[2023_04_18_05]【解説】 ドイツが脱原発を実現 国民の意見は今も割れている デイミアン・マクギネス、ベルリン特派員(BBC2023年4月18日)
 
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【解説】 ドイツが脱原発を実現 国民の意見は今も割れている デイミアン・マクギネス、ベルリン特派員

 ベルリンのブランデンブルグ門の片側では15日、パーティーが開かれていた。反原子力発電活動家が、60年にわたる闘いの勝利を祝っていた。
 門の反対側では、ドイツに残っていた3カ所の原発の閉鎖に反対する人々が、抗議のデモ行進を行っていた。
 この日の深夜までに、イザール2、エムスラント、ネッカーヴェストハイム2の3基の原発が、全て運転を停止した。
 かつて冷戦中にベルリンを隔てた壁のあったブランデンブルグ門に、原子力が国内を分かつイデオロギー的な断層となって表れた。これは、他にはない感情を揺さぶられる問題だ。特に、欧州での戦争が再び大きくなっている現在は。
 原発支持派も反対派も、相手が不合理なイデオロギーを掲げていると非難している。
 保守派の政治家や評論家は、ドイツが緑の党の信念にとらわれてしまっており、ロシアからのエネルギー供給が減り、エネルギー価格が値上がりしている時に国内の原発を停止したと指摘。また、政府が温室効果ガスの排出量の少ない原子力を使わず、化石燃料への依存を高めていると批判した。
 保守派のキリスト教民主同盟(CDU)のイエンス・シュパーン議員は、「ドイツの気候変動保護にとって暗い日」だと述べた。

 一方の緑の党と左派は、風力や太陽光発電よりコストが高い原発にすがりつくのは非理論的だと指摘する。政府は、老朽化した3原発の維持には多額の投資が必要だと説明。この資金は再生可能エネルギーに回すべきだとしている。
 緑の党の議員らは、保守派が常々、再生可能エネルギーのインフラ拡大策を阻止してきたことを考えると、CDUが突然、気候変動問題を唱え始めたのは奇妙だと話す。
 皮肉なことに、CDUは今こそ原発を守るために闘っているが、脱原発を決めたのはアンゲラ・メルケル前首相が率いていた保守派政権だった。2011年の福島第一原発事故を受けての決定だった。メルケル氏の決定は、原発事故を受けた反原発の雰囲気に後押しされ、有権者に歓迎された。
 この決断は、今後予定されている重要な地方選挙に影響された可能性があるという皮肉を言う人もいる。
 ドイツは現在、電力のほぼ半分を再生可能エネルギーでまかなっている。連邦統計局によると、2022年には44%が再生可能エネルギー由来で、原発が占める割合はわずか6%だった。緑の党所属のロベルト・ハベック経済相は、2030年までにはドイツの電力の80%が再生可能エネルギーでまかなわれると予測。太陽光や風力発電所の建設を迅速化・容易化させるための法律を後押ししている。

 しかしドイツは昨年、ロシア産ガスの代わりに液化天然ガス(LNG)をこれまでによりも多く輸入し、石炭を多く利用した。そのため、再生可能エネルギーの割合は停滞し、二酸化炭素(CO2)の排出量が増えた。これには、環境志向の有権者や反原発活動家ですら、残りの3原発の一時的な稼働延長を支持するようになった。
 シュテフィ・レムケ環境相(緑の党)は14日付の現地紙ターゲス・シュピーゲルに寄稿し、ドイツは「チェルノービリ(チェルノブイリ)のようなヒューマンエラーにせよ、福島のような自然災害にせよ(中略)あるいはロシアの戦争によってウクライナが受けているような攻撃にせよ」、大惨事となる事故が再び起きないようにするために、原発を閉鎖するのだと説明した。
 その上で、再生可能エネルギーの方がより安全で、持続可能性が高く、気候にもやさしく、経済的にも理にかなっているので、ドイツは原発を必要としていないと主張した。
 電力不足や停電が予測されていたにもかかわらず、ドイツでは電力供給が需要を上回っており、昨夏にはフランスにエネルギーを輸出していた。これは、フランスが異常気象のために原発を動かせなかったからだと、緑の党の幹部らは強調している。
 有権者の意見は割れている。今週行われた世論調査では、回答者の59%が原発閉鎖に反対しており、賛成は34%にとどまった。原発支持は、年齢層の高い有権者や保守層に特に多かった。
 しかし、より詳細な質問では微妙な違いが見えてくる。調査会社ユーガヴの調査によると、最後の3原発を当面の間、運転させておくことに賛成した人は65%だったが、ドイツが恒久的に原発を持つことに賛成したのはわずか33%だった。つまり、いつかはコンセントを抜くが、今ではないということだ。

 保守派のマルクス・ゼーダー・バイエルン州首相は13日、イザール2を訪問し、残りの3原発の運転継続だけでなく、すでに停止した古い原発の再稼働を呼びかけた。これには、同州でゼーダー氏が停止を命じた原発も含まれている。
 自由民主党(FDP)党首で、オラフ・ショルツ連立政権で財務相を務めるクリスチャン・リンドナー氏も、政府の公式見解に反発し、3原発を予備電源として運転させておくべきだと述べた。
 この2人は共に、現段階でのこうした見方は技術的にも、法的にも、財政的にも妥当ではないと分かっている。しかし原子炉が実際に存在するかどうかにかかわらず、両者は世論調査を見て、この問題に政治的資本を見いだしている。
 1970年代の反原発運動から生まれた緑の党は、この週末を大きく祝っただろう。だが一方で、対立する政治家たちが将来のエネルギー不足や価格高騰、CO2目標の未達成の責任を自分たちに負わせるつもりだと分かっている。ドイツの原子力発電は消滅してしまうだろう。しかし政治的には、原子力はなお爆発的な威力をもっている。

(英語記事 Germans split as last nuclear plants are shut down)
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