[2023_04_21_01]<社説>脱炭素電源法案 フクシマ忘却宣言だ(東京新聞2023年4月21日)
 
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<社説>脱炭素電源法案 フクシマ忘却宣言だ

 「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が国会で審議されている。「脱炭素」を掲げてはいるものの、原発復権を国が後押しするために「原子力の憲法」といわれる原子力基本法の改正にまで踏み込んだ。
 岸田文雄首相は昨年夏のGX実行会議で、脱炭素の要請とエネルギーの安定供給を名目に「原発依存度を可能な限り低減する」とした福島第一原発事故以来の大方針を「原発を最大限活用する」に百八十度改めた。再稼働の加速などに向けて「国が前面に立つ」との姿勢も打ち出した。
 GX脱炭素電源法案は、首相の方針転換を具体化するために、五つのエネルギー関連法の一括改正を図る「束ね法案」だ。
 このうち原子炉等規制法と電気事業法では「原則四十年、最長六十年」とする原発の運転期間を定めた規定を、原子力規制委員会管轄の炉規法から削除。経済産業省所管の電気事業法に移し、一定の条件下で六十年超の運転を経産相が認可できる仕組みに改める。
 基本法の改正案には「国の責務」という項目が新たに加えられ、「国は、原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用することによる電気の安定供給の確保に資することができるよう、必要な措置を講ずる責務を有する」などと明記。国が率先して原発復権に関与する姿勢を明確にした。
 福島の事故のあと、原発規制の管轄は、推進側である経産省の原子力安全・保安院から、独立機関の原子力規制委に移された。
 法案がこのまま通れば、3・11の重要な教訓である「規制と推進の分離」は崩れ、「国策」の旗のもと、経産省主導で老朽原発の延命が進んでいく恐れが強い。
 3・11以前への回帰であり、「フクシマはもう忘れよう」と、政府として宣言するようなものではないか。
 複数の法案をまとめて提出し、一度の採決で賛否を決する束ね法案には、審議の中で対立点が鮮明になりにくく、あいまいなままで国会を通しやすいとの批判も多い。しかし、五つの個別法案のひとつひとつが、国民全体の暮らし、そして命にかかわる重大な案件だ。「自主、民主、公開」という原子力基本法の三原則に見合う熟議が欠かせない。
 「フクシマ忘却法案」を、このまま成立させるべきではない。
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