[2023_07_20_09]【原発事故汚染水の海洋放出】話し合いは十分か? 〜市民と経産省・東電の意見交換会@郡山〜(ウネリウネラ_牧内昇平_物書きユニット2023年7月20日)
 
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【原発事故汚染水の海洋放出】話し合いは十分か? 〜市民と経産省・東電の意見交換会@郡山〜

 福島第一原発で出た汚染水について、海洋放出に反対する「海の日アクション」と同じ7月17日の夜、福島県郡山市内で市民と経産省・東電との意見交換会が行われました。海洋放出したい経産省と反対する市民たち。どちらの話に理があるかを読んでみてご判断いただければと思います。(文・写真/ウネリウネラ牧内昇平)

 意見交換会は17日午後6時半から郡山教組会館でスタートしました。「国・東電と住民との説明・意見交換会を郡山で開く会」という市民グループの要請で実現したものです。主催発表によると約80人が参加しました。政府・東電側の代表者は、経済産業省資源エネルギー庁・参事官の木野正登氏と、東京電力リスクコミュニケーターの佐藤暢秀氏でした。

 前半約30分間が経産省と東電からの説明でした。今月6日の会津若松での意見交換会と同じく、東電の佐藤氏は冒頭で(定型句ではあるものの)「謝罪」をしました。経産省の木野氏からの謝罪はありませんでした。

目次
1. 加害者に「関係者」を線引きする権利はない
2. 政府は必要な話し合いを行ってきたのか?
3. 順番が逆ではないですか?
4. 海洋放出をすることで誰が得をするんですか?
5. データ公表の姿勢は?
6. 海洋放出、責任の主体はどこに?
7. 【ウネリウネラから一言】
8. 皆さまのご意見を募集します

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1.加害者に「関係者」を線引きする権利はない
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 経産省・東電の説明後、約1時間半にわたって市民側代表や会場の参加者との意見交換がありました。
 政府と東電は福島県漁連に対し、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という「約束」を交わしています。「関係者」とは誰のことなのかが議論になっており、最初に質問を行った市民代表の方はまずこのことから指摘しました。

 質問者:原発事故の被害者は「関係者」だと思いますが、どうですか? 東電、経産省どちらの方も教えてください。
 経産省木野氏:「関係者」ですけれども、やはり人によって受ける影響の度合いとか背景が異なるということで、「関係者」の範囲を明確に線引きすることは困難であると考えております。
 東電佐藤氏:「関係者」については人それぞれ、受け手によってさまざまな受け止めがあると考えておりますので、一概には申し上げられないということでございます。
 質問者:私は、加害者が勝手に当事者ぬきで「関係者」の線引きや規定を決める権利はないと思います。その前提で質問します。

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2.政府は必要な話し合いを行ってきたのか?
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 その後、同じ市民代表の方は「地元福島との話し合いが足りない」ということをさまざまな角度から指摘していきました。

 質問者:福島県59市町村中、海洋放出に反対または慎重な対応を求めた自治体議会はいくつありますか? 経産省、答えてください。
 木野氏:すみません。今そのデータを持ち合わせていないのですぐにはお答えできないのですが。
 質問者:意見書を国に提出しています。59市町村中43自治体議会が意見書を出しています。全体の7割にのぼっています。意見書を出した議会に対して説明を行いましたか?
 木野氏:議会に対して説明を行っているところもありますが、40いくつに関してはしておりませんので、すべてではないと思っております。
 質問者:なぜすべてに行わなかったのですか?
 木野氏:要請をいただいた議会については説明をさせていただいておりますが、すべてについては説明を行っていないということでございます。
 質問者:すべてやる必要があったと思います。
 質問者:二つめです。2018年、原子力規制委員会が3000体のモニタリングポストのうち、中通り、会津地方の設置分2400台を撤去しようとしたことは知っていますか? 木野氏:はい。承知しております。
 質問者:原子力規制庁の説明・公聴会が何カ所で開催されたか。結果はどうだったか。知っていますか?
 木野氏:私は原子力規制庁の職員ではないので、詳細については把握しておりません。
 質問者:2018年の6月から11月の5か月で18回の公聴会を行っています。参加者はすべて撤去に反対でした。そして規制庁は自治体住民の意見を聞き、福島県民にとってリアルタイム線量計は、福島で生活するうえで必要なものだとの認識を得て、配置の継続を決定し、現在も継続しています。5か月で18回の公聴会を行っています。そして同じ2018年、資源エネルギー庁は「ALPS処理水の取り扱いに関する小委員会」の公聴会を開いています。その時の意見陳述人は何人で、どのような意見が多かったかはご存じですよね?
 木野氏:ちょっと数字はうろ覚えで恐縮ですが、たしか3回開いて60人くらいの方でしたでしょうか。ご意見をいただいたと思っておりますが、大半は「海洋放出に反対」というご意見だったと記憶しております。
 質問者:44人中42人が海洋放出に反対して陸上での保管を提案しました。しかし委員会の中では初めから「放出ありき」だったため、陸上保管は真摯に検討されませんでした。なぜ、海洋放出の方針決定前に福島県民の意見を聞かないのかについておたずねします。なぜ聞かないのですか?
 木野氏:方針決定の前だと思いますけども、まずですね、さまざまな自治体関係者ですとか漁業関係者ですとか、そういったご意見は聞いておるという認識でございます。
 質問者:首長とか団体の長とかだけで、原子力規制庁が開いたような福島県民に対する公聴会は(方針決定の前後には)一切ありませんでした。

