[2023_05_02_02]「核ごみの最終処分場」巡り 長崎・対馬で議論再燃 安全性や風評被害への懸念も(長崎新聞2023年5月2日)
 
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「核ごみの最終処分場」巡り 長崎・対馬で議論再燃 安全性や風評被害への懸念も

 長崎県対馬市で原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場を巡る議論が再燃している。16年前に市議会が誘致反対を決議したが、その後も人口減少や産業衰退が進む。市商工会などは危機感から、処分場選定の第1段階となる「文献調査」の受け入れ可否の議論を求める請願を検討。市議会に提出するか5月に判断する方針だが、安全性や風評被害への懸念などから疑問の声も聞かれる。
 処分場選定を巡っては、経済産業省が2017年に最終処分ができる可能性のある地域を示した「科学的特性マップ」を公表。火山や活断層が周囲になく、候補地となり得る適地は全都道府県にあり、国土の7割弱が該当した。適地の中で海岸から近い地域は「輸送面でも好ましい地域」とされ、対馬市も分類された。
 2年間の文献調査に応じた自治体や周辺自治体には最大20億円が国から交付される。現在、調査を受け入れた自治体は北海道寿都町と神恵内村の2自治体しかない。
 同市では06年ごろ、交付金や雇用創出を期待する一部の住民や市議が処分事業について勉強会を重ねるなどしたが、07年に市議会が賛成多数で誘致反対を決議した。決議文では市民感情の分断、安全性、風評被害による農畜水産物への影響などを懸念材料に挙げ、議論に区切りをつけた。
 しかし、その後もくすぶり続け、20年の市長選に処分場誘致を掲げる男性が立候補したほか、核のごみの一時保管施設がある青森県六ケ所村などへ複数の市議や一部の市民が視察旅行に行くなどの動きがあった。
 こうした中、市商工会は反対決議から16年間経過しているとして、調査受け入れの議論を求める請願について総代らの意向を踏まえ5月の会合で判断する。処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)による説明会も開いた。山本博己会長は「地域活性化のため議論を喚起したい」と説明。県建設業協会対馬支部も、同様の請願提出の是非を5月の総会で決めるという。
 業界団体の動きに対し、調査に前向きな市議は「対馬に対しての危機感の表れ。交付金を磯焼け対策や出産費補助などに生かすべきだ。調査を受け入れ、問題があれば止めればいい」と話す。一方で別の市議は「調査だけ受け入れ、金をもらうのは“食い逃げ”のようで浅はか」と指摘。「国やNUMOは安全性に対する立証責任を果たしていない。風評で島内の産業に悪影響が出て、雇用はむしろ減る可能性もある」と疑問を呈する。
 4月25日に対馬地区平和労働センターが厳原町で開いた公開講演会では市民から「目先の何十億円で、美しい対馬を売るのか、残念でたまらない。商工会には根本的に考え直してほしい」との声が聞かれた。一方、同26日に上対馬町で反対派市民団体が開いた同様の講演会では「頭ごなしに否定せず情報を入れて、島の将来を皆で考えていけたら」との意見も上がった。
 比田勝尚喜市長は「対馬の未来を考える議論はいいこと」と述べつつ、賛否論議による市民感情の分断に加え、インバウンド(訪日客)などで再び浮揚しつつある観光業や、島の豊かな自然環境への風評被害を懸念。「慎重な判断をせざるを得ない」と話す。
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