[2023_08_30_03]<社説>処理水反日拡大 日中は理性的な対話を(東京新聞2023年8月30日)
 
参照元
<社説>処理水反日拡大 日中は理性的な対話を

 2023年8月30日 08時16分
 東京電力福島第一原発事故がもとで発生した処理水の海洋放出を巡り、中国側の反発がエスカレートし、日中関係を揺さぶりかねない危険水域に入ってきた。処理水についての検証や正確な情報発信など、日本政府が海洋放出への不安に真摯(しんし)に対応するのは当然だが、中国政府も反日感情をあおらず、冷静な対応に努めるべきだ。
 海洋放出が始まった二十四日、中国税関当局は日本の水産物輸入を全面停止。中国政府は海洋放出を「日本の極めて自分勝手で無責任な行動」と批判した。
 軌を一にするかのように市民の反日行動も激化。現地の日本大使館や日本人学校に石や卵が投げ込まれたほかネット上では日本製品の不買を呼びかける投稿が急増。福島県の事業所などには中国発のいやがらせ電話が相次いだ。
 岡野正敬外務事務次官が二十八日、中国の呉江浩駐日大使を外務省に呼び出し「遺憾」の意を表明。中国国民に冷静な対応を呼びかけるよう要請したが、日本側は中国の反応を見誤っていたともいえる。日本の漁業者を含めて関係者の理解を得られないまま強引に放出に踏み切った日本政府の責任があらためて問われる。
 気掛かりなのは、中国政府が国民の反日行動を黙認しているようにも映ることだ。二〇一二年の日本政府による尖閣諸島国有化の際は、中国の日系スーパーや日本食店などの襲撃を当局が阻止せず、「官製」のような反日デモが中国全土に広がったことがある。
 日本政府関係者には、経済失速などの問題を抱える中国が「国民の(内政への)批判をそらすため矛先を日本に向けている」との見方もあるが、対日関係を内政安定化の「装置」のように使う戦略は決して建設的ではない。
 今年は平和友好条約締結四十五周年の節目の年だが、日中関係は台湾問題や在留邦人拘束などで波が高いままだ。中国の団体訪日観光解禁で関係改善に弾みがつくと期待が一時ふくらんだが、処理水への反発の高まりとともに訪日旅行予約のキャンセルが相次いでいるという。両国が理性的な対話によって事態悪化を防ぐほかない。
KEY_WORD:処理水放出_中国_水産物_全面禁輸_:FUKU1_:汚染水_: