[2023_05_26_01]<社説>原発処理水 放出ありきは許されぬ(東京新聞2023年5月26日)
 
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<社説>原発処理水 放出ありきは許されぬ

 東京電力福島第一原発事故で発生した放射能処理水を巡り、韓国政府の視察団が現地を訪問した。水産物の消費が多い韓国では、放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出への反発が強く、今月七日の日韓首脳会談で、日本側が視察団の受け入れに合意した。
 国際原子力機関(IAEA)が六月末までに公表する最終報告書を受けて、日本政府は今夏にも海洋放出を始める計画だが、処理水の安全性に対する懸念は依然、払拭されておらず、放出を前提に進めることは許されない。
 視察団は韓国原子力安全委員会の劉国熙(ユグクヒ)委員長を団長とし、原発・放射線専門家らで構成。外務省や東京電力関係者から説明を聞いた後、福島で処理水貯蔵タンクや汚染水浄化設備、トリチウムの濃度測定装置などを確認し、意見交換した。
 中国や台湾にも海洋放出を不安視する声がある。特に韓国では政府やメディアが「汚染水」と呼ぶなど反発が強く、福島など八県の水産物輸入禁止も続けている。
 韓国国会で多数派の野党は視察団派遣を「処理水放出を追認するイベントではないか」と批判している。視察団は追加の視察や資料提出を求めており、日本政府は誠実に対応すべきである。
 日本政府は、処理水に含まれるトリチウムは放射線の力が弱く、海外でも海洋放出されているとして安全性をアピールしており、G7広島サミットも、日本側の廃炉作業とIAEAの調査を支持する首脳声明を発表した。
 しかし、日本国内でも福島県の漁業関係者を中心に、風評被害を心配する声は消えておらず、健康被害への疑いも晴れていない。
 海洋放出は三十年にわたるとされ、現状では安全性が十分に担保されているとは言い難い。
 岸田文雄政権は新増設を含む原発推進策に回帰しており、海洋放出もその一環だろう。
 原発が深刻な事故を起こせば、放射性物質を含む処理水の問題に直面することは避けられない。処理水の安全性が十分に確認され、厳重な監視体制を整える前に、海洋放出を強行すべきではない。
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