[2024_06_07_09]「電力不足」キャンペーンは原発推進の布石 電力逼迫をあおる異常な論調 電気が足りなくなる根拠はない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2024年6月7日)
 
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「電力不足」キャンペーンは原発推進の布石 電力逼迫をあおる異常な論調 電気が足りなくなる根拠はない 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

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 1.第七次エネルギー基本計画

 第七次エネルギー基本計画を策定するための会議体が作られ、議論が始まった。
 経産大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の、基本政策分科会で2035年度以降の電源構成や脱炭素、再生可能エネルギー、原子力利用方針などが決定される。
 案は年内にまとめられ、2025年3月までに閣議決定する方針という。
 その中で原発に関する大きなテーマは、第六次エネ基に明記されている「可能な限り原発依存度を引き下げる」という言葉の行方だ。
 原発推進に大転換した岸田政権は、このエネ基の言葉が邪魔だった。
 これと真っ向から対立するGX原発推進法を成立させたのだから、エネ基に意味があるのかと、大いなる不信を招いた。
 岸田政権は、今回の見直しで第七次エネ基を現在の政策と整合させようとする。
 すなわち、脱原発方針ではなく原発推進方針を掲げることになる。そのため「原発推進派を集めて『エネルギー基本計画』議論スタート」と東京新聞が書くような会議体を作った。

 2.捨てられる再生可能エネルギーの電力

 原発を可能な限り活用するとの方針を掲げる場合、日本の将来の電力需要について論じなければならない。
 現在の右肩下がりの需給構造では、せっかく再生可能エネルギーを増やしても、夏のピーク時に太陽光が使われない事態になっている。発電電力量が余っているからだ。
 特に原発の再稼働が続いた関西電力など西日本では顕著だ。
 それが、東電でも起こりつつある。このうえ柏崎刈羽原発が動けば、最大200万kwもの太陽光設備が休止する事態になりかねない。
 現在、電力需要には余裕がある。
 それは太陽光や風力の発電量が増えたことと天然ガスなどの価格が低下したためだが、12基ある原発のうち11基が動いていることも理由の一つだ。

 3.2022年の電力逼迫警報とは何か

 右肩下がりの電力需要では原発はますます必要なくなるため、政府は電力不足キャンペーンを打ち出したのが、2022年だった。
 2022年3月の電力需給ひっ迫警報は、地震により複数の発電所が停止したことと急な気温の低下に伴う暖房需要の増加が重なったためだ。
 つまり発電設備の不足ではなく、自然災害に加え、ミスマッチしたピーク予想(この時期に珍しい真冬並みの4840万kwの予想)によるものである。
 当時、地震などで予期せず止まった火力が約500万kwに加え、511万kw規模の発電所が定期検査を行っていたのである。
 しかしこれを「電力設備不足」とすり替える論法が、政府により広がった。
 最近は、生成AIや電気自動車の普及、半導体産業やデータストレージ産業の拡大が、将来電力需要を大幅に引き上げる「電力不足」が起きると宣伝し始めている。
 しかしそんなことは起こり得ない。

 4.電力需要の現状と見通し

 2023年度の日本の電力消費量は震災後最低を記録し前年度比2%減の8020億kwh。酷暑と言われた夏があっても、節電が浸透した結果だ。
 これを基本として、電力中央研究所が2024年1月に発表した電力需給予測を見ていただきたい。
 「基礎的需要」として「2040年度を8170〜9030億kWh、2050年度7750〜9060億kWh」と想定している。
 これは2019年度から見て2040年度までにマイナス190からプラス690億kWh、2050年度までマイナス600億からプラス710億kWhに相当する。最も増える数値(これはあり得ないレベルだが)を2023年度と比較すると、2040年で+1010億、2050年で1050億だ。現在から12から13%増。毎年0.5%程度の省エネでまかなえるレベルだ。発電設備を今より増強する必要はない。
 一方、マイナスになる要因の多くも省エネだ。技術革新で機器類の省エネは相当進むと見てよい。そして現実には、少子高齢化もあり、マイナスになるシナリオの方がはるかに現実に近いと思われる。
 理由は簡単。エネルギーコストは大きく下がる要素はない。
 現在、過去最も高い電気料金に苦しむ人々や産業が、さらに電力消費量を増やすようなスタイルを選ぶとは考えにくい。
 生成AIやストレージ産業も、電力コストを下げなければ売れないわけで、省エネ技術は最も重要な技術革新のテーマになる。

 5.発電設備ではなく送電と蓄電が重要

 今日本で最も必要な電力設備は、発電所ではなく「蓄電所」と「高効率送電システム」だ。
 太陽光と風力は自然のままに発電するから、人間が必要なときに発電してくれない。だから発電しているときには電気が余る現象も起きている。
 特に太陽光の場合は、電力消費量を超えて発電することが頻発し、送電を遮断しているのが現状だ。
 蓄電は蓄電池を使う場合、例えばEV車のバッテリーなどを使うとしたら、それらの製品を大量に製造する必要がある。レアメタルなどの素材の不足などで問題が生じる可能性がある。新しい発想が必要だ。
 例えば廃坑の縦坑を利用した重力蓄電などは有望だ。
 数100メートルもある縦坑内に錘をケーブルで吊り下げるだけの構造だ。ケーブルの端は滑車につながり、これが発電機とモーター兼用のコイルにつながっている。
 使用前には巻き上げられていて、電気が必要なときには錘を下げる。つながっているケーブルを介してモーターが回ると、発電できるという仕組みである。
 起動速度はきわめて速い。ガスタービン発電でも数十秒、揚水式で1分ほどはかかるのに対し、重力式は1秒だという。
 錘が下に届いた段階で発電は終わる。その後、電気が余っている時間帯になるとモーターが錘を引き上げる。そうして、次の発電に備えて待機する。
 こうした構造物をたくさん作れば、発電所の替わりになる。
 揚水式発電も原理は同じだが、ダムを二段に造る揚水式では自然への影響が大きい。
 また、ダムの圧力で地震が起きる懸念もある。
 重力式ならば上下動だけで自然へのインパクトはほとんどない。太陽光発電所のそばに作れば、電力余剰の時間帯に回路を切り替えるだけで蓄電できる。
 発電、送電、変電設備は必要だが、今の水力設備のようにほとんどを地下に作ることになるだろう。
 発電効率は75%、すなわち投入した電力量の75%を回収できるから、他のどの蓄電方式よりも効率がよい。
 重力式は一例だが、このほか高温岩体蓄電、圧縮空気蓄電、水槽蓄電など、様々な方式が開発され、実用化されつつある。
 しかし、その発電元が原発では、何の意味もない。
 自然エネルギーだからこそ、意味があるのである。
             (初出:5月24日たんぽぽ舎「金曜ビラ」)
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