[2024_06_24_07]二度と福島原発事故を繰り返さないための司法判断が 求められている 福島第一原発事故で何の教訓を得たのか 「裁判長交代に伴う弁論更新」 (上)(3回の連載) 6/21東海第二原発の運転差止訴訟控訴審 第3回口頭弁論当日資料集より抜粋 青木秀樹弁護士(たんぽぽ2024年6月24日)
 
参照元
二度と福島原発事故を繰り返さないための司法判断が 求められている 福島第一原発事故で何の教訓を得たのか 「裁判長交代に伴う弁論更新」 (上)(3回の連載) 6/21東海第二原発の運転差止訴訟控訴審 第3回口頭弁論当日資料集より抜粋 青木秀樹弁護士

 04:00
 ※6月21日(金)14時から15時、東海第二原発控訴審第3回口頭弁論が東京高裁大法廷(101号)で開かれました。
 私も運良く抽選に当たって、法廷には入れて1時間じっくり聞きました。弁護団から3人が述べました。
 1人目、尾池誠司弁護士、2人目、丸山幸司弁護士、3人目、青木秀樹弁護士
 3人目の青木秀樹弁護士の弁論の中味は、とても充実した内容で、口頭弁論の終了時に、法廷で拍手が起きました。その青木弁護士の弁論を3回に分けて報告します。
 今後の東海第二の法廷闘争を闘う上で参考になる文章です。
 次回第4回は、9月9日(月)14時、東京高裁です。 …柳田 真

 以下、青木秀樹弁護士の資料紹介です。

これから述べること
1.福島第一原発事故で何の教訓を得たのか
2.起きる筈のない福島第一原発事故の発生
3.最悪シナリオの可能性
4.放射能による被害
5.原発の安全規制に関するパラダイムシフト
6.福島第一原発事故及びその教訓が無視されていないか

◎福島第一原発事故以前の安全神話とは?

・原発は過酷事故を起こさない。象徴的なのは以下の決定。
・我が国の原子炉施設の安全性は、現行の安全規制の下に、設計、建設、運転の各段階において、
 イ.異常の発生の防止、
 ロ.異常拡大防止と事故への発展の防止、及び
 ハ.放射性物質の異常な放出の防止、といういわゆる多重防護の思想に基づき厳格な安全確保策を行うことによって十分確保されている。

 これらの諸対策によってシビアアクシデントはエ学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分小さいものとなっており、原子炉施設のリスクは十分低くなっていると判断される。
・(平成4年(1992年)5月28日 原子力安全委員会決定)

◎安全神話の具体例

・「非常用所内電源から給電されるべき系統は、外部電源喪失時にもその機能を発揮できるように設計されていることが確認されなければならない」(発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する指針)。
・理由は不明なまま、外部電源は30分で修復されるという結論がまかり通っていた。

◎起きる筈のない過酷事故が起きた

 一号機
・3/11 15時42分 全交流電源喪失
・    16時36分 非常用炉心冷却装置注水不能
・    21時頃  原子炉建屋放射線レベル上昇
・3/12 2時45分までに 原子炉圧力容器破損
・    15時36分 原子炉建屋爆発(建屋内に漏出した水素が爆発)

◎二号機の過酷事故

・3/14 10時頃 原子炉水位低下、原子炉圧力上昇
     13時25分 RCIC(原子炉隔離時冷却系)停止
     18時22分 燃料全体露出
     21時頃 原子炉圧力容器破損
・3/15 6時10分頃 圧力抑制室付近で爆発音がして、圧力抑制室の圧力も一気に低下した。格納容器が破損と推定。正門付近の放射線量急上昇。
・(建屋が爆発を免れたのは、脱落しない筈のブローアウトパネルが脱落し水素が建屋外に漏れていたから。)

◎三号機の過酷事故

・3/12 11時36分 RCIC停止
     12時35分 HPCI(高圧注水系)自動起動
・3/13 2時42分 HPCI停止
     8時41分 ベント弁開。以後5回開閉を繰り返す。
・3/14 4時30分 炉心完全に露出
     11時01分 原子炉建屋爆発

