[2025_11_20_08]【原子力資料情報室声明】あらためて言葉について考える ―東京電力柏崎刈羽原発再稼働にむけた動きについて―(原子力資料情報室2025年11月20日)
 
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【原子力資料情報室声明】あらためて言葉について考える ―東京電力柏崎刈羽原発再稼働にむけた動きについて―

 04:00
      あらためて言葉について考える 

  ―東京電力柏崎刈羽原発再稼働にむけた動きについて―

  2025年11月20日

  NPO法人原子力資料情報室

 新潟県の花角英世知事が間もなく東京電力柏崎刈羽原発再稼働に関する自身の考えを表明すると相次いで報じられた。19日の定例記者会見で「判断前に聞いたり、見たり、考えたりした方がいいと思っていたものはもうありません」、「近いうちに結論を出して話したい」と発言した。

 花角知事は判断材料として、県内30市町村長らとの懇談会、県民の意見を聞く「公聴会」、県民意識調査結果を挙げていた。これらは11月中旬までに出そろった。合わせて花角知事は東京電力ホールディングス(以下、東電HD)の事故対策などを確認していた。花角知事は自身の判断を表明した上で「県民の信を問う」と公約してきた。だが信を問う方法はこれまで明らかにしてこなかった。報道によれば、その方法は県議会の議決で決めるのだという。

 当室は柏崎刈羽原発の再稼働に反対する。そのうえで、この間のことばをめぐる問題を考えたい。

 誇大に謳われる電気料金抑制効果

 2024年9月6日、経済産業省は第12回原子力関係閣僚会議で示した「柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の必要性」と題した文書で「東京電力によると、柏崎刈羽原子力発電所1基の再稼働による燃料費削減効果は年約1千億円であり、原子力発電所の再稼働による電気料金の抑制効果は極めて大きい。」と説明した[1]。一方、東京電力は柏崎刈羽原発の再稼働で「さらに電気料金が安くなるという事実はありません」と説明している[2]。政府が偽りの情報を発信していることになる。

 そもそも1,000億円の削減効果という点にも疑問がある。仮に柏崎刈羽原発6号機(電気出力135.6万kW)が再稼働したとして、設備利用率80%、所内率4%で運転する場合、年間およそ90億kWhを発電することになる。2024年度の東京エリアの卸電力市場の平均価格は13.66円/kWhだった。およそ1,230億円の削減が見込めることになる。一方、原発の変動費(核燃料費等)は2023年に東京電力エナジーパートナー(以下、東電EP)が発表した資料[3]によれば2.51円/kWh(2023〜2025年度平均)、およそ230億円の費用増となる。そのため燃料費で考えれば1,000億円が削減できる。だが、2023年に東電EPは柏崎刈羽原発6・7号機の再稼働によって修繕費や減価償却費など合わせて1,300億円の費用増(2023〜2025年度平均)を見込んでいた。仮に半分を見込んだとすると650億円、つまり削減効果は350億円しかないことになる。先行して再稼働している関西電力や九州電力、四国電力の原発の平均変動費は約3円/kWhだった。実績値に合わせると、さらに削減幅は厳しくなる。

 なお、東電EPは東電HDなどから原発の電気を購入する関係となっている。2023年の見積もりで東電EPは、原子力の購入電力量は4,940億円、販売電力に占める原発の電気は119億kWhを見込んでいた(いずれも2023〜2025年度平均)[4]。すなわち単価で考えれば41.5円/kWhになる。卸電力市場価格の3倍以上高い電気を買っていることになる。再稼働によって増える燃料費や固定費以外に、原発にはもともとかかっている維持費がある。これらを含めると、このような単価となるのだ。

