[2023_03_31_10]マイクロバスの大きさの小惑星が地球に記録的接近 衛星よりずっと近い上空約3600キロ(島村英紀2023年3月31日)
 
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マイクロバスの大きさの小惑星が地球に記録的接近 衛星よりずっと近い上空約3600キロ

 NASA(米国航空宇宙局)は1月26日午後、小惑星が地球の上空約3600キロをかすめたと発表した。マイクロバスほどの大きさで、直径は3.5〜8.5メートル。記録に残る中では最も地球の近くを通り過ぎた小惑星だ。
 小惑星は地球の半径よりもずっと近くを通った。テレビなどに使われている静止衛星までの距離の約10分の1という近さだった。だが地球に衝突する危険はなかった。南米大陸の南端の上空を通過した。
 この小惑星は、ロシア・クリミア半島のナウチニにあるマルゴ天文台でアマチュア天文家のゲナディ・ボリソフさんが5日前に発見して、以後、世界中の天文台が観測していたものだ。この小惑星は2023BUと名付けられた。なおボリソフさんは2019年に太陽系外から飛来した「2Iボリソフ」彗星(すいせい)の発見者として知られている。
 2013年、17メートルの大きさの小惑星がロシア西南部のチェリアビンスクに落ちてきた。小惑星は2023DWとほぼ同じ大きさだ。この衝撃波で東京都の面積の7倍もの範囲で4000棟以上の建物を破壊し、重軽傷者1500人を生んだ。
 もちろん、小惑星は下を見て落ちてくれるわけではない。都会のような人口密集地だったらもっと大変だった。
 科学者は手をこまぬいているわけではない。地球に近づいている天体を調べるいくつかの「地球近傍天体観測計画」が動いている。主として米国と豪州だ。
 だが、チェリャビンスクに衝突した隕石は事前に発見できなかった。
 カナダ・ブリティッシュコロンビア州で2021年にこぶし大の小惑星が住宅の屋根を突き破って就寝中の女性のベッドに落ちてきた。幸いにも頭に当たることなく、女性は危機一髪で助かった。天井に真新しい穴が開いていた。もちろんこんな小さなものは地球近傍天体観測の範囲外だ。
 数十メートル以上の天体は、地球の近傍に100万個もある。しかし、そのうち発見されているのは1万個ほどにしかすぎないのだ。
 2023DWもアマチュア天文家が見つけるまで誰にも知られないまま地球に近づいていた。
 いまの探査技術では将来を知るにも限界があるのだ。Jアラートも、もちろん対応していない。
 一般的に新たに発見された小惑星は、最初に観測された時点では危険性が大きそうに見える。しかし大抵の場合、地球に対する脅威は追加的な観測が行われれば減少するものだ。この2023BUも例外ではなかった。
 小惑星の軌道は地球の重力の影響を受けて変化する。この2023BUの場合も、地球に大きく接近したために通過後に軌道に変化が生じた。地球に接近する前までは太陽の周りを回る約359日で周回していたが、通過後はこの軌道が引きのばされ425日で太陽の周りを1周する軌道になった。
 私たちは、将来の大地震や火山噴火だけではない、地球に落ちてくる小惑星という未知の危険も知らないまま、毎日をすごしているというべきなのである。
 私たちは忘れているが、地球には天井がないのだ。
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