◎最悪シナリオの可能性

・3月25日に、原子力委員会委員長であった近藤駿介氏が「福島第―原子力発電所の不測事態シナリオの素描」を作成した。
・使用済み燃料プールなどの燃料が冷却できなくなり最悪の事態を想定した場合、強制移転を求めるべき地域が170km以遠にも生じる可能性や,希望者に移転を認めるべき地域が250km以遠にも発生することになる恐れがあるとされた。

◎最悪シナリオを回避できた偶然の幸運

・たまたま、4号機が運転停止中のため原子炉圧力容器の上部のふたが開放されて上部まで水が張られていた。
・たまたま、原子炉圧力容器の上部に隣接する使用済み核燃料プールとの間にあった壁がはずれて使用済み核燃料プールに水が流れ込んだ
・偶然が重なり、使用済み核燃料のメルトダウンを防いだということは公知の事実である。

◎放射能による被害

・(セシウム137の放出量)
・福島第一原発が1万5000テラベクレル、広島原爆は89テラベクレル。
・単純比較すると、福島第一原発は広島原爆の168.5個分
・(ストロンチウム90の放出量)
 福島第一原発が140テラベクレル、広島原爆が58テラベクレル。
・広島原爆の約2.4個分に相当する。
・(ヨウ素131の放出量)
 福島第一原発が16万テラベクレル、広島原爆は6万3000テラベクレル。
 広島原爆の約2.5個分
・(2011年8月26日、原子力安全・保安院)

◎放射性物質の拡散と空間線量

・平成23年10月10日、環境省第1回安全評価検討会で配布された資料(安全評価検討会・環境回復検討会 合同検討会(第1回)政策資料・ガイドライン除染情報サイト:環境省(env.go.jp))
・0.23マイクロシーベルト/h=1ミリシーベルト/y(一般公衆の被爆限度)以上の地域が福島県だけでなく、宮城県、栃木県、群馬県、茨城県、千葉県、東京都、埼玉県にまで広がっている。
・1.0マイクロシーベルト/h≒5.2ミリシーベルト/y(放射線管理区域の線量限度)、3.8マイクロシーベルト/h≒20ミリシーベルト/y(放射線業務従事者線量限度)も広範囲に広がっている。

◎福島第一原発事故は、INESのレベル7

・福島第一原発の原子炉から大気中へ放出された放射性物質の総放出量は、ヨウ素131と等価になるよう換算した値として数万テラベクレル(1テラベクレル=1兆ベクレル=10の12乗なので、数万テラベクレルは10の16乗)を超える値になるレベル7に相当する(2011年4月12日、原子力安全・保安院)

◎原発の安全規制に関するパラダイムシフト

・福島第一原発事故を目の当たりにして、政府もそして裁判所も原発の安全神話からの脱却を図った筈である。
・原発の安全についての考え方について、次々と、福島第―原発事故以前の反省と、同事故の教訓が発表された。

◎安全神話からの決別

・今回の事故の発災により、「リスクが十分に低く抑えられている」という認識や、原子炉設置者による自主的なリスク低減努力の有効性について、重大な問題があったことが明らかとなった。(発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策について 平成23年10月20日原子力安全委員会決定 )

◎思考停止から深層防護の徹底

・予見した想定に過度に囚われたため、想定を超える事象には対応できない場合があることも今回の事故で強く認識された。したがって、想定を超えることは起こりえるとの前提に立ち、想定を超えたものは次の層で事故進展等を防止できるような厳格な「前段否定」を適用することが必要である。
・(東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見について(中間とりまとめ)平成24年2月原子力安全・保安院)

◎低確率による思考停止からの決別

・たとえどんなに発生の確率が低い事象であっても、「あり得ることは起こる。」と考えるべきである。発生確率が低いからといって、無視していいわけではない。
(平成23年12月26日東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会中間報告書)

◎低確率や権威による思考停止からの決別

・発生確率が低いということは発生しないということではない。発生確率の低いものや知見として確立していないものは考えなくてもよい、対応しなくてもよいと考えることは誤りである。
・さらに、「あり得ないと思う」という認識にすら至らない現象もあり得る、言い換えれば「思い付きもしない現象も起こり得る」ことも併せて認識しておく必要があろう。

