[2023_05_18_05]柏崎刈羽原発 東電が描く再稼働が「絵に描いたもち」になるわけとは…(東京新聞2023年5月18日)
 
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柏崎刈羽原発 東電が描く再稼働が「絵に描いたもち」になるわけとは…

 テロ対策に不備がある東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)への運転禁止命令が、さらに長期化することが決まった。2年以上かけて改善を図っても、意識改革が必要な課題が残り、解決に要する時間は不透明。再稼働に向けた地元自治体の同意手続きも難航が予想され、東電が描く10月以降の再稼働は絵に描いたもちとなることが確実だ。(小野沢健太、渡辺聖子)

 柏崎刈羽原発のテロ対策不備 2020年3月以降、侵入検知装置が多数故障し、代わりの対策も不十分で侵入を検知できない状態が最長で1年近く続いた。11年3月の福島第一原発事故後の経営悪化によるテロ対策費の削減などが要因。20年9月には男性社員が同僚のIDカードを無断で使い、原発の心臓部である中央制御室に不正入室した。規制委は21年4月、原発内の核燃料の移動禁止を命令した。

 ◆「甘い見通しで事態を悪化させる」今も変わらぬ東電の姿勢

 「意識改革に課題は残るが、東電は改善できると思う」。17日の記者会見で、原子力規制委員会の山中伸介委員長はこれまでの厳しいトーンとは一転し、東電への期待を語った。「大半の課題を解決できた」と根拠を説明した。
 しかし、検査報告書が指摘した残る四つの課題を見ると、どれも基本的な能力や姿勢が疑われるものばかりだ。
 大雪や強風を侵入者と間違えて警報が鳴る課題では、侵入検知装置の調整といった技術的な問題に加え、監視員の人数が足りずに頻発する警報に対応しきれない状況に陥った。
 軽微な違反が起きても会議で報告がなかったほか、ルール通りの手続きがされないままに取り組みを変更したケースもあった。所員に対する監視では、テロ対策の知識が少ない東電社員が監視を担当したり、気づいたことがあっても管理職に報告がないなどの不適切な対応があったという。
 規制委はこれらの課題の詳細や、改善項目の判断根拠については「テロへの脅威を明かすことになる」と詳しい説明をしない。
 柏崎刈羽の所員323人に対する規制委のアンケートでは「工程優先のために検証や安全確認がおろそかになり、不具合が多くなっている」との声も上がった。甘い見通しで事態を悪化させる東電の姿勢は、今も変わらない。

 ◆県が対策を検証方針 地元感情厳しく

 福島第一原発事故の収束作業や賠償などで約16兆円を負担しなければならない東電にとって、柏崎刈羽を再稼働できるかどうかは死活問題。6、7号機を再稼働できれば年間900億円のコスト削減になると試算し、必要性を強調する。
 ただ、再稼働するには運転禁止命令の解除に加え、立地自治体の同意が必要。その対象となる新潟県で混乱が起きている。
 県は再稼働への同意の議論を始める前提として、福島事故の県独自の検証を実施。従来は有識者委員会で検証を総括する予定だった。だが、3月まで委員長だった池内了・名古屋大名誉教授が柏崎刈羽の安全対策も検証するべきだと主張したため、福島事故の検証だけにとどめたい県側と折り合えず、花角英世知事は10日、有識者委員会ではなく県が検証をまとめると方針転換を発表した。「まとめがいつ終わるかは分からない」(県原子力安全対策課)と不透明だ。
 その先の同意の是非についても、花角知事は「県民の信を問う」と明言。失態を続ける東電に対し、花角知事は「原発を運転する適格性があるのか疑問」との発言を繰り返しており、地元感情は厳しい。規制委が東電の改善を認めたとしても、その先には高いハードルが待ち構えている。
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