[2023_07_04_09]IAEA報告書、処理水放出「安全基準に合致」「支持ではない」(毎日新聞2023年7月4日)
 
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IAEA報告書、処理水放出「安全基準に合致」「支持ではない」

 東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出する計画を巡り、来日した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が4日、計画が国際的な安全基準に合致しているとした包括報告書を公表した。政府は夏ごろに処理水の海洋放出を始める計画で、その前に国際的な「お墨付き」を得た形だ。
 IAEAは日本政府の依頼を受け、2年間にわたって放出計画の安全性を検証。処理水を放出しても人や環境に与える影響は無視できる程度だとした上で「海洋放出を推奨、支持するものではない」とした。さらに、第1原発内に事務所を設置し、処理水の放出中や放出後も安全性評価を続けるとした。
 グロッシ氏はこの日、岸田文雄首相と面会して包括報告書を手渡し「科学的かつ中立的で、日本が次のステージに進むにあたって決断を下すのに必要な要素がすべて含まれている」と説明した。
 岸田首相は「日本や世界の人々の健康や、環境に悪影響がある放出を認めることはないと申し上げてきた。引き続き、科学的根拠に基づいて、高い透明性をもって国内外に丁寧に説明したい」と答えた。
 政府は、放出設備の完成▽IAEAの包括報告書▽原子力規制委員会の使用前検査――の三つを海洋放出の前提条件にしている。設備はすでに完成しており、規制委の検査も週内に終了証を交付する見通しで、3条件がそろうことになる。松野博一官房長官は4日の記者会見で「春から夏ごろとしている海洋放出の方針に変更はない」と述べた。
 一方で政府と東電は、処理水について「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」と地元漁業者らと約束している。漁業者らは放出に一貫して反対しており、中国や韓国など海外からも反対や懸念の声が上がっている。与党内には「海水浴シーズンは避けた方が良い」(山口那津男・公明党代表)という声もあり、政府が最終的に決断する海洋放出の時期が焦点になる。
 東電の計画によると、第1原発で発生する汚染水を多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で処理し、アルプスでは取り除けないトリチウム以外の放射性物質の濃度を基準値未満にする。その上で、トリチウムが国の基準の40分の1未満になるように処理水を海水で薄め、海底トンネルを通して沖合約1キロへ放出する。完了には数十年かかる見通しだ。【土谷純一、森口沙織】
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