[2023_07_06_11]理解醸成道半ば 処理水福島評議会 大熊町長「汚染水と同一視多く」 いわき市長「安全=安心ではない」(福島民友2023年7月6日)
 
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理解醸成道半ば 処理水福島評議会 大熊町長「汚染水と同一視多く」 いわき市長「安全=安心ではない」

 東京電力福島第1原発の周辺自治体や政府、関係団体などによる廃炉・汚染水・処理水対策福島評議会は5日、いわき市で開かれた。放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出を巡り、地元関係者からは国内外の理解醸成が途上にあり、科学的な事実に基づく情報発信を強化するよう国や東電に求める意見が相次いだ。海洋放出が国際的安全基準に合致するとした包括報告書を4日に公表した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が出席し「処理水の最後の一滴が安全に放出し終わるまで福島にとどまる」として、IAEAが長期的な監視を続けると明言した。
 国や東電の担当者が処理水の海洋放出に向けた進捗(しんちょく)や風評対策の取り組みを説明した。内田広之いわき市長は包括報告書が示した安全性を評価しつつ「安全と安心はイコールではない。理解醸成は途上で、情報発信を続けていく必要がある」と訴えた。
 福島第1原発立地町の吉田淳大熊町長は「いまだに多くの人が処理水と汚染水を一緒にしており、これを理解してもらわないと風評被害は抑えられない」と科学的根拠に基づいた不安の払拭を求め、野崎哲県漁連会長は「われわれが反対している中で処理水海洋放出の事業が進んでいるという緊張感を持ってもらいたい」と国と東電に注文を付けた。
 グロッシ氏は会議途中から出席した。海洋放出に対する地元の不安や懸念に理解を示しつつ、「懸念をいっぺんに解決できる魔法のつえはない」とした上で、数十年はかかるとされる廃炉作業を見据え、「20年後、30年後もいろいろな点検や確認をする。このような場もこれが最後ではない」として継続的に地元との議論を続ける意向を示した。
 グロッシ氏はIAEAという組織について「悪い物や臭い物を政治的に隠したり正当化したりする役目はない。国際機関としての経験を皆さんと共有したい」と中立的な第三者の立場で処理水放出に関与する姿勢を強調した。
 IAEAは5日、福島第1原発構内の新事務本館1階に事務所を開設した。
 グロッシ氏が岸田文雄首相に提出した包括報告書は、処理水の海洋放出計画は「国際的な安全基準に合致している」と結論付けた。海洋放出による人や環境への影響は「無視できるほどごくわずか」と評価した。ただ、漁業者や周辺国の不安は払拭し切れておらず、政府がいかに関係者の理解を得て信頼関係を醸成するかが焦点となる。

 ■放出設備あす合格 規制委 使用前検査問題なし

 原子力規制委員会は5日の定例会合で、東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出する設備を対象に実施した使用前検査について、合格を示す終了証を7日に東電に交付する方針を示した。終了証交付で海洋放出に向けた設備面での準備は完了し、岸田文雄首相が放出開始時期を判断する前提が整う。
 規制委は今回の使用前検査で移送、希釈、放水の各設備に問題ないと確認した。既に終了証を交付している測定・確認用設備と合わせて設備全体の検査を終えた。保安検査では組織体制や運転・保守管理の手順など、放出に向けて整備すべき項目が実施計画に基づき適切に整備されていると認めた。
 岸田首相は風評対策や国際原子力機関(IAEA)の報告書に対する理解の進展を見極め、夏ごろとする放出開始時期の具体的な検討に入る。松野博一官房長官は5日の記者会見で、夏ごろまでの海洋放出を目指す方針に変更はないと説明し「安全性確保や風評対策の取り組みの状況を政府全体で確認し判断する」と改めて強調した。
 ただ、漁業者を中心に海洋放出に伴う新たな風評発生への懸念は根強い。松野官房長官は「漁業者の懸念の声は承知している。意思疎通を密にして丁寧な説明と意見交換を重ねたい」と述べた。中国の反発には「中国は事実に反する内容を発信している。科学的根拠に基づき、高い透明性を持って、中国を含む国際社会に日本の立場を丁寧に説明し、理解が深まるよう努力する」とした。
 処理水を海洋放出する海底トンネルなどの設備は6月26日に東電の工事が完了。規制委は同28日から3日間、放出前に処理水と海水を混ぜる希釈設備や、緊急時の遮断装置など設備全体が正常に作動するかどうかを現地で確認した。
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