[2025_11_22_07]柏崎原発再稼働へ 賛否二分のまま容認 知事選の争点化回避か(東奥日報2025年11月22日)
 
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柏崎原発再稼働へ 賛否二分のまま容認 知事選の争点化回避か

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 来年6月の任期満了を控える新潟県の花角英世知事が東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(同県柏崎市、刈羽村)の再稼働を容認すると表明した。県民の賛否が割れる中での決断には、知事選での争点化を避けようとした狙いが透けて見える。地元同意手続きはヤマ場を越え、東電は6号機を来年1月にも再稼働させる構えだ。政府も原発の最大限活用を掲げるが、原子力政策には課題が山積している。

 「エネルギー情勢などを考えると、国からの再稼働への理解要請も1年半前にいただいており、そろそろ結論を出さなくてはならない」。新潟県庁で21日に開かれた再稼働容認に関する臨時記者会見。花角氏は何度も手元の資料に目を通し、緊張感がにじみ出ていた。
 国土交通省の官僚だった花角氏は2018年に初当選し、世界最悪レベルの原子力災害である福島第1原発事故を起こした東電に再度の原発運転を認めるかという難題に向き合ってきた。自民党関係者は「火中の栗を拾わせるような形で担ぎ上げた」と振り返る。

 県民を二分する難題を突き付けられた花角氏。関係者によると、重要判断について相談相手となるブレーンなどは政財界にも地元にも少ないとみられている。「あの人はそういうタイプの人ではない」との声も。21日の登庁時「昨日までずっと考えていた」と報道陣に打ち明けた。
 新潟県は長い時間をかけて第1原発事故を独自に検証し、県民の考えを把握するために公聴会や意識調査も実施してきた。地元同意手続きの動きが加速する契機となったのは、10月の県議会だ。

 東電は集中立地への懸念を踏まえて柏崎刈羽全7基のうち1、2号機の廃炉検討を表明し、地域経済活性化のため計1千億円規模の資金拠出を県側に提示した。花角氏は再稼働容認に合わせて公表した文書で「地域と共生していく、ともに歩むという決意の表れ」と評価した。
 花角氏は来年6月に2期目の任期満了を迎える。判断が長引けば知事選で再稼働問題が争点化する恐れがあった。別の自民関係者は「県民の意見が割れている中、争点になればどちらに転ぶか分からない。好ましくないと思う人たちがたくさんいる」と明かした。

 柏崎刈羽再稼働は近づいたが、東電には依然として厳しい目が注がれる。02年には原発のトラブル隠しが発覚し、11年の第1原発事故で信頼は地に落ちた。柏崎刈羽6、7号機の審査合格後もテロ対策の不備が相次ぎ、地元同意手続きが長期化する要因になった。「東電と心中してもよいというほど信頼しているわけではない」。花角氏もくぎを刺した。
 今年2月に閣議決定したエネルギー基本計画は、40年度の電源構成に占める原発比率を2割程度に設定した。既存原発の大半に当たる30基程度を動かす必要があるが、再稼働は停滞している。

 関西電力は今月5日、美浜原発(福井県美浜町)での原発新設に向けた調査を再開した。第1原発事故後、原発新設に向けた調査は初めてだが、巨額の建設費工面など課題もあり、関電に続く新設計画は具体的に見えてこない。
 原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場を巡っては、北海道や佐賀県の自治体が選定の入り口となる文献調査を受け入れただけで建設のめどは立っていない。「原発最大限活用」の陰には先送りできない難題が横たわっている。

 新潟知事「丁寧に声聞いた」 反対派は不信感も

 「丁寧に、できるだけ多くの人の声を時間をかけて聞くプロセスを大事にしたつもりだ」。新潟県の花角英世知事は21日の記者会見で、住民の賛否が分かれる中での難しい決断だったことをにじませた。ただ再稼働に反対する人たちからは「作られたシナリオだ」と厳しい声も上がった。
 午後4時に県庁で開かれた記者会見。花角氏は「どうしたって賛成、反対がある中で、どちらかを取れば反発は残る。できるだけ反発を小さくしたいと思っていたのは事実」と結論に至る過程を説明。「原発と向き合うのは地域の深刻な重い課題」とも述べた。

 自身の判断を県議会に諮るとし「引き続き私に任せてもらえるか、決めてほしいということだ」。信任されない場合は「知事の職を辞めたい」と言い切った。
 国全体に関わる問題で、地元同意の判断を迫られたことには「(国から同意要請があったために)答えざるをえなかった」とし「ボールを受け取った身としては非常に悩ましかった」と吐露した。

 原発が立地する同県柏崎市の経済団体のメンバーは「県民の理解を得ようとしているのを感じた。前向きに歓迎したい」と評価した。
 一方、小雨が降る県庁前では、市民ら約20人が手でバツ印をつくったり、反対の意を示す旗を掲げたりして「原発再稼働お断り」と訴えた。
 市民団体代表の桑原三恵さん(77)=新潟市=は、再稼働の是非は県議会で諮る問題ではないと主張。県民投票で決めるべきだとした。

 「作られたシナリオと感じる」。再稼働反対の会派「リベラル新潟」の小泉勝県議は不信感をあらわに。県民意識調査で意見が分かれており「多くが心配している中での判断は心外。早すぎる」と述べた。

 政府 地元理解に全力 野党 避難計画疑問視

 政府は、新潟県の花角英世知事による東京電力柏崎刈羽原発の再稼働容認を踏まえ、地元の理解を得るため全力を挙げる構えだ。木原稔官房長官は21日の記者会見で、地元説明や防災体制の充実に注力する考えを示した。一方、野党からは住民の避難計画や安全性を疑問視する声が上がった。
 木原氏は「電力供給や電力料金の抑制の観点から極めて重要だ」と再稼働の必要性を強調。「県民への十分で丁寧な説明、情報発信、原子力防災体制のさらなる充実強化などを実行し、再稼働に取り組む」と述べた。

 日本維新の会の藤田文武共同代表は記者団に「前向きな表明に敬意と感謝を表する。党として後押しする」と語った。
 立憲民主党の野田佳彦代表は会見で、実効性のある避難計画と地元の合意が、党として再稼働を認めるかどうかの基準だとの認識を示した。ただ地元県連は「しっかりとした避難計画があるとは言えず地元に対する説明も十分ではない」と現時点では反対の立場だと語った。県連の意向を踏まえ党として判断するとした。

 共産党の山添拓政策委員長は、東電福島第1原発事故に触れ「言語道断だ。多くの人々に対する責任がまだ問われている最中に、原発再稼働に及ぶのは到底許されない」と批判。柏崎刈羽原発に閲し「安全性が十分確保された場所ではない」とも指摘した。
 国民民主党は7月の参院選公約で、安全基準を満たした原発の再稼働を掲げた。
 榛葉賀津也幹事長は「原子力政策に国がもう少し責任を負うべきだ。自治体の長が十字架を背負う。知事は苦しい判断だったと思う」と話した。
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