[2023_07_19_03]日本の海産物 全面放射線検査 中国放出待たず強硬策 和食熱に冷や水、打撃必至(東奥日報2023年7月19日)
 
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日本の海産物 全面放射線検査 中国放出待たず強硬策 和食熱に冷や水、打撃必至

 東京電力福島第1原発処理水の海洋放出計画に反発する中国が、事実上の対抗措置を打ち出した。放出開始を待たず日本の輸入海産物を全面検査する強硬策に出た。習近平指導部は台湾を巡る対立も背景に「夏ごろ」の放出をにらみ対日圧力を本格化させる構え。中国で盛り上がるすしなどの日本食ブームに冷や水を浴びせ、日本の食品輸出が打撃を受けるのは必至だ。
 日中戦争の発端となった1937年の盧溝橋事件から86年となった今月7日、中国税関総署の「責任者」が突然「日本の核汚染水放出問題」を非難する談話を発表した。中国で日本産食品を扱う関係者の間に不穏な空気が広がった。
 異変が起きたのはその直後。「日本産鮮魚が入らない」。日本の輸入海産物に対する規制強化を受け、日本の刺し身を売りにする上海の日本料理店では、タイを四国産から欧州で水揚げされる別の種類に変更。ハマチも中国産カンパチへの代替を余儀なくされた。
 中国の食品事情に詳しい業界関係者は「処理水放出も始まっていないのに一体なぜ・・・」と困惑。放出が始まれば「日本産の食材が全て扱えなくなるのでは」と頭を曇らせる。
 折しも中国は新型コロナウイルスの感染拡大で日本への渡航が難しくなったことで日本食ブームに沸いている。特に海鮮料理の人気は高く、上海では大手回転ずしチェーン「くら寿司」が6月に中国大陸1号店をオープン。同業の「はま寿司」や「スシロー」も大陸に20店舗以上を構え、店舗数を増やしている。
 日本の貿易関係者は、中国の措置により「日本食文化の普及だけでなく、中国人のライフスタイルにも影響が出るだろう」と衝撃の大きさを予測した。
 中国は、日本が2021年4月に海洋放出方針を決めた直後から反対の論陣を張った。同月に開かれた日米首脳会談では共同声明に台湾問題が盛り込まれた。中国政府系メディア関係者は「中国側には処理水問題に乗じて、台湾問題で圧力を強める日米をけん制する狙いがあった」と指摘する。
 また北京の外交筋は「台湾問題だと日米欧を同時に批判せざるを得ないが、処、理水問題は日本だけを標的にできる」と分析。中国政府が放出による健康リスクを大々的にあおった結果、「放出を前に海産物を買いだめする動きも出ている」(山東省の政府関係者)。
 中国の過剰反応≠フ背景には、放出批判キャンペーンを展開してきた手前、振り上げた拳を下ろせない事情もありそうだ。
 日本にとって農林水産物・食品の輸出相手国・地域としては中国が最大。それに続く香港は今月、処理水を放出すれば「10都県の水産物を輸入禁止とする」と発表した。日本の輸出拡大目標に暗雲が漂う。
 外務省幹部は今回の中国側の規制措置について「事実であれば非科学的な対応だ」と憤る。別の幹部も「国際ルールに抵触する」と問題視。中国の出方を見極め、日系企業に実害が出ていないかどうか情報収集を急ぐ。
 日本は国際的な安全基準に合致するとした国際原子力機関(IAEA)包括報告書を丁寧に説明するしかないとの立場だ。放出計画に波立つ日中。それでも外務省幹部は夏ごろの放出開始方針は「揺るがない」と断言する。
  (上海、東京共同)
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