[2023_06_15_08]火山本部 予算確保に学者側の期待大 縄張り争い、先行き不安も【大型サイド】(静岡新聞2023年6月15日)
 
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火山本部 予算確保に学者側の期待大 縄張り争い、先行き不安も【大型サイド】

 改正活動火山対策特別措置法(活火山法)が成立し、研究活動の司令塔となる政府の火山調査研究推進本部(火山本部)が生まれることになった。気象庁や研究所、大学の観測や調査などをまとめる組織で、地震の分野には同様の本部が既にある。本部の調査研究は火山学者や彼らが教えた学生が働く調査会社が請け負い、予算も流れる。研究費を安定確保するこうした仕組みを学者側は強く望んでいる。一方、事務局を担う省庁側では縄張り争いも予想され、先行きに不安も残る。

 ▽3周遅れ

 5月10日午前、永田町の自民党本部。会合で火山噴火予知・対策推進議員連盟の古屋圭司衆院議員(岐阜5区)は「火山対策は地震から3周遅れている」と力説した。
 プレート境界にまたがる日本列島は地震も火山も多い。噴火能力を秘める活火山は111ある。
 それなのに火山を研究する国立大教授は少なく「40人学級」と呼ばれることも。国立大が法人化した2004年以降、人員も予算も減って弱体化が進んだ。
 転機は14年9月。死者58人、行方不明者5人を出した御嶽山(岐阜、長野)の噴火だ。不安を募らせた地元自治体の声を受けて議員立法の動きが進み、国会審議では与野党が協力した。
 そのたまものが、文部科学省内にできる火山本部。「政府のコントロールタワー」(古屋氏)だ。

 ▽担い手

 モデルとなる地震調査研究推進本部の発足は1995年7月、同年1月の阪神大震災が契機だった。直下型地震は地震予知の夢を打ち砕き、活断層の存在すら住民に伝わっていない状況に批判が高まった。これをかわそうと議員立法で生まれたのが地震本部だった。
 地震予知に代わる目玉は学者が考えた。地域別などの発生確率を推定する「長期評価」だ。政府は予算も人員も出すが、肝心の部分は学者の努力に委ねられた。
 地震と火山の違いは学者の数だ。日本地震学会員の約1600人に対して日本火山学会は約千人。仮に、火山の地質や地下の構造調査といった火山版「長期評価」をやるとなれば、少数の学者に負担がかかる。
 火山噴火予知連絡会(事務局・気象庁)の会長を務める清水洋九州大名誉教授は言う。「国が研究に責任を持つ点は期待したいが、私たちの意見を言える場がない。負担だけ増える恐れがある」

 ▽寄せ集め

 火山本部の事務局を担う文科省には実動部隊がなく、傘下の法人や他省庁からの出向者に実務を頼ることになる。
 同じく省内にある地震本部の事務局は文科省職員が4人程度、気象庁と国土地理院からの出向組が10人程度の「寄せ集め部隊」(関係者)だ。
 発足から30年近いが、気象庁の出向者と文科省組は必ずしも一体となってはおらず「互いに利権や主導権を取り合っている」との見方も。
 予算確保には財務省の理解が不可欠だ。地震に比べて噴火などは圧倒的に数が少なく、火山本部は平時でも役に立っているとアピールしていかなければならない。
 火山本部の維持自体に地道な努力が必要というわけだ。関係者は「『やっている感』が大事だが、地震本部でさえ風当たりが強いのに、火山本部がうまくいくとは思えない」と漏らす。
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