 本来であれば、電源別のコストを積み上げて最も経済的で脱炭素に貢献できる電源構成を追及するべきだ。しかし、東京電力にとってみれば、再稼働しようがしまいが支払っている維持費や修繕費や減価償却費といった再稼働により増加する固定費は、所与の前提となっている。そのため燃料費の差額だけを見て考えている。しかし電力消費者にとっては、そのような条件は関係ない。東京電力の原発の発電する電気は明らかに高い。東京電力は自らが起こした福島第一原発事故の付け、そして柏崎刈羽原発6・7号機の再稼働にむけて約1兆1,690億円もの巨額費用を投じてしまった経営判断の付けを電力消費者に転嫁しているのだ。原発の高い電気をあえて購入している東京電力と安価でクリーンな電気を求める電力消費者の間には利益相反が発生している。この事実を踏まえるべきだ。

 県民アンケート調査

 新潟県は柏崎刈羽原発再稼働の判断材料として県民アンケート調査を行った[5]。アンケート結果によれば問5-1(14)「再稼働の条件は現状で整っている」に対して、「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合わせて37%、「どちらかといえばそうは思わない」と「そうは思わない」を合わせて60%、問5-1(15)「どのような対策を行ったとしても 再稼働すべきでない」という問いに対して、「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合わせて47%、「どちらかといえばそうは思わない」と「そうは思わない」を合わせて51%という結果だった。この結果を見る限り、県民意見は真っ二つに分かれているように見える。しかし、問題はこのアンケート調査自体だ。

 アンケート調査票を少し詳しく見てみよう。たとえば問3を見ると、「あなたは以下の対策が行われていることを知っていますか」と問い、東京電力の対策を、写真を示して列挙している(図1参照)。そのうえで最後に問3-2として「問3-1の対策を含め、柏崎刈羽原子力発電所で実施されている対策により、安全性はどの程度確保されていると思いますか」と問いかけている。このような設問では、対策が十分に行われているという印象を回答者に与えてしまう。実際、回答結果を見ても、「十分確保されている」「おおむね確保されている」が44%、「あまり確保されていない」「まったく確保されていない」が25%、「わからない」が27%と、再稼働に対する回答結果と矛盾する内容となっている。

[柏崎刈羽原子力発電所の安全対策について]

 図1 アンケート調査票 問3の一部

 さらに、問4では「原子力災害に備えた防災対策について」として、県の行っている防災計画を列挙して確認している(図2参照)。ここではたとえば「県や市町村による避難計画の策定 原子力災害時の情報伝達や住民の避難方法、避難先市町村などの対応をまとめた避難計画を策定しています」と、対策内容を断定的に示したうえで認知度を問い、問4-3で「問4-2で選択した対策に限らず、防災への取り組みはどの程度実施できていると思いますか」と問うている。この間、避難計画の実効性に多くの疑問が出ていることについては全く記載がなく、十分に対処できているように見えてしまう問いかけ方だ。結果は同様に「十分実施できている」「おおむね実施できている」が36%、「あまり実施できていない」「まったく実施できていない」が34%、「わからない」が27%と、同様に再稼働に対する回答結果と矛盾する内容となっている。

[原子力災害に備えた防災対策について]

図2 アンケート調査票 問4の一部

 これらの設問に加えて、アンケート調査では別紙として、東京電力のとっている安全対策や県の防災対策を示した文書が配布されている。つまり、今回のアンケート調査は、きわめて誘導的に県民意識を再稼働に導こうとしたものだ。そのような内容であったにもかかわらず、再稼働について問うた設問で、回答が真っ二つに分かれたことは極めて重い。

 さらに着目するべきは、委託事業者が行ったクロス集計結果だ。事業者の対策や県の対策の認知度を4段階に分け、「安全対策に関する認知度が高くなればなるほど(知識量が増えるほど)、 『再稼働の条件は現状で整っている』と思う割合が高くなる傾向にある。」「防災対策に関する認知度が高くなればなるほど(知識量が増えるほど)、 『再稼働の条件は現状で整っている』と思う割合が高くなる傾向にある。」と分析している。つまり対策を認知すれば再稼働に合意する傾向が高くなるというのだ。だが、認知度がもっとも高いグループ4で見ると、安全対策の場合、52.5%が、防災対策の場合、58.1%が再稼働の条件が整っているという質問に対して否定的な回答をしている。つまり、認知が低いから再稼働に否定的なのではなく、むしろ理解したから再稼働に否定的なのだともいえる。

