[2023_11_23_09]世界から不安視されている海洋投棄を続ければ、日本という国そのものへの信頼が揺らぎ福島のみならず全国に影響が及ぶ可能性 水俣から原発汚染水(アルプス処理水)の海洋放出を直ちに中止することを求める水俣アピール(全国公害被害者総行動実行委員会2023年11月23日)
 
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世界から不安視されている海洋投棄を続ければ、日本という国そのものへの信頼が揺らぎ福島のみならず全国に影響が及ぶ可能性 水俣から原発汚染水(アルプス処理水)の海洋放出を直ちに中止することを求める水俣アピール

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 2023年8月24日、東京電力と日本政府は、東京電力福島第一原子力発電所敷地内のタンクから事故炉から溢れ出た原発汚染水(アルプス処理水)を海洋放出しました。
 私たちは、下記の理由から、この海洋放出を即刻中止することを求めます。
 また、水俣市議会は、2023年9月議会において、水俣から海洋放出中止を呼びかけることを提案した議員の質問を根拠も示さず、多数決で大幅削除し、議事録から消し去りました。
 このような会議原則を無視した乱暴な運営を許した議長に強く抗議するとともに、賛意を示した議員各位に猛省を求めます。
 加えて、水俣市と水俣市議会は、チッソの工場排水による海洋汚染が原因の「水俣病」を経験したにもかかわらず、福島の原発「「汚染水」の海洋放出を傍観する立場をとりました。
 これは、水俣市が重要政策として掲げている「水俣病の教訓発信」事業との整合性を欠けており、極めて残念で、ここに集まった市民はこのような市や市議会の態度にも反省を求めるものです。
 改めて本シンポジウムの名において、改めて日本政府と東京電力に対し、海洋放出の即時中止と、英知を結集した代替策の実施を強く求めます。

       記

 1.

 水俣病は「有害な物質でも薄めて流せば大丈夫」−ではないことを示した未曽有の公害事件です。
 承知の通り、一度薄まったはずの有害物質が、食物連鎖によって再び濃縮され、それを常食した人々を死の淵に追いやりました。死に至らずとも、生涯水俣病特有の症状に苦しめられる人を数万人単位で生みました。
 福島原発第一発電所は、爆発事故によって燃料棒が溶け落ちた状態が12年経過した今も続いています。その溶け落ちた燃料に直接触れた地下水や冷却水がアルプス処理された上で、敷地内のタンクに貯められています。これらは通常の原発からは発生しない特殊な核排水で、生物や地球環境にどのような影響があるか未知数です。
 世界的に見てもこのような性質の水を海に流した例はありません。
 水俣病では、魚が原因であることをいち早く突き止めたにも関わらず、すべての魚が汚染されているわけではないことを理由に漁獲禁止の措置が取られませんでした。
 工場廃水が汚染源である疑いが濃厚になっても、原因物質が特定されていないことを理由に10年間排水が止められませんでした。その間に被害はどんどん広がり、深刻になりました。ここから学ぶべきは「疑わしきものはとりあえず排除する」つまり「予防原則」を適用することです。
 生態系への影響が「未知数」である原発「汚染水」(アルプス処理水)は、「予防原則」に立ち、環境中に流すべきではありません。

 2.

 東電と日本政府は、敷地内のタンクをこれ以上増やせないとして海洋放出に踏み切りました。
 しかし、その決定に至るまでに、複数の専門家が海外での事例などを示し、海洋放出に頼らない方法を提案していました。日本学術会議も建設計画がなくなった7,8号機原発用地をはじめ敷地を確保すれば、タンクの増設はできるとした上で、長期陸上保管しながら放射性核種の寿命を待ち、危険性を低減していくことが現実的だと指摘しています。
 東電と日本政府はこうした海洋放出以外の方法を真剣に検討し、環境中に出さない努カをしていません。正に、命、健康、生業より加害企業の都合を優先した水俣病の再来であり、決して黙認することはできません。

 3.

 水俣病は、汚染された魚を食べた者が、り患する病気です。
 したがって、水俣市近郊の魚は売れなくなり、漁業が成り立たなくなりました。
 同時に、病気発生のプロセスが解明されるまでは、「風土病」「伝染病」とのうわさが広まり、野菜、くだものも売れなくなる、結婚や就職を断られるなど「風評被害」による差別で二重三重の苦しみを経験しました。
 もし、チッソのエ場排水が「疑われた」時点で止められていたら、当然被害は限定的であったはずです。
 健康被害はもちろんのこと、地域全体が深刻な経済的ダメージを受けることもありませんでした。
 母親の胎内で水俣病にり患した「胎児性患者」は、諦めざるを得ないことばかりの人生を振り返り、「なぜ、もっと早く工場排水を止めてくれなかったのか」と嘆き恨んでいます。
 私たちは、水俣と同様のことが原発事故周辺地域で起きることを強く懸念します。
 福島県漁連はじめ、多くの漁業関係者らが海洋放出に反対する決議を繰り返したのは、まさにこのような事態を予想してのことであり、政府もこれを受けて「関係者の理解なしに海洋放出は行わない」としていたはずです。
 にもかかわらず、現地の心配を撥ね付けるかのように海洋放出を強行したのはなぜでしょうか。
 そして、さらにマスコミを使って、放射性物質はIAEAの定めた「基準内」に薄めて流しているから「安全」と宣伝し、「汚染水」と表現した者を叩く「安全キャンペーン」を貼っています。
 このような光景は、漁民にわずかな見舞金を出し、以後工場排水が原因とわかっても会社を訴えないことを約束させ、排水を流し続けた、当時のチッソの姿を彷彿とさせます。
 いくら安全だと思わせようとしても、事故炉の排水を海に投棄していることは世界中に知れ渡っています。
 事実、「南太平洋諸島フォーラム」は「健康や安全に対する核汚染の潜在的脅威について首脳らは強い懸念を抱いている」との声明を出しました。
 世界から不安視されている海洋投棄を続ければ、日本という国そのものへの信頼が揺らぎ、福島のみならず全国に影響が及ぶ可能性すらあります。こうした影響を回避するためにも私たち水俣市民は、ただちに海洋放出を中止することを強く求めます。

 2023年11月23日
 水俣から「汚染水」を考えるシンポジウム実行委員会 参加者―同

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