[2023_08_25_09]処理水放出を受けて禁輸措置、中国にもダメージ 輸送できず「在庫が日本に5トン」…頭を抱える貿易関係者(東京新聞2023年8月25日)
 
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処理水放出を受けて禁輸措置、中国にもダメージ 輸送できず「在庫が日本に5トン」…頭を抱える貿易関係者

 2023年8月25日 20時06分
 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を受け、日本産水産物の全面禁輸に踏み切った中国だが、国民の不安をかき立てるような対抗措置は中国企業にも大きな影響を与える。上海で24日開かれた水産物の展示会「国際漁業博覧会」に出展した、日本産品の輸入を手がける中国の貿易企業関係者らは険しい表情だった。(上海・白山泉、写真も)

 ◆「汚染水は3年後に…」ネットで拡散

 「日本産の品質の良さを理解してほしい」。中国のナマコ加工会社の総経理(社長)、方さん(32)は、手製の地図を片手に福島から放出された処理水の影響が日本海側には及ばないことを力説していた。交流サイト(SNS)には「汚染水は3年後に北太平洋を覆い尽くす」と主張する動画が流れ、多くの中国人消費者が日本産品全体に不安感を抱いているためだ。
 同社は2005年に北海道に工場を設立し、道産ナマコを中国に届けてきた。健康ブームで中国のナマコ需要は増え、22年には日本から中国への農林水産物・食品の輸出額で6番目の79億円に上った。「北海道産はトゲが6列あり、4列の大連産より価値が高い。2倍の価格で売れる」と明かす。ただ24日に禁輸措置が発表されると「中国に出す在庫が日本に5トンもある」と嘆いた。
 冷凍のイカやサバを日本から輸入する中国企業の幹部は「海上輸送中の商品は港に入れないという連絡が通関代理業者からあった。そのまま船を日本に戻すしかない」と残念がる。
 当局の禁輸措置に先駆け中国メディアが日本産食品をやり玉に挙げたこともあり「海産物は必需品ではない。食べなくても問題ない」と話す人は少なくない。

 ◆「食品輸入の政治利用」は中国の常套手段

 経済団体関係者は「若者の失業など深刻な国内経済から関心をそらすためだろう」と指摘。中国の水産物貿易会社の営業責任者は「日本産の輸入・販売とも多くは中国の業者が行っている。打撃を受けるのは中国企業だ」と打ち明ける。
 台湾の頼清徳副総裁が南米訪問の際、米国を経由すると、台湾産マンゴーから「害虫が検出された」として輸入停止にするなど中国の食品輸入の政治利用は常套手段だ。2010年に中国の民主活動家、劉暁波氏のノーベル平和賞受賞が決まるとノルウェーとの関係が悪化し、一部禁輸措置でサーモン輸入は激減した。
 ただ、18年に禁輸が解除されたノルウェーサーモンは、今年の漁業博覧会で日本産マグロに代わる主役の一つとなっていた。中国で10年以上海産物貿易に携わる日本人は「解除までに時間はかかるかもしれないが、日本産が競争力を維持し続ければ、いずれ中国市場で復活できるだろう」と期待している。
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