 福島県内では空気中の放射線量を測るモニタリングポストが至るところに立っています。暮らしている場所の放射線量がどのくらいかを知るための大切な機械です。
 原子力の安全をチェックする原子力規制庁の中では、このモニタリングポストを廃止するという案がありました。しかし、住民たちとの18回にわたる話し合いの結果、廃止方針が変わったと市民代表の方は指摘します。
 汚染水の海洋放出に目を転じた場合、そういった住民たちとの話し合いは十分に行われたのでしょうか。2021年4月の政府方針決定前には、政府が主催し、市民が参加できる「説明・公聴会」は3回しか行われませんでした。
 その後は政府主催の公聴会は開催されていません。経産省の木野氏は「自治体関係者や漁業関係者から話を聞いてきた」と説明しました。たとえば2021年4月の方針決定直後に開かれた政府会議(廃炉・汚染水・処理水対策福島評議会)に参加した福島のメンバーは以下の通りです(敬称略)。

鈴木正晃(福島県副知事)、清水敏男(いわき市長)、白石高司(田村市長)、門馬和夫(南相馬市長)、藤原一二(川俣町長)、遠藤智(広野町長)、松本幸英(楢葉町長)、宮本皓一(富岡町長)、遠藤雄幸(川内村長)、吉田淳(大熊町長)、伊澤史朗(双葉町長)、吉田数博(浪江町長)、篠木弘(葛尾村長)、杉岡誠(飯舘村長)、轡田倉治(県商工会連合会長)、佐藤謙二(県商工会議所連合会 総合企画課長)、菅野孝志(県農業協同組合中央会長)、野崎哲(県漁業協同組合連合会長)、西本由美子(NPO法人ハッピーロードネット理事長)、蜂須賀禮子(元国会事故調査委員会委員
)、松崎慎弥(日本青年会議所東北地区福島ブロック協議会副会長)、渡辺隆治(福島県商工会青年部連合会長)、立谷秀清(相馬市長)、大堀武(新地町長)、小井戸英典(県旅館ホテル生活衛生協同組合理事長)、松本秀樹(県森林組合連合会代表理事専務)、真船幸夫(株式会社ヨークベニマル社長)、佐藤洋一(県青果市場連合会長)、鈴木健寿(県水産市場連合会青年部長)、小野利仁(県水産加工業連合会代表)

 2021年5月の会議(ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議ワーキンググループ)の福島メンバーは以下の通りです。

鈴木正晃(福島県副知事)、渡邊博美(県商工会議所連合会長)、菅野孝志(県農業協同組合中央会長)、石本朗(県水産市場連合会長)、鈴木常雄(県旅行業協会副会長)、野崎哲(県漁業協同組合連合会長)、小野利仁(県水産加工業連合会代表)

 政府が会議に招いたのは首長や業界団体の長ばかりで、これだけで市民たちの声を聞いたとは言えない。市民側はそのように指摘しました。

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3.順番が逆ではないですか?
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 政府は今年5月、老朽原発の運転期間を延長させるなど問題点がいくつもある「GX脱炭素電源法案」(原発推進束ね法案、もしくは原子力心中法案)を成立させました。経産省は国会審議の前に全国10カ所で市民との意見交換会を開きましたが、なぜか福島では開催しませんでした。
 市民側はこの点を指摘し、「話し合いが足りない」ことを重ねて問いただしました。

 質問者:今回、原発を推進するGX(グリーントランスフォーメーション)の説明・意見交換会も福島での開催を求める声が多かったのに、福島での開催は避けられましたけれども、なぜですか?
 木野氏:すみません。GXについては担当外なので申し訳ないですが、そこは確認をとれておりません。
 質問者:方針を決定してから「理解を得られるまで説明する」と言いますが、順番が逆ではないですか? 意見を聞いてから方針を決めるのが筋ではないでしょうか? 「理解」の意味はなんですか? 「同意」という意味で使っているんですか? 答えてください。
 木野氏:「理解」については、これからもですね、さまざまな意見を聞きながら判断していきたいと思っております。
 質問者:「同意」ではないんですね? 「意見は聞く」って意味ですか?
 木野氏:そこをどう判断するかは、なかなか…いろいろ…ですね、総合的に判断していかなければいけないと思っています。
 質問者:今ごろそんなこと言っているときですか? 正しい意味で「理解」を得たいのであれば、福島県内各地で、原子力規制庁がやったような公聴会を開くべきですけれども、開く気はありますか? きょうも2週間しか周知期間がなかったのにこれだけ、資料が足りなくなるほど集まっているんですよ。必要じゃないですか?
 木野氏:今までもですね、住民の方、自治体の方、さまざまな団体の方、いろいろ1000回のご意見を聞いているわけでございます。皆さま方とも何度かこうやって会合を持たせていただいているということでございます。
 質問者:1000回というのは、サプライチェーン(農水産物の生産者や加工・流通・小売業者など)への説明会とかだけですよね。私たちは3年も前から公聴会を開くように要求してきましたけれども、計画がないっていうお答えでした。エネ庁(経産省資源エネルギー庁)としてやるべきではないですか? やるべきですよ。福島県民はものすごく怒ってますよ。
 木野氏:くり返しですが、さまざまな住民の方、自治体の方にいままで意見を聞いております。

