[2023_08_06_01]トルコ・シリア大地震から半年 被災地域ではいまも厳しい生活 (NHK2023年8月6日)
 
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トルコ・シリア大地震から半年 被災地域ではいまも厳しい生活

 5万6000人以上が死亡したトルコ・シリア大地震から6日で半年となります。被災した地域ではいまも多くの人たちがテントやコンテナの仮設住宅で避難生活を送るなど厳しい生活を余儀なくされています。
 ことし2月6日に発生したトルコ・シリア大地震では
 ▽トルコで5万783人
 ▽隣国シリアでおよそ6000人のあわせて5万6000人以上が死亡しました。

 このうちトルコ南部のハタイ県では、被害を受けた建物を重機で取り壊す作業が続いていて、幹線道路沿いには、被災者が暮らすテントやコンテナの仮設住宅がいまも、数多く見られます。
 トルコ政府は来年2月までにおよそ32万世帯分の公営住宅を完成させる予定で、ことし10月以降、完成した住宅から順次、被災した人たちの入居を始めたいとしています。
 一部の地域では水道や電気などのインフラも復旧せず、連日40度近くまで気温が上がる厳しい暑さの中、避難生活を余儀なくされ日中は熱のこもるテントにはいられないと、ひさしの下で過ごす人もいます。
 一方、内戦下のシリアでは被害の実態の把握が難しく、国際的な支援も十分に届かない状態が続いています。
 被害が大きかった北西部ラタキアで医療支援に携わっている日本赤十字社和歌山医療センターの薬剤師、榊本亜澄香さんは「物資があるのに届かないというもどかしい思いを日常的に抱えています。困っている人はまだまだいて、現地は混乱の中にあり時間が必要です。シリアにも関心を持ち続けてほしいです」と話しています。

 シリア北西部 テント生活の避難者が増加

 シリアで最も大きな被害を受けた町のひとつ、北西部ジャンデレスでは、今も多くの人がテントでの暮らしを余儀なくされているほか、インフラの復旧のめどもたたず、避難を続ける人は、仮設の貯水タンクから生活用水をバケツに移して洗濯などをしていました。
 また町の中心部では、解体作業が続く一方、壊れた建物がそのまま残されていたり、道路脇にがれきが積まれたままになっていたりしていました。
 自宅が壊れ、住めないままとなっている43歳の男性は「大地震から半年たっても変わらずテント暮らしだ。今はただ住める場所がほしい」と話していました。
 また44歳の男性は「地震の前の状況まで戻るには、住まいと仕事が必要だ。ジャンデレスでは仕事がない」と話していました。
 地元の支援団体の担当者は「あらゆる組織が厳しい夏を前にテントで暮らす被災者を守る活動をしているが、当初に比べてテントで暮らしている人は2倍になっている」と話しています。
 大地震から半年となるなか、当局の調査で、倒壊のおそれがあるとして自宅から立ち退きを迫られた人たちが新たにテントでの生活を余儀なくされ避難者はむしろ増加しているということです。

 ユニセフ・シリア事務所 “中長期的な支援が必要”

 シリアでは地震でおよそ2000校の学校が被害を受け、倒壊を免れても避難所として使われるなど、子どもたちの教育に大きな影響が出ました。
 シリアの首都ダマスカスにあるユニセフ・シリア事務所の根本巳欧副代表は、地震直後からこれまでに5回、被害を受けた北部の地域を訪れています。
 根本さんが先月訪れたラタキアやアレッポではほとんど学校が授業を再開しているということで「来月から始まる新学期にはすべての学校で子どもたちが通えるよう復旧を急いでいます」と話しました。
 シリアでは10年以上内戦が続き、追い打ちをかけるように地震がありました。
 子どもたちの中にはもともと学校に通えていない子や、一見元気そうに見えても、大きなストレスを抱えている子もいるほか、上下水道などのインフラは内戦が原因で地震前から壊れていたものも多く復旧にはまだ長い時間がかかるとして、根本さんは中長期的な支援が必要だと訴えています。
 さらに地震から半年がたつ中、避難所の閉鎖が相次ぎ被災した人がどこにいるかが分からなくなり、支援の場を増やす必要が出るなどよりきめの細かい支援が求められるようになっているということです。
 根本さんは「シリアでは生まれてから平和な時代を知らない子どもたちが今回被災しています。遠く離れた日本にいてもシリアの子どもたちのことを忘れないでほしいです」と話していました。

