[2023_12_21_01]処理水放出で水産業苦境 三浦秀樹・全漁連常務理事に聞く 内需拡大含め販路開拓を(東奥日報2023年12月21日)
 
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処理水放出で水産業苦境 三浦秀樹・全漁連常務理事に聞く 内需拡大含め販路開拓を

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出が始まった2023年。中国が日本産水産物の輸入全面禁止に入り、対中輸出に力を入れてきた地域を中心に全国の産地が影響を受けた。全国の漁協を束ねる全国漁業協同組合連合会(全漁連)で政策全般を担う三浦秀樹常務理事に産地の現状と課題を聞いた。

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 −処理水放出では風評被害が心配されました。
 「国内はある程度抑えられたが、輸出は大きなダメージを受けた。中国の禁輸と同じタイミングで香港も10都県を対象に禁輸措置を取った。中国、香港は輸出先の1位と2位でシェアが大きく、ホタテ、ナマコ、アワビから一般鮮魚まで多くの品目が打撃を被った。国内の消費喚起で穴埋めするといっても、量的に限界がある。東電の補償や国の支援策があるとはいえ、先の見通しが立たない中で産地の不安は払拭されていない」
 「岸田文雄首相は『数十年にわたろうとも漁業者が安心して生業を継続できるように必要な対策を取り続けることを全責任を持って約束する』と言って放出に踏み切った。将来にわたって海に本当に影響が生じないのか、風評被害が起きないのか、現時点で分からない以上、われわれは楽観的でいられる状況にない。政府と東電には、最後まで責任を持って取り組むことを改めて求める」

 −国内の風評被害が抑えられたのは良かったですが、一方で消費者の魚離れが進んでいます。
 「日本のように全国に市場があって、コールドチェーンが張り巡らされ、新鮮な魚が一年中食べられる国は、そうそうない。インバウンド(訪日客)にとって、このことは値段の安さを含め驚きだ。日本の消費者に、自国の食文化の価値に、もっと関心を持ってもらいたい」 −中国の禁輸で輸出戦略の練り直しの必要性が指摘されています。
 「近年、米国向けを中心にブリやタイといった魚種が伸びている。養殖ものも品質が目覚ましく向上しており、良いビジネスに育ってきている。全漁連としても、輸出促進のためシンガポールに関連会社を開くなど市場開拓に注力してきた」
 「ホタテについては、中国は消費地でもあり、加工地でもある。中国でむき身にされて米国などに輸出されている。日本としては、中国経由で出ていた先に直接売り込むことが考えられる。中国からベトナムなどに加工地を移す動きもある。内需拡大を含めて販路開拓が必要だ」

 −海水温の変化などで漁場が大きく変わったり、漁獲量が減ったりするなど、漁業にとって不安定要素が増しています。
 「これまで漁獲量減少の要因は『乱獲』との指摘が多かったが、海洋環境の要因が大きいと考えている。近年ようやく温暖化の影響が論じられるようになったが、海の変化に一番早く気付き、漁業の在り方を考えてきたのは、われわれ漁業者だ。沿岸漁業者は急速に減少する藻場や干潟を含め、環境保全に長年努力してきた。海洋環境と水産資源の回復を両立させる『環境回復型漁業・養殖業』の取り組みを続ける必要がある」

(聞き手 共同通信編集委員・宮野健男)


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