◎最新の知見による思考停止からの決別

・最新の知見を踏まえ科学的合理性に基づいて津波の想定が行われた場合でも、これを超える津波が発生する可能性は否定できない
.(発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策について
(想定を超える津波に対する原子炉施設の安全確認の基本的考え方)
 平成24年3月12日原子力安全委員会)

◎安全規制の方針変換

・原発の安全の考え方の誤りを反省し、安全規制の方針変換も図られた
・原子力規制委員会は、2011年3月11日に発生した福島原子力発電所事故の教訓に学び、二度とこのような事故を起こさないために…設置された
・原子炉等規制法から「原子炉等の利用が計画的に行われることを確保する」という目的規定を削除し、原子炉等の計画的利用を考慮することなく、安全規制に特化することになった。

◎深層防護の深化と徹底

・深層防護は、 従来の3層から5層へ変更された。
・ある層までで安全が確保されているから後の層は考えなくてよいとすべきではなく、前層が破られるものとして後の層の安全確保策を備える
(前段否定)こと、後の層があるから当該層の安全確保策はある程度あればよいと考えればよいとするのではなく、後の層がないものとして当該層で徹底した安全確保を考える(後段否定)こと
・各層において、対策が欠けているか不十分であれば具体的危険がある
(第一審判決)

福島第一原発事故及びその教訓が無視されていないか

◎思考停止は許されない

・福島第一原発事故以前の誤りの原因は、起きないと思えば起きない筈だという思考停止にある。
 予定調和的に危険を考えれば、事故は起きない。予定を超える危険は考えないようにすれば、予定調和的結果になる。
 しかし、「原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識」(原子力規制委員会設置法1条)に立っていなければならず、予定調和を願う思考停止は許されない。

◎福島原発事故の発生及び教訓を忘れない判決・決定

・原発に求められる安全性、信頼性は極めて高度なものでなければならず、万一の場合にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置がとられなければならない。
・生命を守り生活を維持することは人格権の中でも根幹部分をなす根源的な権利である。大きな自然災害や戦争以外で、この根源的権利が極めて広汎に奪われる事態は原発事故のほか想定しがたい。
・福島原発事故で、原発技術の危険性の性質やもたらす被害の大きさが判明したのであるから、危険の性質と被害の大きさに応じた安全性が求められ、福島原発事故のような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるかが判断対象とされる(2014.5.21福井地方裁判所判決)

◎福島原発事故の発生及び教訓を無視した判決・決定

・原子力発電所の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生の時期や規模については、現在の科学的知見では具体的に予測できないことからして、現時点において、大規模自然災害によって、本件原子炉施設において福島事故のような深刻な事故が発生する可能性が全くないと断定できないことは事実である。…(略)…しかしながら、上記のことは、論理的には、本件における人格権侵害の抽象的危険性を肯定するものに過ぎず、直ちに具体的危険性の存在を推認するに足りるものとはいえないというべきである。また、債権者らが主張する原子力発電所に求められるとする「通常人が疑いを差し挟まない程度に、万が一にも深刻な災害が起こらないという確信を持ちうる程度の安全」は、…(略)…結局、原子力発電所の安全性についてゼロリスクを求めることに等しい」
・(2021.3.18広島高裁仮処分異議審決定)

◎福島原発事故の発生及び教訓を無視した判決・決定

・裁判所が審理すべきは科学的な正しさではなく、原発において万が一にも福島第一原発事故のような深刻な災害が発生する可能性があるかどうかである。不確実性があるのであれば、それを保守的に考慮したかどうかを厳格に判断すればよいのであり、こういった可能性を「抽象的危険にすぎない」と切り捨ててきた結果が福島第一原発事故だったという厳然たる事実を、この裁判官は見落としている。

◎福島第一原発事故の教訓

・めったに起きないから考えなくてよい ⇒ 考えない=思考停止 をしてはいけない。
・福島第一原発事故以前に、福島第ー原発事故が起きると考えられなかったのは、想定力の欠如、慢心、予定調和を望む気持ち、原発利用の推進等が絡み合って心証を形成していたからであり、それらの誤りを常に意識して、福島第一原発事故の教訓を踏まえた安全の考え方、安全規制の考え方のパラダイムシフトを忘れずに、二度と福島原発事故のような事故が起きないようになっていると言えるか否かを判断すべきである。

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