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4.海洋放出をすることで誰が得をするんですか?
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 質問者:福島県民にとっての海洋放出問題を単純化すれば、交通事故にあってけがをして回復途上にある時に、また同じ加害者がぶつけてきて、「このほうが回復への早道だ」と言っているようなものです。海洋放出は福島の復興を阻害するものであって、県民の利益は一つもありません。もろ手を挙げて賛成している人はいません。海洋放出をすることで誰が得をするんですか? 答えてください。
 木野氏:廃炉を進めることが復興につながるのだと思っております。
 質問者:廃炉の法律も何もないですよね。そうやって「廃炉」というのを使うのはやめてください。以上です。

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5.データ公表の姿勢は?
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 次の市民代表の方は次のように語りました。

 質問者:汚染水はALPSでトリチウム以外の放射性物質を除去していると強調していたんですが、それが嘘偽りだったことが2018年8月、共同通信の報道で分かったわけです。2021年4月にはトリチウム以外の放射性物質を基準以下まで浄化処理した水を「ALPS処理水」と定義しました。しかしALPS等ではトリチウム以外にも炭素14、ヨウ素129、ルテニウム106などを除去できないのが事実ではありませんか。今回の資料にもそういうことは全く書かれていません。負のデータを公表しない。そういう姿勢の表れだと思います。

 これに対して経産省の木野氏はこんな答え方をしました。

 木野氏:2018年8月、62核種がALPS処理水の中に入っているという共同通信の報道があったということは承知しております。ただ、これはですね、データはちゃんと公表しております。トリチウム以外の物質について、あまりその、世間がそういうことを分かっていないということで、共同が報道したということでございまして、まあたしかに我々も積極的に「入っている」というのを言ってこなかったというのは反省点だと思っております。

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6.海洋放出、責任の主体はどこに?
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 また別の質問者は「責任の主体はどこにあるのか?」と問いかけました。

 質問者:「廃炉と復興の両立」、「廃炉を進めるために海洋放出は避けて通れない」。こういう言い方をしますよね。ただ福島県民にとっては海洋放出自体が福島県民を犠牲にするものなのです。被災県民が犠牲になるような復興はありえない! ひたすら愚直に廃炉の作業を進めていくしかない。「復興」を持ち出すのは、これは無理です。馬鹿にしたことです。金輪際、「廃炉と復興の両立」という言葉は使わないほうがいい。(中略)海洋放出の責任の主体はどこにあるんですか? 方針決定は国ですよね。認可などは原子炉規制庁ですよね。事業主体として工事着工するのは東京電力ですよね。どこが最終的な責任をもつんですか? 答えてください。
 木野氏:海洋放出の責任の主体は国と東京電力です。
 質問者:それが曖昧なんですよ。なにか不測の事態があった時に、あるいは生態系への影響など重大事故が生じた場合に、東京電力は「そりゃ国の責任ですよ」、国のほうは「東京電力の責任ですよ」。そういう風にお互いなすりつけるんじゃないですか? どうですか? 仮に被害が生じた場合の立証責任はどこが負うんですか? 個人ですか、国ですか? 改めて責任の主体はどこなのか。国か、東京電力か、規制庁か、はっきりさせてください。
 木野氏:国と東京電力、まあ共同でございます。たとえば被害が生じた場合ということについては、東京電力が賠償いたします。

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7.【ウネリウネラから一言】
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 いかがだったでしょうか? 最初の質問者の方と経産省木野氏との問答からは、政府が福島県内の自治体議会や市民たちと十分に話し合っていないという課題が浮かび上がったと思います。
 この日の意見交換会も、政府主催の公聴会ではなく、市民側の要請によって実現したものです。モニタリングポストの件と同様に、政府はたくさん公聴会を開き、市民たちと十分に話し合うべきだと思います。
 汚染水にトリチウム以外の放射性物質が含まれていることについて、「データはちゃんと公表している。世間があまり分かっていなかっただけ」という経産省の態度は、常識的に考えていかがなものでしょうか?

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8.皆さまのご意見を募集します
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 海洋放出問題について、皆さまのご意見を募集します。長いものも短いものも、海洋放出を支持する声も反対する声もすべて歓迎です。お待ちしております。

【原発事故汚染水の海洋放出】 市民と経産省・東電の意見交換会(後半)
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