 県民の信を問う

 初当選した2018年、花角知事はウェブサイトで「原発は3つの検証をしっかり進め、将来的には脱原発社会に全力」と表明、さらに「検証結果は広く県民の皆さんと情報共有するとともに、県民の皆さんの評価をいただき、納得いただけるか見極めます。その上で、結論を得て県民の信を問うことを考えます」と自らの立場を説明していた(図3)[6]。2022年の再選時にも「原発については3つの検証をしっかり進め、その検証結果が出るまでは、再稼働の議論はしません。国や東京電力には県民の安全最優先の姿勢で向き合います。そして、原発に依存しない社会の実現を目指し、県民の安全・安心を守ります。」と表明し、「福島第一原発事故に関する3つの検証を期限を区切ることなく議論を尽くしていただき、その検証結果が出るまでは、再稼働の議論はしません。」「3つの検証の結果は広く県民の皆さんと情報共有するとともに、評価をいただきます。併せて、現在、技術委員会で行っている柏崎刈羽原発の安全性の確認も踏まえ、結論を得て県民の信を問うことを考えます。」と述べていた(図4)[7]。特に原発再稼働に関するこれらの説明はどうなったか。

図4 花角英世公式サイト(2025年現在)

「3つの検証」とは、新潟県が設置した福島第一原発事故に関する3つの検証委員会(技術委員会、健康・生活委員会、避難委員会)での議論のことだ。花角知事は「しっかり進め」、「期限を区切ることなく」としていたが、現実には委員会の議論を取りまとめるはずだった「検証総括委員会」はわずか2回しか開催されることなく、委員会ではなく県の事務局が総括した。議論が尽くされることはなかった。

「県民の信を問う」はどうか。いかにもあいまいな言い方だ。県民投票ということも県議会での承認も、知事選ということも考えられる。花角知事はこれまで明確にどの選択肢という発言は避けてきたが、就任当初、信を問う方法について、「職を賭して確認をするということもあり得ます」[8]と述べていた。素直に理解すれば、出直し選挙を行うと理解できる。これも今、反故にされようとしている。

柏崎刈羽原発の再稼働をめぐっては、あまりに軽い言葉が飛び交ってきた。この軽い言葉の一つ一つが再稼働にむけた動きを積み上げてきた。だが、私たちが2011年に見たものは、きわめて重たい。

新潟県および知事は、このような軽い言葉によって柏崎刈羽原発の再稼働に関する決断を行ってはならない。福島原発事故の現実から目をそらさず、県民の総意を汲み上げる手段を追求し、民主的な判断をするべきだ。

以上
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[1] www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kakuryo_kaigi/dai12/siryou2.pdf

[2] www.tokyo-np.co.jp/article/425723

[3] warp.ndl.go.jp/collections/content/info:ndljp/pid/14364078/www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_electricity/pdf/0041_06_01_03.pdf

[4] warp.ndl.go.jp/collections/content/info:ndljp/pid/14364078/www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc_electricity/pdf/0045_03_03.pdf

[5] 質問票:www.pref.niigata.lg.jp/sec/genshiryoku/kashiwazakikariwa-kenminishikityosa-tyousakaishi.html、結果:www.pref.niigata.lg.jp/sec/genshiryoku/kashiwazakikariwa-kenminishikityosa-kekka.html

[6] web.archive.org/web/20180804213606/http://hanazumi-hideyo.jp/manifest/manifest1/

[7] web.archive.org/web/20220522044703/https://hanazumi-hideyo.jp/manifest/#manifest02

[8] www.pref.niigata.lg.jp/sec/kouhou/1356895957303.html

A 知事

(前略)そのタイミングでまさに職を賭して確認をするということもあり得ますということを申し上げております。

Q NHK
 そうすると任期途中の出直し選もあるということ。

A 知事
 そうですね。ずるずる伸ばす必要もないとすれば、まさにこれで新潟県はいけませんかということを確認させてもらうというやり方もあると思っています。

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