[2023_04_09_02]特報!電源開発、大間原発の地震動計算で断層の深さを誤入力 原子力規制庁「極めて重大な事案」(週刊金曜日2023年4月9日)
 
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特報!電源開発、大間原発の地震動計算で断層の深さを誤入力 原子力規制庁「極めて重大な事案」

 キロメートルとメートルを間違えて入力しました──。子どもの話ではない。原発を建設・運転しようとする企業が、重要な安全対策にかかわるところでやってしまったというのだ。その企業とは電源開発(Jパワー)である。原子力規制庁は2月24日、新規制基準適合性の審査会合で「極めて重大な事案」と厳しく指摘した。

 大間原発は改良型沸騰水型軽水炉で、出力は約138万キロワット。濃縮ウランだけでなく、MOX(混合酸化物)燃料の使用も予定している。土木工事は65%まで終えたが、建屋の建設や主要機器の設置・配管は4割弱にとどまっている。
 一方、原発そのものの建設・運転が初めてとなる電源開発(本社東京、渡部肇史社長)は2014年12月、運転に必要な「原子炉設置変更許可申請書」などを提出。原子力規制委員会による新規制基準への適合性審査が進められている。
 その審査で開かれた2月24日の会議(第1117回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合)では、原子力規制庁側から厳しい指摘が相次いだ。
 「今回発覚した地震動評価結果の誤りは、単なる解析データの入力ミスではなく、基準地震動の策定に直結する可能性がある、極めて重大な事案が発生したと認識している」「正しいデータに基づいて審査を進める観点からも大きな支障を生じている」(佐藤秀幸・主任安全審査官)
 電源開発の杉山弘泰副社長は「規制庁さんや社外に誤ったデータを提供したことを深く反省しなければならない」と陳謝した。

 繰り返された委託

 同会議での電源開発の説明によると、建設中である大間原発の北にあるF―14断層の上端の深さを3000メートルとすべきところを3メートルで計算していた。原因は、入力データシートの単位がキロメートルだったのに、計算機プログラムの単位がメートルになっていて、データを手入力する際に間違えた。「キロメートルとメートルの単位換算の暗算程度であれば誤りのリスクはないと考えた」という。
 電源開発は、地震動解析業務をA社に委託している。A社は、内陸地殻内地震の解析業務をB社にさらに委託。そのB社が、「F―14断層による地震」の解析などをC社に委託し、C社が入力を間違った。入力ミスの防止や発見をする機会は電源開発や各委託会社で計14回あったが、チェック機能は働かなかった。
 誤ったデータを用いた結果、21年6月から22年9月までの4回の審査会合に影響が出ていることとなった。

 「事実確認」は1年前

 入力ミスが発覚した経緯も電源開発の能力に疑問を生じさせるに十分だった。
 22年2月7日のヒアリングで同庁審査官から波形の不自然さ(前ページのグラフ参照)について「事実確認」があったが、電源開発は「この程度のレベルならあり得るだろうと思って結果の確認をしなかった」。
 22年12月8日のヒアリングで同庁から再度、「事実確認」があったのが、入力ミスが判明した発端だった。
 電源開発は今年1月6日、D社に解析を依頼。1月13日にD社から「C社の計算結果とは差異が認められる」と報告があり、1月16日になってようやく電源開発が入力ミスを見つけた。
 前出の佐藤審査官は「(規制庁の)コメントがありながら、自分たちでミスを見つけられなかったのは極めて遺憾。(昨年の)2月7日に言われたのになぜ自分たちでチェックしなかったのか」と追及。同社の生沼哲・原子力建築室長は「恥ずかしい限り」と述べている。
 電源開発は今後、地震動について3月中旬までをめどに全数のチェックを進めるとしている。

 電源開発の回答

 筆者は、電源開発に、今回のミスへの基本認識に加え、@基準地震動に最大どの程度影響があるか、A規制庁に提出する書類を作成するのに使っている下請け・孫請け企業の実数、B今後チェックする地震動、地下構造、津波の点検箇所数、C関係自治体への対応方針などを聞いたが、同社広報室は細かな点には触れず、次のように回答した。
 〈今回の件について、会社としても重く受け止めており、今後、再発防止策の策定及び審査資料の点検に最優先に取り組んでまいります。/なお、点検結果については、今後の審査会合の中で再発防止策とともに説明してまいります。/ご質問の大半は、この点検結果にて明らかにされるものと考えております〉

 実はミスだらけ

 実は、同庁の審査で電源開発が犯してきたミスが判明したケースは多い。14年に国と電源開発を訴えた大間原発建設差止等訴訟の原告函館市代理人の只野靖弁護士によると、過去に次のミスがあったという。
@18年10月26日判明。一部地層などの厚さを転記する際に写し間違えた。
A19年4月5日判明。シーム(比較的厚い層にはさまれている異質の薄い層)の走行を示すときに90度ずれた図を示した。
B21年6月11日判明。「地震」記載に対し、(1)根拠資料の参照箇所の誤り、(2)根拠資料の元データの確認漏れ、(3)根拠資料との照合不足、(4)数値の丸めに伴う表記ミス──があった。
C22年4月22日判明。一部新しく削孔したボーリングの位置に関して図に誤りがあった。

 只野弁護士らは3月1日に東京地裁(市原義孝裁判長)であった同差止訴訟の口頭弁論で、今回の入力ミスや過去のミスをふまえて次の準備書面を出した。
〈電源開発は、ずさんな作業により、きわめて初歩的な誤りを繰り返している。口先では『再発防止策を再度徹底・構築』するというものの、これは全く実現されていない。原子力発電所が有する甚大な危険性を考えれば、これらは単なるケアレスミスとして片付けてはならない〉
〈電源開発の能力不足は顕著であり、改善の見通しはまったく立っていない〉
 原告函館市の現担当者は今回のミスについて「率直な感想として、驚きました」と回答。電源開発の函館駐在所長代理が2月1日に説明に来たが、原子力規制委員会のサイトで公開されているよりも簡易な内容の資料だったという。
 繰り返される「過ち」により安全審査は遅れに遅れている。税金の無駄遣いだ。電源開発は原発から手を引くべきではないか。

伊田浩之・編集部
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