 「支援ルート」設置期限が切れ 支援が滞る状態に

 国連によりますと強権的なアサド政権と対立する反政府勢力が支配するシリア北西部では、十分な支援が届かず、深刻な事態が続いています。
 OCHA=国連人道問題調整事務所によりますとシリア北西部では400万人以上が支援を必要としていて国連は今月3日までにあわせてトラック3700台分以上の支援物資を北に隣接するトルコから運び込みました。
 国連安全保障理事会の決議で決められた隣国トルコから食料などを運び込む「支援ルート」などを使ったもので、国際社会からの支援の拡大が期待されていました。
 ところが「支援ルート」を維持するための安保理の決議案についてアサド政権の後ろ盾となっているロシアが欧米との対立の中で拒否権を行使し、否決されました。
 支援ルートの設置期限は先月10日で切れ、支援が滞る状態に陥っています。
 現地では別の2つのルートを使って物資の搬入を急いでいるということですが、400万人を超える人々への支援には到底十分ではなく、深刻な事態が続いています。

 現地で活動する日本人 支援の行く先見届ける必要性訴える

 シリア保健省とOCHA=国連人道問題調整事務所によりますと、シリア国内ではおよそ6000人が死亡したほか、1万人以上がけがをしました。
 ただ支援関係者の中には、正確な被害状況を把握するのは難しいと話す人もいて、実際の犠牲者数はより多い可能性もあります。また世界銀行は、シリアの物理的な被害額についてGDP=国内総生産のおよそ10%にあたる51億ドルと推計しています。

 被害額の内訳は
 ▽住宅が最も大きく、ほぼ半分を占めるほか
 ▽医療機関や学校など住宅以外の施設や
 ▽交通や電力、水道などのインフラにも大きな被害が出ています。

 こうした中、国際社会からの支援が続いていて、現地で活動する日本人もいます。
 日本赤十字社和歌山医療センターの薬剤師、榊本亜澄香さんは、5月下旬にシリアに入り被害が大きかった北西部ラタキアで、医薬品の管理や調達を行うほか、医師らとともに被災地を巡回しながら、医療支援に携わっています。
 榊本さんは現地の現在の様子について「中心部ではさら地だった場所に足場ができ建築作業が進んでいるところもある」と話し、少しずつ復興が進んでいると感じているということです。
 一方で、医薬品を発注しても燃料不足や許可がすぐに出なかったりして、ほしいタイミングで手元に届かないことも多いと話していました。
 榊本さんは「物資があるのに届かないというもどかしい思いを日常的に抱えています。支援を送るだけでなく必要とする人に届くまでが重要だ」と話し、支援の行く先を見届ける必要性を訴えていました。
 そのうえで「困っている人はまだまだいて、現地は混乱の中にあり時間が必要です。シリアに関心を持ち続けてほしいです」と話し、支援の継続を求めました。

 トルコ南部では公営住宅の工事が急ピッチで進む

 地震で大きな被害を受けたトルコ南部ハタイ県のイスケンデルンでは、多くの仮設住宅が設置されたものの、いまもテントでの避難生活を余儀なくされている人が少なくありません。
 テントで暮らす60歳の女性は、市の給水車が地区を巡回しなくなり、生活用水の確保に苦労しているとした上で、「足が不自由なので、水を毎日運ぶのは大変ですが、ほかに解決策もなく、大変ですがやるしかありません」と話していました。
 一方、被災者向けの公営住宅の建設工事が急ピッチで進められ、作業員たちが、重機を使いながら、基礎工事などの作業にあたっていました。
 取材した工事現場では、およそ500世帯分の部屋をことし12月までに完成させて、順次引き渡していくということです。現場責任者の35歳の男性は、「人々はいつ公営住宅が引き渡されるか気にしている。期待に応えるために努力している」と話していました。
 公営住宅は政府の補助が出ることで、市場価格の半額以下で購入できるものの、地震で財産を失った人にとっては手が届かないと指摘する声もあります。
 地震で住んでいた部屋が壊れ、高齢の両親を介護しながら仮設住宅で暮らす60歳の女性は、「年金以外の収入もなく、2人の介護をしながら公営住宅の費用は支払えない。将来のことは何も考えられない」と話していました。
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