[2023_07_06_12]<社説>原発処理水 放出「強行」は禍根残す(東京新聞2023年7月6日)
 
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<社説>原発処理水 放出「強行」は禍根残す

 東京電力福島第一原発の「処理水」の海洋放出をめぐり、国際原子力機関(IAEA)は、国と東電による放出計画は「国際的な安全基準に合致する」と評価した。しかし、漁業者、消費者、そして国際社会の不安は募る。IAEAの報告を放出開始の“お墨付き”にすべきではない。
 福島第一原発の1〜3号機には溶け落ちた核燃料を冷やすため、水を注ぎ続けなければならず、これに加えて地下水や雨水が流れ込むため、一日約九十トンのペースで放射能汚染水が発生している。
 汚染水に含まれた放射性物質の大半は多核種除去設備(ALPS)で取り除くことが可能だが、水とそっくりなトリチウムは残る。このため、専用のタンクにくみ上げて、原発敷地内に保管してきた。しかし、千基を超えるタンクが敷地内に密集し、廃炉作業に支障が出るとして、政府は一昨年四月、濃度を国の基準値未満に薄めた上で、海に流す方針を決めた。設備も整い、今夏にも放出にかかる意向を示している。
 IAEAは、人や環境への影響は「無視できるほどごくわずか」としたものの「海洋放出の方針を推奨するものでも、支持するものでもない」との留保も付けた。
 トリチウムは自然界にも存在し、海洋放出は国際的に認められているものの、事故原発で発生した処理水の影響は定かでなく、除去装置のトラブルも考慮に入れる必要がある。
 IAEAも「放出開始後も監視を続ける」としており、三十年に及ぶ長期放出計画の安全性が保証されたわけではない。
 風評被害を恐れる漁業者と政府の間には「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との約束がある。対岸の中国や韓国などからの不安の声も高まっている。このまま放出に踏み切れば「強行」のそしりを免れ得まい。
 廃炉を円滑に進めるためには“処理水の処理”が不可欠だとしても、漁業者、消費者、そして国際社会の理解は足りていない。IAEAの見解を盾に、拙速に進めるべきではない。不信と不安も「除去」してからだ。
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