に高まる。再稼働の準備は本当に整っているといえるのか。(この連載は、浜崎陽介、荒井六貴が担当します)

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 ◆大雪で国道8号が動かなくなり、車中で一夜を

 建物2階から広大な日本海を見渡せる新潟県柏崎市の特別養護老人ホーム「くじらなみ」を取材で訪れた。施設内では、いすに腰かけて穏やかに眺める高齢者の姿が見られた。
 施設は柏崎刈羽原発から南西10キロ余りで、入居者は80人、ショートステイの利用者を含めると100人ほど。多くは要介護4や5で全面的な介助が必要だ。

原発から約10キロにある特別養護老人ホーム「くじらなみ」=新潟県柏崎市で

 園長の金子直恵さん(54)は、2022年12月に県内で降った大雪を振り返る。「国道8号がまったく動かなくなり、出勤や帰宅がままならず車中で一夜を過ごした職員もいた」
 施設を挟んで海と反対側に片側1車線の国道8号が通る。記録的な降雪で渋滞や立ち往生が続き、20キロにわたり2日間通行止めになった。
 花角知事も再稼働容認を表明した会見で「豪雪地帯で雪が積もっている時期にシビアな事態が起きたら、安全に避難できるのかという心配は他地域よりも大きい」と認めた。

 ◆能登半島地震では山側に避難する車で大渋滞

 2024年1月の能登半島地震では、市内で震度5強を観測。津波警報が発令され、この時も8号では海側から山側に避難する車で大渋滞が発生した。

能登半島地震の津波警報で高台に避難してきた人たちの車列=2024年1月1日、新潟県柏崎市で(佐藤正典市議提供)

 もし、そのときに放射能が漏れる深刻な原発事故が発生していたら…。5〜30キロ圏内では原則的に屋内退避し、放射線量が基準を超える場合は避難に切り替えるが、大雪と地震どちらのケースでも、とても避難できる状況になかった。
 渋滞緩和のため、国は8号の迂回(うかい)路や高速道路への緊急進入路の整備を進めるとしているが、完成時期は未定だ。

 ◆足りない福祉車両、車いすで乗れるのは2人まで

 道路が使えても、福祉車両が足りない。くじらなみでは2台所有するが、車いすで1度に乗れるのは2人が限度という。同じ法人が運営する市内5施設で車両の融通も想定するものの、避難先まで何往復もすることになる。
 内閣府は東京電力の所有する30台余りの福祉車両のほか、県のハイヤー・タクシー協会に依頼するとしている。ただ、被ばくのリスクがある中、実際にどれほど助けが来るかは分からない。
 高齢者が避難に耐えられるかも懸念される。金子さんは「移動に長時間かかるのは高齢者にとってリスク。危険だと判断したら、ここを動かない選択をすると思う」と言う。

 ◆原発から5キロの老人ホーム、即時避難が求められるが

 屋内退避するにしても、施設には気圧を高めて放射性物質の侵入を防ぐ「陽圧化」の機能はなく、11月に入り県から導入する意向があるか聞かれたばかりだ。水や電気、食料のほか、職員を十分に確保できる保証もない。
 同じ柏崎市内にある特別養護老人ホーム「にしかりの里」は、原発から北東約5キロに位置し、事故時に即時避難が求められる。11月9日、地震に伴う事故を想定し、要支援者を避難先の施設まで搬送する県主催の訓練があった。
 車いすの要支援者役を福祉車両に乗せ、受け入れ先の100キロ余り離れた新潟県村上市の特別養護老人ホームまで搬送。高速道路を使い、休憩を取りながら2時間15分で到着した。

福祉車両に車いすの要介助者を乗せて搬送する訓練の様子=新潟県柏崎市で(県提供)

 施設では約80人が生活し、ほとんどは80〜90代で要介護度も高い。山田宥人(まさひと)施設長(55)は「道中で体調が悪くならないか心配だ。薬や避難先で必要な備品も用意しておかなければいけないと感じた。早朝や夜間であれば、職員が集まれるかという不安もある」と打ち明ける。

 ◆再稼働に執着する政府、住民を守る環境づくりは後回し

 避難計画では、避難で健康リスクが高まる恐れがあれば、屋内退避するとしている。にしかりの里は施設の一部に陽圧化の設備を設けているが、山田さんは「狭いところに大勢入れば、身動きが取りづらく不自由をかける」と話す。
 柏崎市と刈羽村の5キロ圏内で、陽圧化の設備導入済みの福祉施設は今年6月時点で5施設、整備中や未実施は18施設。国は昨年、導入を全額補助する対象をこれまでの柏崎刈羽原発10キロ圏内から30キロ圏内に拡大したが、整備は道半ばだ。
 国は原発の再稼働に執着し、住民を守るための環境づくりは後回しだ。原発事故は起こらないという「安全神話」が再び頭をもたげる。
 福島第1原発事故の災害関連死に詳しい福島県立医科大の坪倉正治主任教授(43)は「無理やり避難してたくさんの方が亡くなった福島の教訓から、特に5〜30キロ圏では屋内退避せざるを得ない。ケアするスタッフを集められるのか、物資の確保や情報の伝達など詰められていない課題は山ほどある」と指摘する。
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