[2023_12_15_04]地球と太陽に戻る旅に転じるハレー彗星の神秘(島村英紀2023年12月15日)
 
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地球と太陽に戻る旅に転じるハレー彗星の神秘

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 ハレー彗星(すいせい)は最も有名な彗星である。
 約70年ごとに現れ、尻尾が肉眼で見えることからハレー彗星が紀元前から出現したという説もあるほどだ。
 尻尾中のガス分子の一部は太陽風による紫外線放射によりイオン化して、そのイオンが長い尻尾を作り、1億kmに及ぶこともあるのでよく見える。夜空の明るい星と同じくらいの輝きで、「ほうき星」とも呼ばれる。
 紀元前468年から記録が見られ、タイミングや期間などからもハレー彗星であると考えられている。
 『日本書紀』にも観測記録があり、684年に出現した。日本最古の彗星の記録である。
 人々はハレー彗星が戦争、火災、疫病、王朝の交代のような惨事を引き起こすと信じていた。
 218年には、漢の空に彗星が出現し、彗星の尾が太微垣の五帝座(デネボラ)の方向を指していたことから、帝位に異変が起こる前兆ととらえられた。なお、2年後に漢は廃位され、後漢は滅亡している。
 1222年のハレー彗星の出現はチンギス・カンがヨーロッパへ侵攻する誘因になったのではないかという説がある。
 このように目立つ彗星彗星の出現は歴史的に多くの事件を生んできた。
 彗星の中には一遍きりのものもある。放物線や双曲線を描いて太陽や地球に一度だけ近づくものである。
 いままでに記録された周期が70-76年とまちまちなことから、英国の天文学者エドモンド・ハレー(1656〜1742年)が同一のハレー彗星の回帰であることを発見したので、以後ハレー彗星と呼ばれるようになった。
 太陽系の惑星の公転軌道は円に近い楕円を描いている。地球と太陽の距離の違いは離れてもせいぜい2%だ。だが彗星の公転軌道は細長い楕円のものが多い。
 楕円軌道をもつ彗星のうち、公転周期が200年以内のものは「短周期彗星」、それよりも長いものは「長周期彗星」と呼ばれている。公転周期が約76年のハレー彗星は短周期彗星で、人によっては生涯で2度見ることも可能な彗星だ。、ハレー彗星の尻尾が大きいのに対し本体は小さく、差し渡しが15キロほどしかない。その成分は約8割が氷で、二酸化炭素、一酸化炭素、その他のガスや微量のチリで出来ている。
 2023年12月に、ハレー彗星が太陽から最も遠い位置である「遠日点」に達し、いよいよ地球と太陽に戻る旅に転じる。
 現在は、およそ35.1天文単位(1天文単位は太陽と地球との距離)と、はるか彼方、海王星の軌道の外に位置している。
 ハレー彗星が太陽系で最後に見られたのは1986年春。次回は2061年に再び地球のそばを通過する。
 その時は、夜空の明るい星と同じくらいの輝きで、尾をひく姿を観測できると期待される。
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