[2023_08_25_15]持論 風評被害対策に万全期せ/原発処理水の放出開始 (東奥日報2023年8月25日)
 
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持論 風評被害対策に万全期せ/原発処理水の放出開始

 東京電力福島第1原発にたまる処理水について、政府は海洋への放出を24日に始めた。事故を起こした原発の処理水放出は国内外で前例がない。国内漁業者だけでなく、中国をはじめとする国際社会が政府、東電の対応を注視している。
 そもそも処理水を放出する理由は何か。同原発は2011年の炉心溶融事故で溶け落ちた核燃料を冷却した汚染水を保管している。地下水や雨水が建物内に流入し、放射性物質を含む水と混ざり合うことで新たな汚染水が生じる。発生した汚染水は多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で浄化してきた。原発敷地内には約千基のタンクが設けられ、東京ドーム1杯分に相当する総容量約137万トンを保管するが、保管量はタンク容量全体の98%に達し、来年前半には満杯になる。政府は廃炉作業を進めるため、タンクを減らし敷地を確保する必要があるとして、21年に海洋放出の実施を決めた。
 ただ、ALPSでも、水に混ざると分離できない放射性物質トリチウムは除去しきれない。トリチウムは自然界にも存在し、放射線のエネルギーは弱い。トリチウムを含む水は国内外の原発で運転に伴って大量に発生し海洋放出されてきた。1998年に試験用として初めて使用済み核燃料を受け入れた六ケ所再処理工場でもトリチウム水を海洋放出している。
 東電は、福島第1原発から出るトリチウム濃度を国規制基準の40分の1未満となる、年間22兆ベクレル未満に薄めて放出する計画。ただ、国内海産物などへの風評被害を懸念する漁業者らの十分な理解を得られないまま放出は断行された。全国漁業協同組合連合会の会長らと面会した岸田文雄首相は「関係者の一定の理解を得た」との認識を示したが、青森県漁連の二木春美会長は「青森の漁業者との信頼関係はまだない。放出の時期を先延ばしにしてでも漁業者の理解を得るべきだ」と国の説明会後に語っていた。
 風評は放出前から発生していた。中国は処理水を「核汚染水」と表現して海洋放出を批判し、日本からの輸入海産物の全面的な放射性物質検査を始めた。冷蔵品が約2週間、冷凍品は約1カ月それぞれ通関に留め置かれることになり、事実上の貿易制限だった。さらに中国税関当局は24日、日本の水産物輸入を全面停止すると発表した。
 本県海産物にも既に影響は及んでいる。県産ホタテの中国輸出が停滞したり、香港の取引先から値下げを要求された事例があるという。ジェトロ青森によると、中国に輸出される本県海産物の大半を占めているのがホタテで、21年実績は919トン、売り上げが3億6237万円。その他にもホヤ、スケトウダラ、サバ、ナマコなどがある。「実際に放出されれば、さらなる輸出停止や、値崩れが起きるのではないか」と、県内漁業者は不安を募らせている。
 処理水放出は30年以上の長期にわたる。水産庁は風評被害抑制に向けた対策として、放出後1カ月間は放出口近くでヒラメなどの魚を採取し、トリチウム濃度を毎日調査し、公表する。政府は積極的な情報開示や政府間交渉で風評被害対策に万全を期すべきだ。併せて今回のために設置した総額800億円の基金や、東電による賠償金を使った、きめ細やかな漁業者支援を行わなくてはならない。
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